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ネットの話題

「楽しい旅ができるように」ロシア関連本扱う書店のポップに共感の声

「戦争反対」ではない表現に込めた祈り

ロシアによるウクライナ侵攻後、ある書店が店舗内に掲げたメッセージが、共感を集めています。
ロシアによるウクライナ侵攻後、ある書店が店舗内に掲げたメッセージが、共感を集めています。 出典: 有隣堂提供

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ロシアがウクライナ侵攻に打って出てから、3週間ほどが過ぎました。緊迫した状況が続く中、ある書店の取り組みが、ネット上で共感を集めています。「本で巡る世界の旅」と銘打ち開催中の書籍フェアに合わせ、平和への祈りを込めたポップを店舗内に設置したのです。企画したスタッフに話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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白い紙につづられた切実なメッセージ

書籍フェアを実施しているのは、有隣堂ルミネ横浜店(横浜市西区)です。欧米からアジア、アフリカに至るまで、世界中の国・地域にまつわる旅行記など約80冊を、店内の一角に並べています。

ひときわ目を引くのがロシア関連の書籍群です。米原万里さんのエッセー『ロシアは今日も荒れ模様』(講談社文庫)、ロシアでの生活と食を描いたシベリカ子さんの漫画『おいしいロシア』(イースト・プレス)など多様な顔ぶれを誇ります。

そして本と本の間をよく見ると、一本のポップが突き立っているのに気付きます。透明のボードに、正方形に切り取った白い紙を貼り付けた、シンプルな外観。青い蛍光ペンで囲われた空間の中に、黒い文字で、こう書かれているのです。

こんな楽しい旅ができるようになってほしいと 心から願います。

3月上旬、関連画像がツイッター上に出回ると、大きな反響が起こりました。「心から同意します。選書も素敵」「こういう表現って好き。泣けてきた」。静かな祈りをたたえた文章に、賛意を示す感想が、数多くつぶやかれています。

ロシア関連の書籍を展示した。有隣堂ルミネ横浜店内の一角。
ロシア関連の書籍を展示した。有隣堂ルミネ横浜店内の一角。 出典: 有隣堂提供

侵攻で思った「穏やかに読んでくれるか」

「同僚から『ものすごいことになっている』と聞いて、初めてネット上の反応を知りました。思いもよらず、びっくりしています」。衝撃を隠せないのは、有隣堂ルミネ横浜店で、書籍フェアを統括する岩堀華江さん(42)です。

同店では月替わりでテーマを変えて、フェアを実施。「旅」を掲げた今回の企画は、春の旅行シーズンに合わせています。新型コロナウイルスの流行で、海外渡航が難しい情勢を受け、「行った気にさせてくれる」本を厳選しました。

選書が始まったのは、今年1月のことです。関心領域や専門性が異なる6人のスタッフで、手分けして進めたといいます。当初からロシアの関連本もリストアップし、読んで楽しい気持ちが湧いてくるような10冊をえりすぐりました。

岩堀さんは元々、ウクライナ関連の報道に、あまり気を留めていなかったそうです。「海外旅行経験がない私にとって、ロシアもウクライナも遠い国でした」

しかしフェア初日の2月24日、ロシア軍が侵攻を始めると、危機感が跳ね上がったと振り返ります。

両国に知り合いが住む利用客もいるかもしれない。穏やかな気持ちで、本を読んでもらえるだろうか――。心配が募る一方、本の内容に問題がない以上、展示を取りやめるわけにもいきません。思いついたのが、ポップを置くアイデアでした。

関西空港で、ウクライナから避難してきた友人らと抱き合う女性(手前)
関西空港で、ウクライナから避難してきた友人らと抱き合う女性(手前) 出典: 朝日新聞

あえて「戦争反対」と書かなかった理由

ウクライナ侵攻の開始以降、「戦争反対」の意思を示すデモが、各地で広がっています。同じメッセージを、シンプルに書き込んでも良かったはずです。あえてそうしなかった理由について、岩堀さんは、次のように話しました。

「個人としては、すぐにでも戦いをやめて欲しい。でもウクライナの人々からすれば、攻め込まれて終わりにはできないという事情もあるでしょう。そんな簡単な話ではないし、『戦争反対』とすると、政治色が出てしまう不安もありました」

「戦争終結後、すぐに街が再興するわけではないと思います。これから長い間、両国を気軽に訪れられなくなるかもしれません。いつか安心して旅行できる未来がやって来て欲しい。そんな思いを抱き、素直に表現しました」

こうした考え方は、旅の力を実感した、自らの実体験にも裏打ちされています。

コロナ禍前は毎年、京都を周遊していた岩堀さん。数年前の冬に赴いた際は、予想外の大雪に見舞われ、旅程が狂ってしまいました。頭になかった金閣寺を訪れると、一面の銀世界で、観光客が行列を作っているのを見て仰天したそうです。

「金閣寺の美しさはもちろん、こんなに多くの人たちが、わざわざ観覧しに来るのかと驚きました。私自身、普段なら、雪が降っただけで自宅に引きこもるでしょう。人間に思い切った行動を取らせてくれる、旅の面白さをかみしめた経験です」

書籍フェアコーナーの様子。
書籍フェアコーナーの様子。 出典: 有隣堂提供

楽しく読書してもらいたいだけ

岩堀さんによると、ポップは3月上旬から設置していますが、利用客から感想を伝えられたことはないそうです。それだけに、ツイッターにおける盛り上がりは、うれしい誤算だったと話します。

その後、フェアで取り扱い中のロシア関連書籍は、順調に売れ行きが伸びています。書棚から展示コーナーに移したことにより、販売実績が増えた一冊もあり、良書の周知に役立っていると言えそうです。

ポップに支持が集まったことを、どう受け止めていますか――。最後に尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。

「実感はないですが、他の人に伝えたいと思ってもらえたのはうれしいです。文面にもある通り、少しでも早く平和に旅ができる日が来て欲しい。そして店のお客様には、楽しく本を読んで頂きたい。それだけですね」

有隣堂ルミネ横浜店の書籍フェアは、3月23日まで実施中です。

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