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お金と仕事

ネタは建築現場から〝労働者芸人〟の悩み 「辞めるタイミングが…」

芸風の肝になってしまったアルバイト

ピン芸人のほかに、芸人仲間の作家としても活動するダーヨシさん
ピン芸人のほかに、芸人仲間の作家としても活動するダーヨシさん

目次

2005年に芸人デビューして、3回のコンビ解散を経験。2017年からピン芸人として活動するダーヨシさんは、自称「労働者芸人」です。建設現場での人間模様がネタの供給源という日々。アルバイトが芸風に直結しているダーヨシさんに仕事への思いを聞きました。(ライター・安倍季実子)

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建築現場のアルバイト歴15年

「毎日『なんか面白いこと起これ!』って思いながらバイトしています」というのは、芸歴17年目のピン芸人のダーヨシさん。2020年、「ネタパレ」内の「ニュースターパレード」というコーナーで優勝。同じ事務所のカミナリさんの作家も兼務しています。演者・裏方ともに活躍している実力派です。

優勝を決めたのは、アルバイト先の建設現場で出会った仕事仲間を面白おかしく紹介する「労働者図鑑」というフリップネタ。

「高校卒業後はフリーターになって、コンビニや居酒屋、警備員などでアルバイトをしていたんですが、朝8時~15時っていう勤務時間に惹かれて、28歳から43歳の現在まで、ずーっと建設現場で働いています。その後は、ライブがあれば行きますし、ない場合はネタ作りをしています」

「労働者図鑑」は、ピン芸人になってからはじめた、先輩芸人浜辺のウルフさんとのトークライブで生まれました。

「トークライブのために、日ごろからネタを探すようになって、ある時にバイト先での出来事を話したらウケたんです。そこからいろいろブラッシュアップして、『労働者図鑑』になりました」

ダーヨシさんの仕事は「住設」といわれるジャンルの荷揚げ、手元作業(「住宅設備」の略語)。現在の日当は1万1千円、半日の場合は8千円。お笑いを優先しているため、勤務日数は週3~5日とバラつきがあります。まれに、1日だけという週も。

「僕らは、新築マンション・アパート、戸建て、リフォームで入れるキッチンを担当しています。キッチンカウンターやコンロ、換気扇といった設備が、箱に入れられて現場に届くんで、それを部屋に搬入して開封するまでをやります。一人暮らし用のミニキッチンはそんなことないんですが、戸建てやリフォームの場合は、めちゃくちゃ重たい大理石のカウンターとかもあるんで、現場によって疲労度がかなり違います」

6時頃に起きて現場に向かい、8時から15時まで働きます。現場によっては、定時より早く帰れることもあるのだそう。

「仕事を覚えた分だけ効率よく進むというのはあるんですが、戸建てなどは件数が少ないんで、すぐ終わってしまうこともあります。反対に、タワーマンションの場合は、全然終わらないですよね(苦笑)」

「それまでは飲食店が多くて、力仕事はこれがはじめて。最初は慣れなくて苦労しました」
「それまでは飲食店が多くて、力仕事はこれがはじめて。最初は慣れなくて苦労しました」

建築現場は「ネタの宝庫」

高価な商品を扱っていることもあり、仕事仲間は比較的繊細で、おとなしい性格の人が多いといいます。

「建築現場っていうと、気性の荒いおじさんたちが働いてるイメージがあるかもしれませんが、うちはそんなことないですね。商品や建物を傷つけない、自分たちもケガしないように安全第一ですし、『そこ危ないよ!』ってみんなで声をかけあうのが当たり前です。すごく平和な職場だと思います。たまに荒っぽい人もいますが(笑)」

「前に100キロを越えるキッチン台を搬入した時に、腰を痛めてヘルニアになっちゃったんです。それからは、あまりにも重い設備を入れる現場は避けてくれるようになりました。ほかにも、月一で作業員向けの研修があって、直近であった破損事故の報告や対策方法なんかを教えてくれます。この研修からネタを思いつくこともあります」

穏やかな人が多いアルバイト先で、芸人活動もしやすい環境ですが、自身が芸人をしていることを公表しにくいのが悩みだといいます。

「前は、芸人をしていることをオープンにしていて、『お笑いがんばれよ』とか声をかけてもらうこともあったんですが、『労働者図鑑』をはじめてからは、めっきり減りました(苦笑)。もちろん、中には変わらず応援してくれる人もいますが……」

多少フェイクを入れているけど、ネタを見たら誰のことかわかるため、ダーヨシさんの芸人活動には、触れにくいのかもしれません。

「マメな方ではない」と言いながら、ネタ帳にはメモがびっしり
「マメな方ではない」と言いながら、ネタ帳にはメモがびっしり

「ごめん!」謝りながらネタに

アルバイトと芸人活動が密接に関わっていることで生まれる、プラスとマイナスがあるというダーヨシさん。

「プラス面は、仕事でのストレスが少なくなったことですね」

建設現場だけでなく、どんな職種・業種でも、仕事に関するストレスはあります。建設現場の場合、「真夏日の炎天下での作業は、それだけでいつもよりイライラしてしまう」といいます。

「そんな環境だと、仕事仲間のちょっとしたミスが普段よりも目に付きやすいんですね。でも、『労働者図鑑』をやってるんで、怒りも悲しみも、後で全部ネタにできます。なので、バイト中に嫌なことがあったとしても、後に残るストレスがだいぶなくなりました」

一方のマイナス面は、良心の呵責(かしゃく)に苛(さいな)まれることです。

「仕事仲間のちょっとしたミスや変わった言動を見つけると、『本当にごめん!でも面白いんだ!』と心の中で謝りながらネタにしています(苦笑)。『労働者図鑑』を続ける限りは、この葛藤と戦わないとダメですね。それに伴って、アルバイトを辞めるタイミングが見えなくなったっていうのもあるかもしれません」

「アルバイトが芸風の肝」

「労働者図鑑」は、建築現場のアルバイトをしているからこそ生まれるネタです。

「いつかは芸だけで食べていきたいっていう気持ちはありますが、建築現場のアルバイトがあるから今の僕がいるんで、お笑いだけで食べていけるようになったとしても辞めないかもしれないです。辞めたくても辞めたらいけない、義務感みたいなのがあって、今は『現役の建築現場アルバイト』っていうのが特徴ですし、これが『元・建築現場アルバイト』になったら、説得力や見え方が違ってくる気がしますし……」

「やっぱり、『元』よりも『現役』の持つ力の方が強いと思うんです」
「やっぱり、『元』よりも『現役』の持つ力の方が強いと思うんです」

一方で、まわりの芸人たちが売れていくことへの思いも……。

「今までは、芸人として売れることを遠い国の話のように感じていました。でも、仲のいい芸人が徐々に売れていくのを見て、売れるということは決して夢物語なんかじゃないんだと思うようになりました」

普段から仲のよかったトム・ブラウンが「M-1グランプリ」で一夜にしてブレークする様子を目の当たりにして、夢の世界との距離が「少しリアルに感じた」といいます。

「トム・ブラウンのすごい所は、アンダーグラウンドな笑いをテレビに引っ張ってきたコンビという自覚があって、『M-1』で有名になった翌年も、めちゃくちゃライブに出てたことです。僕の場合は、アルバイトが今の芸風の肝になっています。正直、先のことはわかりませんが、とにかく今できることは、たくさんネタを作って、ライブにも出て、いろいろな人に知ってもらうことですね」

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