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『R-1』バカリズムが見せた「覚悟の審査」すまし顔で辛口コメント

にじみでる“ピンのツッコミ芸”の難しさ

『R-1グランプリ2022』の審査員として存在感を見せたバカリズム
『R-1グランプリ2022』の審査員として存在感を見せたバカリズム

目次

先日3月6日にピン芸日本一を決定する大会『R-1グランプリ2022』(フジテレビ系)決勝戦の模様が放送され、お見送り芸人しんいちが20代目王者に輝いた。決勝メンバーはお見送り芸人しんいちのほか、kento fukaya、吉住、サツマカワRPG、ZAZY、寺田寛明、金の国・渡部おにぎり、Yes!アキトの8名。そして注目したいのが、新たな審査員として加わったバカリズムの存在だ。ぶれない採点とコメントから漂う覚悟。結果、見えてきたのは“ピンのツッコミ芸”の難しさだった。(ライター・鈴木旭)

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緻密さ感じたお見送り芸人しんいち

今大会で見事ピン芸日本一に輝いたのが、お見送り芸人しんいちだ。初の決勝進出、ラストイヤーで王者の座を射止めた。

芸風は、路上ミュージシャンのごとく、ギターを爪弾きながらフォーキーな曲に合わせて切なくも滑稽なエピソードを歌い上げて笑わせるというものだ。「○○好き」「心から応援するよ」と言いながら、そこに至るまでの描写には非常に毒っ気を感じる。

それは、「タトゥーだらけの男が1ラウンドで負けてるところ好き」「『SASUKE』ファーストステージの池で落ちる消防士」といった“見たことはあるが、あまり触れられていない滑稽さ”という種類のもので、それを「肯定する」というところにネタの妙がある。

言い換えれば、「大抵の人間はそんな格好悪い失敗をする」という共感の笑いでもあるのだ。

これに加えて、「1回もテレビ出たことない漫才師の長文の解散発表好き」「MacBook Pro持ってスターバックスいるのに企画書通らないテレビマン」「100万円配ってる時だけフォロワーが多い宇宙旅行の人」など、現代らしい描写も盛り込まれており、より多くの視聴者に響くよう意識して作られたことが読み取れる。

またファーストステージ、ファイナルステージのネタ、どちらもCメロ(ネタにはBメロがないが、大サビ前の静かな部分)で“すでに描写した一節”にスポットを当て、さらにディテールを掘り下げて笑わせるのもうまい。

曲のタイトルを振りにして、最初のAメロでつかみ、Cメロを経てラストまで笑いを積み上げていく。弾き語りでよくある曲構成が十二分に機能した、緻密なネタだと感じた。


ZAZYが僅差で敗れた要因

昨年に引き続き、2年連続で惜しくも準優勝となったのがZAZYである。ファイナルステージの結果が出た後、一度はしゃがみ込み、再び立ち上がってまぶたを閉じたまま微動だにしなかった。よほど悔しかったのだと思う。

ZAZYといえば、金髪にド派手な衣装、フリップを使ったリズムネタが持ち味だ。昨年は4つの大きなフリップを使って披露していたが、今回はノートPCとモニターをつないだ“デジタル紙芝居”で勝負。フリップ芸を軸としつつも、見せ方に工夫が見られた。

そのことで、改善された点が二つある。一つはフリップをめくらずに済むため、余計な不安要素がなくなったことだ。前回大会では、仮止めしたクリップの取り忘れによってめくりが遅れ、ネタのリズムを崩した。これがノートPCの操作によって解消されていた。

もう一つは、言葉のリズムと画とのシンクロ率が上がった点である。ZAZYのネタは、「きぬえにパン、パン!きぬえにパン、パン、パン!」といった形で、名詞や擬音のリズムでノリを作りながら、画と言葉の飛躍によって笑いを増幅させていくのが大きな特徴だ。

これがデジタルになったことで、アニメーションにも似た細やかなカット、ズームや引きの画、効果音との連動まで、非常に高いパフォーマンスを実現させている。ZAZYとしては、最高の形でネタを披露できるようになったわけだ。

にもかかわらず、あと一歩及ばなかったのは、ネタに“ねじれ”がなかったからかもしれない。ピン芸という特性上、演者の役割は基本的に一方向になってしまう。今大会の出場者でいえば、kento fukayaや寺田寛明はツッコミ(または説明)、サツマカワRPGやYes!アキトはボケ(またはギャグ)になる。一方で、お見送り芸人しんいちには、切なくも滑稽なエピソードを「肯定する」というねじれがあった。

ZAZYの場合、紙芝居ネタを軸としていることから、読み手とめくりが演者としての主な役割だ。その域を出るのは終盤の歌唱のみである。「芸人のネタを笑う」という構造上、見る者は必然的にツッコミ視点で眺めることになる。つまり、演者そのものにボケの要素を期待してしまうのだ。

ZAZYの紙芝居は明らかに飛躍した世界で面白くはあるが、いわば脳内のイメージを具現化したものだ。演者としての面白さは、見た目以外の部分では受け取りにくい。そこが僅差で負けてしまった要因ではないだろうか。


秀逸だった吉住と金の国・渡部

ファーストステージで3人が2位(463点)となり、決選投票が行われたのも今大会の見どころだった。お見送り芸人しんいちが3票、吉住が2票、金の国・渡部おにぎりが0票。吉住は僅差で敗れた。

2020年の『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)で優勝、2年連続で『R-1』決勝に残るなど、実力者として知られる吉住。一癖あるキャラクターが感情を爆発させたり、逆に平然と妙なことを言ったりして笑わせるコントを得意としている。見終えた後、若干の後味の悪さが残るのも特徴だ。

今大会では、「芸能人の不倫に異常にキレる女性」というSNS時代らしいキャラクターを演じており、彼女の持ち味がいかんなく発揮されていた。スキャンダル報道後の謝罪の有無、謹慎期間をエクセルにまとめ、さらには自身のYouTubeチャンネルに投稿。その収益を一夫多妻制のアフリカの子どもたちの教育費にあてているという皮肉なオチも秀逸だった。バカリズムが自身の最高得点91点をつけたのもうなずける。

金の国・渡部も、コントの設定に目を引くものがあった。渡部がスウェットのフードをつかまれトンビに連れ去られた状況からスタートするもので、“空中にいる”という非日常感がこちらの想像力をかき立てる。冒頭のインパクトも強いが、何よりも3分間という限られた時間を最大限に使うには非常にうまい設定だ。

ネタは相方の桃沢健輔が作成しているという。渡部の朗らかなキャラクターを十分に理解し、どんな境遇に追い込めば面白くなるのかがよく考えられたネタだと感じた。


伝わりづらいピンのツッコミ芸

審査方式、審査員の顔触れに変化があったのも大会結果に影響を与えている。ツイッター投票がなくなり、審査員は7人から5人に減少。昨年と同じ陣内智則、野田クリスタル、ハリウッドザコシショウに加えて、バカリズムと小籔千豊が新たに選ばれた。

とくにバカリズムは、どんな審査をするのか注目されていた。その中で、トップバッターのkento fukayaに84点をつける。ほか4人の審査員が90点台をつけたため、見ているこちら側にも緊張が走った。しかし、当のバカリズムはすました顔で「見せ方もすごい凝ってて面白かったんですけども、やっぱり舞台上の本人以外の要素(画や音声)がちょっとあまりにも大きかったかな」とコメント。審査基準に迷いがなかった。

kento fukayaは縦長の小道具を6体そろえて合コンネタを披露した。いわばフリップ芸を発展させたようなネタである。審査員の陣内が「フリップの可能性ここまで来たか」と称賛したこともあり、さらにバカリズムの点数とコメントが際立つこととなった。その後も一貫した姿勢を崩さず、決勝メンバーには1点ずつ差をつけて採点している。こうした部分からも、審査員としての覚悟のようなものを感じた。

約2年前、私は『R-1』におけるフリップ芸について「フリップという相方に対して『演者がどんなポテンシャルを持っているか』を示す必要があるだろう」と書いている(2020年4月23日に公開されたwithnewsの「無観客「R-1」で問われたフリップ芸の覚悟 革命家だったバカリズム」)。

【関連リンク】無観客「R-1」で問われたフリップ芸の覚悟 革命家だったバカリズム」

そもそも、コント、歌ネタ、フリップ芸、漫談など多種多様なジャンルを含む“ピン芸”を審査するのは難しい。その中であえて評価の基準を据えるとすれば、「演者1人の持ち味でどう笑わせるか」ということになる。この点からも、“フリップをめくってツッコむスタイル”は、今後なかなか厳しい状況になっていくと考えられる。

それこそ、おいでやす小田が“借金の取り立て講座”という設定を加えて巻き舌でフリップ芸を披露したり、“大げさにツッコむこと自体がボケ”というねじれた見せ方で挑んだりしても『R-1』では優勝できなかった。むしろ、こがけんとユニットを組んで出場した『M-1グランプリ』のほうが世間の反響は大きく、結果もよかった。それぐらい演者1人でツッコミの持ち味を伝えるのは難しいのだと思う。

逆に演者の持ち味を生かす活路がフリップ芸やツッコミ芸にあるのなら、高い評価を受ける可能性もあるだろう。このあたりは、今後に期待したいところだ。


バカリズムの存在感「この人に審査してほしい」

前回大会のバタバタとした放送を考えると、だいぶ見やすくなったのが今大会の印象だ。ファーストステージで2位の決選投票後、改めて敗退の決まった金の国・渡部のネタに審査員がコメントする流れは酷だなと感じたが、そのほかはほとんどストレスなく大会を楽しむことができた。

『M-1』『キングオブコント』と並び、大きな賞レースの一つとして挙げられる『R-1』。ただ、どこか格式が低いイメージも抱かれやすかった。きっとそれは、漫才やコントのように整理されたジャンルの大会ではないことが大きいだろう。そして、もう一つは審査員の顔触れによる影響があったように思う。

「この人に審査してほしい」という期待は、大会に出場する芸人のモチベーションだけでなく、視聴者の興味にもつながる。今年、バカリズムは見事にその役割を果たした。実際にピン芸人として、毎度クオリティーの高い単独ライブを成功させているだけに説得力が違う。

大会に良い刺激をもたらす意味でも、来年もまた一貫性のあるバカリズムの審査に期待したい。

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