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テレビ流通じず…開始から挫折した日経テレ東大が勝ち筋をつかむまで
「本格的な経済を、もっとたのしく学ぶ」をコンセプトに、日本経済新聞社とテレビ東京HDが立ち上げたYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」。開設から1年で登録者数は39.2万に上りますが、最初の3カ月は1万に届くのがやっとでした。「テレビを1回捨て、YouTubeに専念している」。そう話すのは、立ち上げから関わるテレビ東京の高橋弘樹プロデューサーです。ヒットに恵まれなかった序盤から、2ちゃんねる開設者のひろゆきさんや米エール大学助教授・実業家の成田悠輔さんを迎えて「勝ち筋」をつかむまで、試行錯誤した1年を振り返りました。
2021年4月1日に産声を上げた日経テレ東大学が、1年間に投稿した動画は約270本。ひろゆきさんと成田さんのダブルMCが、政界などのキーパーソンを招き、国内外の問題に新しい視点を提供し再定義する「Re:Hack」や、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さんがMCの経済討論番組「FACT LOGICAL」といった看板企画を中心に、動画の総視聴回数は5500万回を超えます。
高橋さんによると、動画はテレ東と日経が連携しつつ、5~6人が中心となって制作会社とともに作っています。収録のほかに、ウクライナ問題などの時事ニュースでは、Zoomを使った生配信をすることも。「こんな物の見方もあるのかと、番組を見てくれた人の考え方をリフレーミングしたい」と話します。
数字の分析やビジネス面での運用を含め、両社の関係者約20人が関わる日経テレ東大学。初年度から事業としても黒字を出し「手応えを感じています」と高橋さん。しかし、軌道に乗るまではいばらの道でした。
2005年にテレビ局に入った高橋さんは、一貫してバラエティー番組に携わり、『家、ついて行ってイイですか?』などのヒット番組を作ってきました。
培った撮影や編集の技術を駆使し、タレントとアナウンサーが小難しい経済学を分かりやすく解説――。昨年4月のスタートに合わせて満を持して投じたコンテンツでしたが、ふたを開けてみると視聴回数は数百~数千回止まり。タレントを起用したコンテンツも、1カ月経って1万回を超えるのがやっとでした。
「ショックでしたね。思っていたつもりはないけど、『テレビの方法論で結果を出せるだろう』というおごりがどこかにあったと思います。なのでそのやり方が通じなかったのには、じくじたる思いがありました。これはテレビマンの自分を徹底的に捨てないとダメだと。なので、一度テレビを作るのをほぼやめました」
それでも、転んだらただではおきないのが高橋さんです。コンテンツの改善のため、人気チャンネルや同じような経済番組を数多く研究したといいます。そこで感じたのが「ラジオっぽく使う」ユーザーの存在でした。
「長らくお茶の間にあったテレビでは、視聴者が『見て分かる』番組づくりをしてきました。しかしYouTubeは移動中や料理中、人によっては入浴中など視聴環境が様々です。特にビジネスパーソンは、時間を有効活用しようと、耳だけで楽しむ人も多いことに気がつきました」
メディアの特性のずれを体感した高橋さんや制作チームが出した結論は、「トーク番組」をメインにすること。要となるMCをどうするか。そこで選択したのが「忖度の一切ない人」、「捨て身の人」でした。
「投稿した動画のなかには、再生数が伸びたものもあって。YouTubeで人気の4歳の子が出た回でした。コンテンツの面白さは他の動画も遜色ないと思ったのですが、頭一つ抜けていたんです。子どもならではの、何にも忖度しないコメントが面白かった」
「YouTubeの良さは、テレビに比べて圧倒的に、何かに忖度する必要がないところ。その良さを最大限生かしたいと思いました。パリ在住で日本に一切しがらみのないひろゆきさんと、アメリカの大学に勤めているため日本のアカデミック界になんのしがらみのない成田さんは、企画にぴったりでした」
そして6月下旬、日経テレ東大学は2人が猪瀬直樹元都知事と議論する番組を制作。動画が公開されると、それまでの視聴回数を大幅に超えました。手応えをつかんだ高橋さんは、2人をMCに据えたRe:Hackを7月からスタートしました。
高橋さんによると、Re:Hackでは詳細な台本を用意していないそうです。「初めはしっかりとした台本を作っていましたが、ひろゆきさんと成田さんの話しぶりを見て、2人には自由にしゃべってもらうのがいいかなと。なので最近は、ゲストの情報やどんなテーマで展開していくか、トピックの共有ぐらいにとどめています」
一方で、気をつけているのが「議論の場をしっかり作ること」だと高橋さんは言います。「番組ではピラメキパンダというキャラクターを置いています。MC2人に自由に任せる分、バランスが偏ったり、議論の前提条件が視聴者と共有できなかったりすることがある。そうした映像演出部分を、収録の中で流動的に補うのがパンダです」
「MCとゲストの話が脱線しすぎたら議論を戻したり、『ここは押さえておきたいな』というポイントを代わりに質問したり。終盤でこれまでの議論の集約をすることもあります。自由に議論してもらいつつ、番組として必要な取れ高を確保することは、FACT LOGICALなど他の企画でも意識しています」
Re:Hackの収録は約1時間半行われ、動画は40~50分ずつ2回に分けて配信されます。「トーク番組としては長いかもしれませんが、YouTubeの良いところは、尺を気にせずに深くまで突っ込んでいけるところ。アルゴリズムで考えると短尺の方がいいかもしれませんが、今は深掘りして出演者の魅力や新たな視点を引き出すことにこだわっています」
日経テレ東大学を始め、YouTubeの世界にどっぷりつかるようになった高橋さん。昨年5月には、発信を「封印」してきたTwitterも再開しました。
「テレビ番組を制作していたとき、Twitterは百害あって一利なしでした。Twitterをやると、そこでの評判がどうしても気になりますが、注目度とゴールデン番組の視聴率は完全に真逆だと感じた経験が何度もあって。ここ数年は使用を控えていました」
「年代的にも、視聴スタンス的にもSNSを使用しない人がまだ多く存在する『マス』をターゲットとするテレビと違って、YouTubeはかなりSNSとの親和性が高いと思っています。テレビと違い自力でファンをつけていかなければならないYouTubeで大事なのは、『誰が紹介するのか』です」
「ひろゆきさんが面白いと思っているのか、成田さんが思っているのか。チャンネルでの発信も最初、『日経テレ東大がおすすめ』でいいかなと思いましたが、それも『日経テレ東大を作っている人』ぐらいまでいかないと、受け入れてくれないことが分かってきました」
「ユーザーとの距離で言えば、TwitterなどのSNSも同じ方向を向いています。両方武器にした方がいいと思い、YouTubeでは時に出演者側となり、Twitterの発信も新たに始めました。いずれはしっかり、合法的に私腹も肥やそうと思ってます」
銀の盾送られてきたw
— 高橋弘樹 (@takahashi_ntu) December 16, 2021
100万回再生・維持率50%でTVの視聴率約1%相当。深夜番組くらい。しかも能動視聴で視聴者若い。更にTVの「有限な放送枠」と違い「ほぼ無限の枠」。視聴者1%あたりのリーチ予算安いし「深夜番組の企画通らない」「売り枠ない」と嘆くTVマンは勝手にYouTubeやればいいと思うw pic.twitter.com/EE2JKv531j
3カ月の試行錯誤を経て、看板企画を生み出した日経テレ東大学。6月末には1万ほどだったチャンネル登録者数は、9月末に10万を超え、現在は40万に届く勢いです。視聴回数に基づく広告収益やスポンサード・コンテンツの案件も相次ぎ、チャンネル開始1年目から黒字の見通しとなりました。
「僕の年次で求められるのは、ゴールデン帯でヒット番組を出すこと。部署はテレビを作る部署なので、いまでもしょっちゅう上司から『そろそろテレビを作りなさい』とLINEがきます」
「いまはそれをほぼ捨ててYouTubeと向き合っているので、事業面でもせめて言い訳できる水準の利益を出すことは目標にしていました。利益ベースで見れば、ゴールデンでのヒット企画を出せたぐらいの成果となったので、『職責は果たせた』と言い張っています」
2年目を迎えた4月からは制作態勢が強化され、企画のラインアップもさらに増える予定です。「生配信を活用して時事的なテーマを取り上げたり、社会に直接インパクトを与えたりするような企画や、映像の良さをしっかり伝えられるような特集ももう一度チャレンジしたい」と意気込む高橋さん。目指すのは、テレビ番組を超える存在感を持つチャンネルに育てることです。
「テレビは他局との奪い合いですけど、YouTubeは平和的に新天地を耕すことが出来る。視聴回数が大きくなれば、視聴率換算したときにテレビ以上のプレゼンスを持つメディアとなります。Re:Hackが朝生(朝まで生テレビ!)を超えたら、もう1回テレビに戻ろうと思います」
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