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「彫刻家を父に持つとこうなるんだよ」3歳長女の色鉛筆にサプライズ
くるくるとひっくり返して現れたのは…
娘が新年度から保育園で使う色鉛筆。くるくるくると、ひっくり返して現れたのは……。彫刻家である父の「イタズラ心」がツイッターで話題になりました。「名前を入れるところ削っておいて」と言われただけなのに、このサプライズ! 娘の反応やいかに。
ツイッターに投稿されたのは、わずか7秒の動画です。
娘が保育園で使う色鉛筆。
— 京仏師 宮本我休 (@Gakyu_Miyamoto) April 2, 2022
名前を入れるところ削っておいてといわれるとイタズラ心がムズムズと…。
ひっくり返すとお地蔵さん🤭
彫刻家を父に持つとこうなるんだよ😌 pic.twitter.com/cU6PxbOyR0
投稿したのは、京都で仏像の制作や修復をしている仏師の宮本我休さん(41)です。
妻(34)から「名前を入れるところ削っておいて」と言われ、保育園年中の長女(3)が使う色鉛筆を託されました。
色鉛筆の一部を削ったものの、それだけでは仏師の心は収まりません。
「彫刻刀を持つと、形にしたいという欲求がメラメラと湧いてきた」と話す宮本さん。お昼休みの約1時間、彫刻刀で幅1センチにも満たない色鉛筆に「お地蔵さん」を彫りました。普段から繊細な彫刻を扱っているからこその職人技です。
「お地蔵さんは仏様の中でも子どもを守ってくれる仏様。京都にはお地蔵さんの石仏がたくさんあって、子どもを見守る地蔵盆という行事もあります」と話します。
ツイートには21万を超える「いいね」がつき、「ホッコリしました」「良いお父さんですね」「御利益ありそう」というコメントが寄せられました。
ツイートの翌日、満を持して色鉛筆を娘に渡しました。すると娘は一言。
「これ、かみたま(かみさま)?」
「違うよ、まんまんちゃん(主に関西で使われる仏様を意味する幼児語)やで」
宮本さんがそう説明すると、娘はゲラゲラゲラゲラと大爆笑。家族みんなが笑顔に包まれました。
「娘は、『かっこいい』でも『かわいい』でもなく、単純におもしろがってくれました。喜んでくれてうれしいです」
仕事の依頼を多数受けている中での娘へのプレゼント。1時間以内という制作時間で、最大限のパフォーマンスを発揮しました。
「正直1日あったらもっとクオリティを高められるんですけど……お待ちいただいている方を差し置いて半日、1日とかけることはできません。でも、これだけバズるんだったらもっとやっておけば良かったですね」と笑います。
実は、宮本さんが色鉛筆に彫刻を施したのはこれが初めてではありません。
さかのぼること4年前、長男(7)の色鉛筆にも遊び心で「大黒さん(大黒天)」を彫っていました。
「大黒天は五穀豊穣を司る仏様。福徳を授けてくれる大黒さんを息子の守り仏として、保育園をより楽しんでほしいという思いで作りました」
娘の反応と同じく、息子もゲラゲラ笑って喜んでくれました。
しかし、間違って大黒さんの方からも削ってしまい「父ちゃん、また彫って」とお願いされたそうです。当時は時間がとれず彫れませんでしたが、娘にも同じことをしてあげたいと彫刻刀を取りました。
息子のときも娘のときも、選んだのは赤い色鉛筆。なぜなら、「魔よけの色だから」です。
「赤は自分を擁護してくれる色で活力が湧く色。また、お地蔵さんはよだれ掛けに赤が多いので、赤にしました」
子どもたちへのサプライズは遊び心やいたずら心がきっかけでしたが、形を作るにつれて「自分の仕事を身近に感じてもらいたい」という気持ちも湧き上がってきました。
背景には、宮本さんの子どものころの後悔があります。
「僕の父親は公務員で、土地の管理をしていました。話には聞きましたが、仕事をしているところを見たことがなく実感が湧きませんでした」
父が仕事を休んで学校に迎えに来てくれた高校3年生のときのこと。宮本さんは振り返ります。
「しょうもないことで学校まで来てくれた父に申し訳なく、ボソボソっと『仕事休んでもうてごめんな』と伝えました」
「いいよ」とだけ答えた寡黙な父。宮本さんは、そのとき初めて父の仕事について気になったといいます。
「父がどんな仕事をして僕を育ててくれたのか、当時知らなかったのは今でも後悔しています。僕が我が子を育てるときは、父親の仕事はどういうものなのか小さいときから少しでも知ってもらえたらなと思っていました」
その思いから自宅と兼ねた工房を建て、子どもたちが行き来できる空間を作りました。
「削っているところにしょっちゅう入ってきたけど、それもいい時間です。子どもをひざに乗せたり、おんぶしたりしながら彫ったこともありました」
弟子も増え仕事の規模も大きくなったことから、昨年工房は別の場所に移しましたが、ときおり子どもたちが訪れるそうです。
宮本さんの普段の活動は、寺院の仏具や看板制作、彫刻の修復など多岐にわたります。
ファッションデザイナーを目指して短大や専門学校で学んでいましたが、卒業後、仏像の彩色を手掛けたことをきっかけに仏像彫刻に魅せられました。
「服作りは作ったものが翌年には破棄されて新しい流行が始まります。サイクルが早いものづくりが魅力であり面白さであり奥深さですが、その免疫があった僕が仏像制作を手伝って、1000年後、2000年後、3000年後のことを考えたものづくりに出会い、その時間軸にやられました。なんと奥深いんだろうと」
「1000年前の仏像を修復していても、作られた当時の職人の力量を1000年後の僕らが見ることになる。評価されるのは自分がいない世界のことかも知れませんが、自分の作った仏様を自分の子どもが拝んだり、孫が拝んだり、そのまた先のお子孫が拝んでくれると考えると、ものすごくロマンがあります」
今後はYouTubeで彫刻教室や仏像彫刻の魅力を動画で発信していくそうです。
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