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連載

#17 地デジ最前線

人口 800 人の限界集落がかけたNFT デジタル村民、リアル住民上回る

錦鯉のNFTアートの販売サイトは英語で表記されている=ホームページから
錦鯉のNFTアートの販売サイトは英語で表記されている=ホームページから

目次

地デジ最前線
「カッコいい年のとり方」を考えたら、見えにくいモノが見えてきた(PR)

『仮想国家「山古志」づくりを目指します』

昨年12月、noteにこんな投稿がされました。投稿者は山古志住民会議。2004年の中越地震で被害を受けた、新潟県長岡市山古志地域(旧山古志村)の住民らのグループです。

山古志地域の人口は818人(5月時点)。震災前の半分以下になり、高齢化率は55%です。そんな「限界集落」の消滅に危機感を抱いた住民会議が活路を求めたのはNFTでした。

「全部やり尽くした」先の人口減少

代替できないデジタルデータであるNFTは、アート作品の取引で話題の技術です。それがどのように「国づくり」と結びつくのか。そもそもなぜNFTを活用することにしたのか。

「独自財源」「デジタル村民」……noteにつづられた野心的な言葉の裏には、地域の存続をかけた挑戦がありました。

山古志地域は、新潟県の中越地方に位置する豪雪地です。中越地震では震度6強を観測しました。土砂崩れで集落が孤立し、全村民約2200人が長岡市に避難。約3年間の避難生活を送りました。

山古志を含む地域で行われてきた「牛の角突き」は国指定重要無形民俗文化財に指定されている=山古志住民会議提供
山古志を含む地域で行われてきた「牛の角突き」は国指定重要無形民俗文化財に指定されている=山古志住民会議提供

2007年に発足した山古志住民会議は、山古志の復興や地域課題の解決に住民とともに取り組んできました。特産品の魅力を伝えるイベントや暮らしを紹介する動画・冊子の作成、ドローンや自動運転の実証実験……山古志の魅力をさまざまな形で伝えることで、移住者を増やしたいと思い活動してきました。

しかし、震災前に約2200人いた人口は半分以下に減り、高齢者は5割超に。地域作りに取り組む人材の育成や確保は次第に困難になっていきました。

住民会議代表の竹内春華さんは「全部やり尽くした、と言うとおこがましい言い方になるのですが、地域資源を生かしたツアーや情報発信など、本当にありとあらゆることをやってきたという感覚がありました」と話します。

NFTアート購入者を「デジタル村民」に

人口減少という厳しい現実が突きつけられた一方で、住民会議のメンバーは多くの人たちと交流を重ねる中で感じたことがありました。

「山古志の暮らしや文化、アイデンティティーに共感してくれる人がたくさんいる」

山古志に住む人が少なくなったとしても、そのような人たちと一緒に未来の山古志を作っていくことができるのではないか。そうした、住む場所にとらわれず、価値観を共有する人たちによる地域作りを目指して活用したのがNFTでした。

新潟県長岡市山古志地域の錦鯉(にしきごい)をモチーフにしたNFTアート=イラスト・Okazz、山古志住民会議提供
新潟県長岡市山古志地域の錦鯉(にしきごい)をモチーフにしたNFTアート=イラスト・Okazz、山古志住民会議提供

昨年12月と今年3月に、色彩豊かな特産の錦鯉をモチーフにしたNFTアートを国内外に向けて販売。アート作品は「電子住民票」を兼ねたものとし、購入者を「デジタル村民」としました。

2月には、NFTの販売によって集めた独自の「財源」を元にした活動をデジタル村民から募り、投票によって実行する施策を決める「総選挙」を実施しました。

NFT活用の狙いについて竹内さんは「山古志に共感してくれる人たちから、NFTアートの販売を通じてお金をいただくだけではなく、その人たちが持つ知恵やネットワーク、スキルを生かして持続可能な山古志を作っていきたいと考えました」と説明します。

クラファンではなくNFTにした理由

ただ、住民会議では、初めからNFTを使おうと考えていたわけではありませんでした。

山古志を疑似体験できる仮想空間を作り、価値観を共有する人と共同体をつくって山古志を存続させるという構想は、約2年前からあったと言います。

企画書を書き、大手ゲーム会社やシステム会社などに提案をして回りましたが、「バーチャル空間と地域作り、住民機能を一つにするのは盛り込み過ぎではないか」「実現するのには数億円かかる」などと言われて断られ続けます。

山古志地域の棚田=山古志住民会議提供
山古志地域の棚田=山古志住民会議提供

そんなとき竹内さんが、各地で地域課題の解決に取り組む旧知の林篤志さんに相談した際に、提案されたのがNFTでした。NFTを使えば、NFTアートの購入者と地域との関わりをデジタルデータに記録し、購入者同士の共同体も作ることができると聞き、住民会議で描いてきた構想が実現できるのではないかと考えました。

林さんの知り合いで、ブロックチェーン技術に詳しい高瀬俊明さん(TART代表取締役)の技術支援を受け、地震から17年となる昨年10月23日に、バーチャル上に人・モノ・金・情報が集まるコミュニティーを作る「仮想山古志」プロジェクトの開始を発表しました。

お金を集めるだけであれば、ふるさと納税やクラウドファンディングもあります。

ただ、それらは個々人とのやりとりで、広がりが生みづらい点があると住民会議のメンバーは感じていました。「仮想山古志」構想の実現に向け、さまざまな手段を検討する中で、「最後にかけるならこれ」と行き着いたのがNFTという新しいテクノロジーでした。

リアル住民を超えたデジタル村民

旧山古志村が編入した長岡市の人口は26万人。その1%の人口にも満たない山古志地域では今後、行政機能や予算配分の縮小も考えられます。

住民会議によると、生鮮食品を取り扱う商店は地域になく、移動販売車が週に2、3日程度巡回に来るといいます。民間の公共交通バスは撤退し、地元NPOが地域バスを運行しています。

そうした中で、住民会議は国内だけでなく海外も視野にNFTアートの販売を通じて関係人口を作り出し、補助金に頼らない独自の財源による地域作りの体制を考えました。

錦鯉をモチーフにしたNFTアートの第二弾=イラスト・Okazz、山古志住民会議提供
錦鯉をモチーフにしたNFTアートの第二弾=イラスト・Okazz、山古志住民会議提供

現在、デジタル村民は約900人となり、山古志地域の実際の人口を上回る規模になりました。

独自の財源を持ち、その使い方の決定権を持つデジタル村民はどこまでリアルな山古志に関わるのか。竹内さんは「住民とデジタル村民に融合についての葛藤や危惧はあります」と明かします。

しかし、それでもその融合を目指して取り組むのは、リアル住民とデジタル村民が同じ目線に立つことが、山古志の存続において大切だと考えているためです。

「これまでの取り組みは地域が主体となり、ふるさと納税やファンクラブ制度などを通じて、地域外の『サポーター』を集める形で進めてきました。ただ、これからはそうした『ゲスト』ではなく、地域作りに主体的に関わる『ホスト』を増やしていきたいと考えています。そこに向けては葛藤もありますが、葛藤しながらも前に進んでいきたいと思います」

「国づくり」に感じた覚悟

住民会議が目指すのは、「地域住民800人+デジタル村民10000人」の「国づくり」です。

「国づくり」と言うと少し大きな話に聞こえるかもしれません。ただ、取材で竹内さんから15年間に及ぶ住民会議の活動、そこから「仮想山古志」構想を考えるに至った経緯や思いを聞き、その言葉は、リアルとバーチャルを融合させた持続可能な山古志作りという新たな挑戦への覚悟の表れだと感じました。

人口減少は言うまでもなく、日本の多くの地方都市が抱える課題です。

総務省によると、住民の半数以上が65歳以上の高齢者である「限界集落」は、2019年4月時点で2万カ所を超えます。

山古志が挑戦する「国づくり」は、決して山古志だけの問題ではありません。


日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。
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