亜鉛を巡る世界的な事情
そんな同製錬所の夜景が一部のSNSユーザーの間で「今春で見納め」などとささやかれています。背景には昨年報道された同社の事業再編のニュースがあります。
2021年5月、日経新聞は“自動車用鋼板の加工などに使う亜鉛製品は国内市場の大きな伸びが見込めない。生産体制を見直してコスト改善を目指す”として、同社が2022年3月までに安中製錬所の焙焼(ばいしょう)炉などを休止し、焙焼工程を福島県いわき市の小名浜製錬所に集約することを伝えました。
こうした報道が一因となり、同製錬所の夜景が「今春で見納め」と言われ始めたと考えられます。3月にはSNSにその夜景を惜しむ投稿が複数、投稿されていました。しかし、実際には4月に入っても、直近で撮影した夜景の投稿が続きました。どういうことなのか、同社を取材しました。
担当者によれば、同製錬所の一部の設備がすでに停止されたのは事実ということでした。
亜鉛は鉱石を加熱する焙焼炉で鉱石から硫黄分を除去した後、電気分解で亜鉛分を抽出して純度を上げます。安中製錬所にはもともと、焙焼炉1基と電解設備が2基あり、2022年3月までに1基ずつが停止したとのことです。つまり、現在も電解1基は残っています。
そのため「停止した設備の周辺の照明は落ちることがあるかもしれませんが、工場全体の夜景という観点において大きな影響はないと考えます」との説明でした。
事業再編の背景には亜鉛の国内需要縮小などがあるそうです。事業のコンパクト化、設備稼働の効率アップが狙いで、収益構造改善のために製錬工程の合理化を図る、としています。
亜鉛は新型コロナウイルス感染拡大で一時、需要が大きく落ち込み、2020年には一時、世界的に大幅な供給過剰に陥っていました。その後、21年には製造業の回復を背景に供給不足になるなど、需給が不安定になっていました。「夜景」の変化の裏側には、亜鉛を巡る世界的な事情があったのです。
【連載】#ふしぎなたてもの
何の気なしに通り過ぎてしまう風景の中にある #ふしぎなたてもの 。フカボリしてみると、そこには好奇心をくすぐる由縁が隠れていることも。よく見ると「これなんだ?」と感じる建物たちを紹介します。