連載
#52 「見た目問題」どう向き合う?
「私はファッション対象外」アルビノ当事者が抱くオシャレへの戸惑い
体型・障害に縛られず楽しめる世界を
「私の見た目は、ファッション業界から想定されていない」。髪や肌の色が薄く生まれる、遺伝子疾患・アルビノの雁屋優さん(26)は、長らくそう思ってきたそうです。自分に合う色やデザインの服になかなか出会えず、メイク用品選びにも苦労する……。社会の大多数を占める、「ふつう」の外見の人々しか、おしゃれを楽しめないのか。戸惑う中で支えになったのは、友人の言葉と、社会の価値観の変化だったそうです。着飾る楽しみを巡って考えたことについて、雁屋さんにつづってもらいました。
私の髪や目、肌の色は、他の人と比べて極端に薄い。少なくとも、この日本ではとても浮く色彩をしている。ミルクティーブラウンの髪、グリーンとブラウンが混在する瞳、真っ白な肌。自分の容姿を嫌ったことは一度もない。
ただ、「似合う服がない」とは常々感じていた。幼い頃、オシャレに縁のなかった少女がモデルをする、今井康絵さんの少女漫画『シンデレラコレクション』を読んでいたこともあり、ファッションやおしゃれへの漠然とした憧れはあったから、余計だ。
その憧れのままに、ブランドショップを覗(のぞ)いて、ファッション誌をパラパラめくったものだ。私も、着飾る楽しさを味わえる。そんな期待とは裏腹に、ファッションへの興味はどんどん薄れていった。
どの雑誌にも、ブランドショップの商品イメージ写真にも、登場するのは黒髪か少し茶髪のモデルばかり。たまに出てくる金髪の子は、ギャルっぽく派手で、全然私のしたい服装ではない。金髪だからギャルというわけじゃないのに。
ショップで服を合わせてみても、しっくり来る服は少なかった。パステルカラーのフェミニンな服が着てみたかったけれど、着てみれば似合わないことはよくわかった。
色素の薄い私に似合うのは、はっきりした青や緑、そしてモノトーンらしい。これらの色は今でも好きだけれど、パステルカラーの淡い服も、着てみたかった。でも黒髪で、私ほどには肌が白くない人々向けの服から、似合う一着を見つけ出すのは至難の業だ。
私の容姿は、日本のファッション業界に、想定されていない。それどころか疎外されている。そんな気さえした。いつしか、服を選ぶのが、段々と面倒になっていった。
中学高校と制服のある学校に通っていたことも大きいだろう。休日は家で過ごすことが多かったので、服を選んだり、メイクしたりする必要に迫られなかった。
その後、大学生になって、毎日着る服に悩むことになるが、そのときにはもう、ファッションを楽しいと思う気持ちなんてどこにもなかった。
そうは言っても、大学生になれば、服も選ばなければならないし、きれいにメイクした同期の中でノーメイクでいるのも何だか恥ずかしく感じて、仕方なく、本当に渋々、ファッションについて少しずつ調べ始めた。
ネット上で検索してはみたものの、事は思うように運ばなかった。「アルビノの人に似合うメイクやファッション」ではなくて、「アルビノのコスプレをするためのメイクやファッション」ばかりが結果に表示されてしまったのだ。
アルビノのコスプレをしたい人達を、私は否定しない。「アルビノ=白髪・赤目」みたいな一般的イメージには思うところもあるけれど、「こういう風になりたい」と憧れてコスプレされることを、私は好意的に捉えている。
でも、「アルビノの人に似合うメイクやファッション」に辿(たど)り着けなかったので、割と困った。結局、混乱しながら、アパレルショップに足を運んでみた。子どもの頃よりはましだけれど、自分に似合う服があまり売っていないのはよくわかった。
メイク道具にしてもそうだ。私の肌に合うファンデーションは、夏だけの期間限定商品だったり、そもそも色として用意されていなかったりした。
アルビノではない友人達に、そんな経験はない。似合うマスカラを探して、5店舗以上巡ったと話したら、大層驚かれた記憶がある。
疲弊した私は、いつもおしゃれな友人に、つい「似合う服がない」と零(こぼ)してしまった。メイクも服も、自分に合うものを見つけるのが大変だし、ファッションについて、もう考えたくないと本音を口にした。
友人は一通り聞いた後、「私がその容姿だったら、もっと楽しめるんじゃないかと思うファッションがあるよ」と、ブランド名を教えてくれた。直営のショップをのぞいてみると、確かに私に似合うし、着たいと思える服があり、いくつか購入した。
思い返せば、ロリータファッションが好きな別の友人は、私の髪の色を見て、「一度着てみない?」と誘ってくれた。また別の友人も、「地毛でコスプレができるんじゃない?」と提案してくれた。その時は、金銭的に余裕がなくて断ってしまったけれども。
こうした経験は、私に似合う服も案外売っているものなんだなと、少しだけ希望を持たせてくれた。
しかし、服を探すのが困難であることに変わりはない。「ふつう」とされる容姿の人ほど手軽には、メイク道具も服も見つからない。その困難に今でも疲れて、行動するのが面倒になる。
自分に合うメイクやファッションが見つからないという悩みは、他のアルビノ当事者からもよく聞く。特に女性にとっては身近な問題なのかもしれない。
一方で、アルビノとしての容姿を活かして、ファッションを楽しんでいる当事者の方もいる。
アルビノの当事者や家族らの交流を目的とした「アルビノ・ドーナツの会」の代表を務める薮本(やぶもと)舞さんは、アルビノだからこそ似合う服を身につけて講演を行ったり、モデルとしてカメラの前に立ったりしている。
その様子を見ることで、「アルビノの私にもファッションを楽しめる可能性がある」と希望が持てた。ただ現状では、自分なりにおしゃれするのに、ちょっと苦労する。それも事実だ。
「自分に似合う、かつ着たい服を選びたい」というニーズは、立場を問わず高まっている。パーソナルカラー診断や、スタイリストのショッピング同行などのサービスが人気なのは、その表れだろう。
昔に比べて、似合う服を探す手助けをしてくれるサービスは身近になった。私はファッションに疎いので、そういったサービスの活用も検討している。
ここ数年、多様な容姿を肯定しようとする動きがあり、メイクやファッションにおいても、その影響が見られる。
例えば、前述のファンデーションの色についても、アルビノだけでなく、多様な肌の色をした人が購入できるよう、カラーバリエーションを増やしたブランドもある。
服のサイズも平均的な体型の人だけでなく、大柄な人に対応した「大きいサイズ」のコーナーの数が増えてきている。実際に、該当する店舗を利用した、という読者の方もいるかもしれない。
そして近年、身体に障害があっても、ファッションを楽しめるようにと考えられた商品が、少しずつ形になり始めている。UVカットの服、おしゃれな車いす、かわいい義足といった具合だ。
誰もがファッションに興味を持ち、きれいになる努力をしなければならないわけではない。でも、「ファッションを楽しみたい」と思ったときに、自分の身体が衣類や服飾品などの業界に想定されていなくて、諦めるしかないのは、悲しい。
ファッションを楽しみたいと思ったときに、性別や身体の特性に関係なく、誰もが願いを実現できる。そんな世界に近づいていけたらいい。
選択肢が増えることは、きっと世界をより豊かにする。新型コロナウイルスの感染が終息を迎えて、人に気兼ねなく会えるようになったら、私もまた、おしゃれを満喫したい。
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