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コラム

新聞記者なのに選挙のテンションが上がらない…一緒に考えてみた

なにがあれば…なにがあればいいんだ…??

公示日に手を挙げて選挙カーで遊説に出発する候補者=福田祥史撮影
公示日に手を挙げて選挙カーで遊説に出発する候補者=福田祥史撮影 出典: 朝日新聞

目次

もうすぐ参院選があります。
新聞社に入社して13年目、35歳になる私ですが、ぶっちゃけテンションは上がっていません(多分私の一票が大事にされていないような気持ちがしちゃうからかな…)。
「上げるのがメディアの役目だろう」というお叱りの声は甘んじて受け入れます。

でも、無理に上げるテンションってなんなんだろう。

そこに何があれば「よっしゃ投票行こうぜ」ってなるんだ?

各地の選挙管理委員会が投票時間や期日前投票の場所を工夫したりしていますが、どうもそれが本質とは思えない。

なにがあれば…なにがあればいいんだ…??

迷宮入りした私の悩みを聞いてもらおうと、現役の大学生(19~22歳の3人)と話をしてみることにしました。

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情報氾濫、「結論だけ教えて?」もわかる…

ここ数年、10~20代の若者の取材を続けている私は、筋トレのようにTikTokを延々と見続けたり、取材の際にオススメのYouTuberを尋ねてそのチャンネルを見たりしています。

それらを通じて、自分が学生だった頃の感覚と、早ければ小学生の頃からスマホを手に取ってきた世代との感覚が違うことは当たり前のことだと思っています。

なので、「感覚が違う」という前提に立って、大学生に一から教えを請うつもりで聞いてみました。

まずは直球。「情報ってどうやって入手してる?」

ちなみに私が大学生だった頃は、テレビもしくは大学図書館にある新聞でした。なんとなく、網羅的に情報を摂取していたような記憶があります。

「基本、自分の生活に関わりのあるニュースしか興味ありません」

そう話してくれたのは大学2年生、大塚詞葉さん(19)です。

いやまあそうだよね。実際、自分の生活にすぐには影響を及ぼさないように見えるウクライナ情勢も、フランス大統領選もそこまで興味ないよね…。
ただね、影響及ぼさなそうに見えて、実は全部地続きでね…と話し始めたら嫌われそうなので、言葉を飲み込んで彼女の言葉に耳を傾けてみました。

彼女が「生活に直接関わるもの」の一つとしてあげてくれたのは「消費税が上がるとか……」。

なるほど。確かに消費税が上がることは、生活に直結する問題ではあるけど、その消費税が上がるというのはある意味で「結論」です。

でも、ちょっと待って! その前段階で、消費税を上げなければいけない理由が議論されたり、使い道が話し合われていたりします。

そして、もしかしたらその議論の中にはおかしな点があって、それがわかれば消費税を上げない判断になったり、もしくはもっと上げた方がいいという判断になったりするかもしれません。だから……ああ、しまったしまった。また己の目線で話をしてしまうところだった。

いやそうですよね、消費税が上がるというニュースであれば、お財布を持っている自分の話として気になるけど、国が議論の主導権を握っている(ようにみえる)ときは、話が大きすぎて関係ないや、結論だけ教えてって思いますよね。

それに、スマホ、ひいてはSNSに早くからなじみのある世代にとって、情報は完全に氾濫状態です。
なにかアプリを開いたら、様々な立場の人の意見のオンパレード。その中からなにが自分にとって必要な情報や自分にそぐう価値観なのか、暗中模索状態になってしまう。
しかも、スマホの中とは別に、リアルな世界での自分の生活もあるわけです。

忙しい日々の中で、追い続ける情報は生活に密着したものでせいいっぱいでしょう。それ以外は「わかったから、結論だけ教えて?」となる気持ちも、わかる。

野菜売り場で高騰するタマネギを手に取る買い物客=2022年5月20日、東京都練馬区「アキダイ関町本店」、竹花徹朗撮影
野菜売り場で高騰するタマネギを手に取る買い物客=2022年5月20日、東京都練馬区「アキダイ関町本店」、竹花徹朗撮影 出典: 朝日新聞

まず見るのは「コメント欄」

さらに、ニュースについての考え方を聞いていくと、「中立」という言葉が出てきました。

大塚さんは、興味があること以外のニュースを見ても、それを「判断」する材料がないと困ってしまうこともあるそう。

なにかニュースがあったとき、自分がどう思うかよりも、他の人がどう考えているのかが気になるといいます。「前提となる知識がある人の、賛成・反対意見が気になる」

ニュースへの周りの反応が気になるのと同じように、YouTubeで賛否の分かれる話題があったときも、まずコメント欄を開くといいます。「意見を決定するのが得意じゃないんですよね」

周りの反応が気になるというのは、人の意見を聞く耳を持っているという「いいところ」でもありますが、反対に、自分の意見を持ちにくいという結果を招くようにも思います。
人の意見ばかり気にしていると疲れないんでしょうか――。

大学4年生の上田優芽奈さん(22)はこう言います。

「疲れないですよ。中立を探していて、そこに立とうとしているので」

なるほど……。そうか、彼女たちにとって、人の意見を知ることは、「中立」を目指すための過程であり、大塚さんも上田さんも、人の意見を知ることによって、自分の判断を支えるための「正しい」答えを探そうとはしていないのか。

選挙との相性、すこぶる悪いのでは?

一方、この考え方、選挙との相性がすこぶる悪い気がしました。

選挙の構図として、多くは政策や考え方が違う候補者や党が「対立」します。各党はそれぞれ意見が異なる場合が多く、さらに投票行為は誰か一人・どこか一つの党に投票先を決めなくてはいけません。

その際、彼女たちのように「中立」を模索しようとすると、投票先を選ぶのは困難な場合が多いと考えたからです。

大塚さんも上田さんも、すでに自治体選挙などを含め、何らかの選挙の投票には行ったことがあります。
投票の決め手を聞くと、上田さんは「子どもの頃の卒業式に来てくれていた人」。大塚さんは「駅前で握手をしたことがある人」。

目から鱗でした。思わず「へえーーー!」と声が出てしまいました。
というのも、私の感覚では、候補者がどんな考え方で政治をしようとしているのかが投票先を決める上での大きなポイントとするのが「普通」だと思っていたからです。

また、大塚さんが投票するためにほしい情報としてあげるのが、自分と他の有権者との「共通点」です。
ある党に投票する有権者は、なぜその党に投票するのかを知り、その理由の中に、自分と共通する問題意識があるかどうかを知りたいのだといいます。「自分と選び方がかぶる人がいれば、安心してそこに入れることができる」

開票所で投票箱を開け、票を数える選挙管理委員会の職員ら
開票所で投票箱を開け、票を数える選挙管理委員会の職員ら 出典: 朝日新聞

消極的な投票理由、「でも本当は…」

いやしかし、彼女たちは私と同じく選挙や投票に対して全然テンションが上がっていない。

投票の動機を聞いてみると、いずれも「若者の投票率が低かったと言われるのが嫌だから」という理由。

あー、わかるかも。

本来は、「行かなきゃいけないから投票に行く」より「行けば何かが変わるから(もしくは何も変えたくないから)投票に行く」という積極的な理由をもって、投票所に足を運びたい。

ですが、内的動機よりも外的動機で投票所に向かっている有権者も多いのではないかと思えてきました。私も少しそうかもしれない。

有権者の多くが積極的に、自発的に投票に行くには、なにが足りないんだろう。

大塚さんは少し考え込んだあと、「本当は、『この政策を実現してほしいから投票する』という意識になりたい」という葛藤を語ってくれました。

「選挙カーでは名前を連呼するので、顔と名前はわかる。でも、それではその人がなにをしたかがわからない」と話します。大塚さんは「わかりやすい形で、候補者が『これからなにをするか』『これまでなにをしたか』を押し出してくれたら検討して投票に行けると思う」とも話します。

わかる。すごくよくわかる。完全同意です。
できるならば選挙公報ももう少し工夫してもらいたい。

有形無形に関わらず、有権者に選ばれた議員は、必ずなにか仕事をしているはずだし、していないといけない。その仕事がとても見えにくく、わかりにくいのだ。

上田さんも「『(現職の議員については)この人が変えたことはこういうことなんですよ』と短くまとめてほしい」と話します。

「わかりやすく」――。
そういえば上田さんは、ニュースに求めるものについても第一に「わかりやすさ」を挙げてくれていました。
「可処分時間の奪い合い」とはよく言いますが、まさにそれなのだと思います。身の周りの出来事は、必ずしもわかりやすいことばかりではない。でも、現実に時間がない中で、わかりやすさを求めざるを得ない彼女たちの状況が伝わってきます。

一方、わかりやすさを追求した先になにがあるのかな……私はそんなことを考えたりもします。

公示日に手を挙げて選挙カーで遊説に出発する候補者=福田祥史撮影
公示日に手を挙げて選挙カーで遊説に出発する候補者=福田祥史撮影 出典: 朝日新聞

ごまかさず押しつけず

メディアは選挙前、問題に直面している現場を訪ねて「争点」を紹介したりしながら、投票への「機運を醸成」してきました。
「投票に行った方がいいよ」「投票権は行使しないといけないよ」という意見はいずれも正しいです。

正しいですが、選挙にテンションが上がらないという意見を受け止め、それがなぜなのかを深掘りして聞くことから始めないと、積極的な投票動機を増やすことはできないように思います。

投票に行くなら、積極的に行きたい。

じゃあ、メディアがやれることはなんだろう。

有権者の「わからない」を丁寧に聞き、わかっていること・わかっていないことをコンテンツにして提供するというのも一つ。普段彼らが使っているSNSにたくさん情報を投げるのも一つ。
「わかりやすさ」の功罪について一緒に考えてみるというのもありかもしれません。

そうやって、ごまかさず押しつけず、正面から向き合っていくことで、「社会」が身近になっていくような気がしたのですが、どうでしょうか。

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