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#40 どうぶつ同好会
話題の「廃校水族館」正体は? 25mプールにサメ、跳び箱にイモリ
25mプールで泳ぐサメやウミガメ、AEDの収納箱で舞う金魚、跳び箱にはイモリが……。一瞬耳を疑いますが、これらは高知県室戸市の「むろと廃校水族館」で実際に見られる展示です。先日、水族館を紹介するツイートに注目が集まりました。一体どんな施設なのでしょうか?
廃校を利用した水族館はノスタルジーの塊でした pic.twitter.com/d3RLWR7Qz9
— 銀鏡つかさ (@tsukarium) April 22, 2022
ツイートには「エモの塊…行きたい…」「アイデアとセンスがいいな」「なんてファンタジーな水族館」といった反響が寄せられ、29万を超える「いいね」がつきました。
全国の水族館を撮影している銀鏡さん。取材に対し、初めてむろと廃校水族館を訪れたときのことを「まさに学生に戻った気分でした」と振り返ります。
「水族館としてももちろん素敵なのですが、むろと廃校水族館という施設そのものが本当にノスタルジーに溢れていて、下校したくないなという気持ちでいっぱいになりました」
むろと廃校水族館は、2006年に廃校となった室戸市立椎名小学校を市が約5億円かけて改修し、2018年4月にオープンしました。
校舎は鉄筋コンクリート3階建て。2階と3階、屋外プールが水族館です。
2階には直径3mの大水槽が2基と直径3.5mの1基が設置されていて、3階には約5mのミンククジラの標本や室戸の漁業の資料などが展示されています。
大きな水槽のほか、自動体外式除細動器(AED)の収納箱やゴミ箱、跳び箱、手洗い場、理科室にある流し台のついた机など、学校のあらゆる備品が水槽です。
約50の水槽で暮らすのは、50種類1000匹以上の生き物たち。室戸沖に仕掛けた定置網や漁網でとれた魚に加え、「見たことない魚が釣れた」と地元の漁師や親子から提供される魚もいるといいます。
運営は指定管理者となった日本ウミガメ協議会(大阪府枚方市)が担い、職員は6人です。館長の若月元樹さん(47)は、「身の丈にあった運営をして、その辺の魚を見せる水族館」と表現します。
通常、水族館は国内外から魚を集めてきますが、廃校水族館では近くの港にいる生き物が主役です。
「ここはデパートではなくコンビニのような水族館。デパートは家具や洋服も売っているけど、コンビニには売っていない。大きな水族館だとイルカやペンギンがいるけど、ここにはいません」
そんな廃校水族館ですが、いま圧倒的な人気を誇るのは「ボラ」です。絵本の「スイミー」に似ていることから子どもたちが大喜びしているといいます。
若月館長は、「ボラは日本中みんな知っている『THEその辺の魚』だと思いますが、実は美しくて、おいしくて、かわいくて、強い。非常にいい魚です」。
このほか、25mプールで泳ぐウミガメやサメ、エイなども人気ですが、反響が大きいのが「ゴミ」の展示です。
2020年11月から続く企画で、プラスチックなどの海洋ゴミが水槽を漂います。室戸岬沖の太平洋で魚やウミガメに絡まっていたものもあるそうです。
「海や川のものを展示する施設であれば、当然ゴミも自然だろうと思い始めました。生き物目線で海の中ではどう見えるのかを見てみたくて水槽で泳がせています」と若月館長。展示して初めて気づいたこともあります。
「生き物を飼育することによって生態がわかるといいますが、ゴミもその通りです。展示してみるとすごい勢いで劣化をすることがわかりました」
「自然界の海や川では流れや水温の変化、紫外線があり、もっと勢いよく劣化すると考えられます。我々が想像する以上にすごい勢いでマイクロプラスチック化するのではないでしょうか」
ゴミの展示は教材としても関心が高く、様々な学校から見学の問い合わせがあるそうです。
今では地元を代表する施設になった水族館ですが、開館前は反発もありました。
これまでも市で新しい施設を作っては失敗に終わっていた苦い経験があったほか、「廃校」と前面に出すことで「イメージが悪い」と傷ついた地元の人が多かったといいます。若月館長はこう説明します。
「地域で唯一の小学校でした。地元の人は、本人も子どもも親も椎名小学校を出ているので、学校に対する思い入れが違います。いまの校舎に自分は通っていなくても、子どもが通いPTAとして行っていたわけです」
「母校が廃校という地元の人の気持ちを踏みにじる気はなく、いつでも母校にふらっと来て遊べるという思いでやってきました。我々としては廃校と名付けることに罪悪感はありませんでしたがお叱りを受けました」
地元が愛する学び舎を残していくため、学校ならではの発想も取り入れています。
一つは入り口横に設置された「校碑」です。
正面から見ると「室戸市立椎名小学校」と描かれた石碑のようなものですが、実は自動販売機。裏側に回るとしっかり見慣れた飲み物があります。
観光客から「なんという名前の小学校だったんですか?」と聞かれることが多く、若月館長が業者に石碑をデザインしたラッピングを依頼したそうです。
側面には校歌や歴史が書かれていて、地元の常会長(区長)からは「椎名の名前を残してくれてありがとう」と喜ばれたといいます。
ほかにも、開館・閉館時間の呼び方が学校ならではの「登校・下校時間」。新しくやってきた魚たちは「新入生」です。
来館者の中には水族館の世界観に合わせ、「先生、おはようございます」「遅刻しました」と言って入ってくる人もいるそうです。
4月26日、水族館は4周年を迎えました。来館者は46万人を超えます。当初、事業計画に記載していた「1年目に4万人、2年目以降は2.8万人」という数字をはるかに上回りました。
地元をはじめ多くの老若男女から愛され、市内外から修学旅行や職場体験で訪れる子どもたちも大勢います。「日本で一番現役の小中高校が利用している廃校ではないでしょうか。学び舎としての機能も維持しています」と若月館長。
コロナ禍で客足が遠のいたとはいえ、「健闘している」と評価します。
数々の企画で来場者を楽しませていますが、一番は自分や漁師さんたちが「うれしい、ほしい、楽しい」と思えるかどうかを基準にしてきました。
加えて、「あまり頑張ってはいけない」と笑います。
水族館がある室戸市室戸岬町は、高知龍馬空港から車で1時間40分。
「こんな遠いところまで期待感を持ってこられたら困るんです。期待せずに来てもらった方が、喜びが大きいと思うんですよ」
広告費はゼロ。公式HPはなく、発信はツイッターです。プレスリリースも作りません。
「『来てください』と呼ぶよりも、来たい人たちを大事にしようと思っています。お客さんやメディアが来たくなる取り組みをしていきたいです」
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