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「慣らし保育」使ったらダメ? 言い換えの背景にある意識の変化

「『着せてあげるね』という言い方はしません」

保育の主体は誰か=Getty Images
保育の主体は誰か=Getty Images

目次

最近、保育園に入園したての子どもたちが短時間から保育に慣れていく「慣らし保育」の代わりの言葉として、「慣れ保育」が身近で聞かれるようになった気がする――。この春、第2子が保育園に入園した記者が気になった、「どうして『慣らし保育』が『慣れ保育』に言い換えられるようになったの?」。NPO法人こども発達実践協議会の代表理事で、大田区の未来のツリー保育園園長の河合清美さんに聞きました。

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子どもに主体をおいた 「慣れていくための保育」

――「慣れ保育」という言い方を最近よく耳にするようになりました。この言い換えは最近のことでしょうか?

私の周りでは結構前から意識的に言われ始めました。初めて聞いたのは10年ほど前ですが、よく聞くようになったのはここ7年くらいでしょうか。

――「慣れ保育」に言い換える意図はなんなのでしょうか。

大人が主導の 「慣らしていくための保育」 という考え方から 子どもに主体をおいた 「慣れていくための保育」 という意味で 「慣れ保育」と呼ぶ園も増えてきました。
私も「子どもに主体を置いた呼び方」という意図には共感するのですが、個人的には「慣れ保育」というのが国語的にどうかなとは思っています。初めて保育園にお子さんが入園する保護者に「慣れ保育」という言葉を使ってもピンと来ていないようにも見受けられます。もし「慣れ」という言葉を使うなら、省略せずに、「慣れるための保育期間」とした方が意味が通じますね。

――我が家もこの4月、「慣らし保育」・「慣れ保育」で、てんやわんやでした。

私の園では「慣らし保育」とも「慣れ保育」とも呼ばず、「入園当初の保育計画」と呼んでいるのですが、その期間は、もちろん子どもにとって慣れるための期間でもあるのですが、保護者が育児と仕事との両立に慣れる期間でもあり、保育者が新しい子どもたちに慣れる期間でもあります。
そういう意味で言うと、三者にとっての「慣れるための保育期間」ですね。

NPO法人こども発達実践協議会の代表理事で、大田区の未来のツリー保育園園長の河合清美さん
NPO法人こども発達実践協議会の代表理事で、大田区の未来のツリー保育園園長の河合清美さん

「着せてあげるね」はNG

――「慣れ保育」以外にも、保育現場で使われる、子どもを主体に置いた言葉遣いの例はありますか。

うちの園では「してあげる」「させる」という言い方はしません。
例えば、「食事の前に手を洗わせる」ではなく「手を洗うように促す」とか「手を清潔にする大切さを伝えていく」とか、あくまで子どもをサポートする言い方をしています。
この表現は、保育士が働く上で基本となる「保育所保育指針」の表現と重なります。

お着替えを手伝うときも「着せてあげるね」という言い方はしません。
一人で着れない子どもが目の前にいるのを手伝うのは、生活のサポートとしての保育士の仕事です。「お手伝いしましょうか?」というコミュニケーションが大事だと思っています。

もっと言えば、子どもの様子を保護者に伝えるときも「笑ってくれました」とは言いません。子どもはなにも保育者に笑ってあげようと思って笑っているわけではなく、楽しいから笑っているのです。

「させる」意識、違うよね

――保育の現場がそのような言い方や意識に変わったきっかけはあるのでしょうか。

大きなきっかけは、 18歳未満の子どもも権利をもつ主体と位置付けた「子どもの権利条約」が、国連で締結された1989年(日本の批准は1994年)ではないでしょうか。
私は保育士になりたての頃から、子どもの権利条約を勉強し、その理念を大切にしている先輩の先生方と出会ってきたので、「させる」という意識は違うよねという思いを持ってやってきました。
昔は一部の保育者がこだわっていたこの意識は、前々回(2018年)の保育所保育指針の改定あたりから、保育業界のポピュラーな意識になってきているかなと感じます。

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