連載
#125 #父親のモヤモヤ
「奥様のみ」に衝撃…ツイッターの指摘に「ベビーザらス」がすぐ対応
「保護者の続柄に関係なく、制度を利用できるようになるとうれしいです」
神奈川県に住むつくしさん(25)は2月、Twitterにこうつぶやきました。制度というのは、ベビーザらスが展開している「Hello Baby Club」というサービスです。登録した会員を対象に、出産後3カ月まで毎月第1日曜日に買い物した際のポイント20倍になるなどの特典があります。
パートナーが夏ごろに出産を予定しているつくしさんはサービスに登録しようと、県内のベビーザらスを1人で訪れました。手続きの仕方を店員に尋ねると、「登録は奥様でないとできません」。出産を控える「プレママ」に限定したサービスという説明でした。
つくしさんが店を1人で訪れたのは、育児用品を自分だけで買う機会もあるだろうという思いからでした。身分証のほかに、登録に必要な母子手帳もパートナーの許可を得て持参していました。そうした事情を伝えると、パートナーの名前で会員登録は認められましたが、サービスの利用については、「奥様が来店したときのみ」と変わりませんでした。
一方、「産後に奥様の代理で買い物をし、サービスを使うことは可能です。ただ、産前から旦那様に来られるのは……」という言葉も店員からあったといいます。「そんな曖昧な制度なのか……」とモヤモヤを抱いたつくしさんは、店でのやり取りを振り返り、サービスが続柄に関係なく出産を控える親たちが利用できるようツイートしました。
いくつかに分けたつぶやきのなかには、4.1万いいねがついたツイートもありました。ツイートには、「転売など目的外に使われないために妊婦に限定されているのでは」といった声のほか、「私が行ったときは対応してもらえました」という父親の反応も。
店舗として何が正しい対応なのか。プレパパが対象外である理由は。新しい家族が増えるのを待つ親たちのサービスになることを願いながら、つくしさんはベビーザらスを運営する日本トイザらスに問い合わせメールを送りました。
ベビーザらスに産前産後の買物がお得になる制度があると知り登録に行ったのですが、「登録は奥様じゃなきゃダメ」「特典利用も奥様のみ」「クーポン利用も奥様の来店時のみ」と言われてしまい、「私も育児頑張るのでどうか利用させていただけないでしょうか...」という気待ちで話を聞いてきました。
— どさんこ つくし🐮 (@DosankoTsukushi) February 11, 2022
「『プレパパを対象外としているのはなぜか』というつくしさんからのご意見をいただいてその通りだと思い、サービスの見直しにすぐに入りました」
こう話すのは、日本トイザらス広報担当者です。妊婦を応援するサービスとして、2015年のスタートから母子手帳を持参したプレママに登録や利用を限定していましたが、「出産準備と関係がない方の利用を防ぐためで、プレパパを排除しようという意図はありませんでした」と語ります。
その言葉通り、つくしさんの問い合わせから1週間後には、プレママに限らずプレパパも登録、利用できるようにサービスの運用を改定。ホームページでの紹介や全国の店舗で運用変更を知らせるポップが掲示されました。
そして3月11日には、母子手帳の提示についても4月3日から廃止する方針を発表しました。子どもの出産予定日、もしくは誕生日を登録するだけで入会できる制度となります。懸念される目的外の利用については、注意事項をしっかり明記するなどして対応するといいます。「プレママ、プレパパに限らず養子縁組や里親など、赤ちゃんを迎える幅広い家族が利用できるよう簡易な手続きにしました」と担当者は話します。
サービスの対象がプレパパにも広がった知らせは、つくしさんにも届きました。1週間でのスピード対応に、「正直すごく驚きました。世の中では遅々として対応が進まないこともあるなか、こんなに早く動いてくださってありがたいです」とつくしさん。ベビーザらスへの感謝とともに、運用が変わったこともツイートしました。
一連のツイートには、おむつなどベビー用品が転売される事例や妊婦や子どもに対しての迷惑行為があるという話も届きました。「今回の発信を通じて、たくさんの人の話を聞くことができました」と話すつくしさん。
「自分にとって違和感のある制度だったとしても、そうなっている理由が何かしらあるかもしれません。そう考えた上で、やっぱり必要であれば意見をする自分でありたいとこれからも思います」
今回の件を通し、女性や子どもに対して悪質な行為を働く男性の話も沢山聞くことが出来ました。
— どさんこ つくし🐮 (@DosankoTsukushi) February 20, 2022
今後買い物へ行く際はそういった被害があるということを念頭に、より注視して利用しようと思います。
悪質な行為を見逃さないために、多くの善良なパパ・男性と協力して目を光らせていけると嬉しいです。
パートナーと育児を分かち合おうとしているのに、子育ての主体と見られず疎外感を覚える。そうした父親たちのモヤモヤについて考え、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながるはず――。そんな思いで連載を続けていますが、つくしさんの発信とベビーザらスの対応は、それを体現するエピソードだと感じました。
広報担当者によると、今年で7年になるサービスに今回のような指摘はこれまでなかったそうです。「プレママ限定とすることによって、プレパパの方たちに不快な思いをさせてしまっていることに思いがいたらなかった。つくしさんからのご意見やSNSの反応に多くの気づきをもらいました」。元々、運用を改定する方向で進めていたそうですが、プレパパの部分だけでも先行して改定したところに誠実さが現れています。
つくしさんの「制度がつくられた背景を考える」という姿勢にもうなずきました。父親が感じるモヤモヤの裏には、往々にして、性別役割や働き方などの問題がひそんでいます。「多くの母親が直面した困難の追体験かもしれない」と念頭におきながら取材をしていますが、つくしさんの発信も、現状に思いをはせた上での丁寧なメッセージとなっていました。
一つのサービスをめぐる子育て当事者と企業のやり取りですが、こうしたコミュニケーションの積み重ねが、誰もが子育てしやすい環境につながっていくのだと改めて感じた取材でした。
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