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お金と仕事

企業に「見えない施設」で働く障害者 サテライトオフィスという選択

障害者向けの「サテライトオフィス」を展開するスタートライン。バリアフリーが完備されたオフィスにはスタッフが常駐し、何かあればケアができる環境になっている
障害者向けの「サテライトオフィス」を展開するスタートライン。バリアフリーが完備されたオフィスにはスタッフが常駐し、何かあればケアができる環境になっている

目次

バリアフリーを完備したオフィスに集う障害者たちは、別々の企業に就労――。リモートワークを活用した障害者向けの「サテライトオフィス」を展開する企業があります。働き方の選択肢を増やす試みをライターの我妻弘崇さんが取材しました。

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働く選択肢、増やす仕組みを

現在、日本にいる障害者(身体障害者、知的障害者、精神障害者)の数は、約1000万人と言われている。その中で、民間企業に雇用されている人は、たったの約60万人――。

それだけではない。障害者法定雇用率達成企業の割合は48.6%、精神障害者の定着率は1年で50%を切るという状況にある。

「障害者に対する労働環境は、十分な理解が浸透しているとは言い難い状況です。私たちがうまくつなげていきたい」

そう語るのは、障害者雇用の総合コンサルティングサービスなどを展開するスタートライン、クリエイティブ・ブランディング広報チームの藤野祐輝さん。「ただ単に企業と障害者を結びつけるのではなく、障害者の働き方の選択肢を増やす仕組みを作っていかなければいけません」と続ける。

令和3年3月1日、民間企業に対する障害者の「法定雇用率」が、2.2%から2.3%へと引き上げられた。障害者雇用の対象事業所は、これまでの従業員45.5人から、従業員43.5人以上に。つまり、43.5人以上従業員を抱える企業は、障害者雇用促進法によって障害者を雇用することが義務付けられたということになる(業種によっては雇用率が軽減されるケースもある)。

なお、0.5という数字に違和感を覚える方もいるだろうから補足しておきたい。障害者の雇用は条件によって変動する。たとえば、重度の知的障害者(障害者手帳で「A」区分とされている人)であれば「2人」とカウント。一方で、短時間労働者(週あたりの所定労働時間20時間以上、30時間未満の人)として雇用するケースであれば「0.5人」とカウントするなど、障害の重度や雇用条件などによって変わる。

先述したように「法定雇用率」を引き上げるなどして、国も雇用を促進する取り組みをしているのだが、思うような成果につながっていない現状がある。

企業と障害者をマッチングする方法は、ハローワークを通じて求人するというのが一般的だ。しかし、紹介する企業がどこまで障害者支援に理解があるか、ハローワークも把握できていないところがある。

そのため、お互いどういう状況かわからないまま仕事を始めることになり、齟齬が生じた結果、離職につながるというケースが散見している。また、雇用すると調整金が企業に支払われるが、大きくはない金額ゆえに、そこまでして雇用を望まない企業も少なくない。

企業に行かず働く

そこでスタートラインでは、障害者の労働環境に変化を生み出すべく、さまざまな取り組みを行う。その一つが、「サテライトオフィス」の展開だ。

「障害者が企業へ働きに行くのではなく、バリアフリーを完備した弊社のサテライトオフィスでリモートワークを行う、という形で企業の仕事を担っています」(藤野さん)

「都心まで通うのが難しい」「期待される成果を上げられるか不安」。そうした物理的・心理的ハードルを下げるために、障害者が働きやすい環境を用意する。オフィスには、スタートラインの社員が常駐し、定期的な面談・カウンセリングを通じて障害者の戦力化を支援しているという。

現在サテライトオフィスの数は、首都圏を中心に11拠点にまで成長。上場企業を中心に65社以上(約500名の雇用実績)、1年後の定着率は約80%を達成しているというから驚きだろう。

同じオフィスにいながらにして、Aさんは〇〇株式会社、Bさんは△△株式会社という具合に、オフィスをシェアする形で別々の企業に就労しているというのは、リモートワークだからこそ可能な新しい障害者の働き方だ。

バリアフリーが完備されたスタートラインのサテライトオフィス
バリアフリーが完備されたスタートラインのサテライトオフィス

まさに、障害者の働き方の選択肢を増やす取り組みと言えるが、サテライトオフィスはリモートワークと相性の良い企業や、そういったスキルを持つ障害者に対するアプローチとも言える。そのため同社では、屋内型農園を活用した「IBUKI」なるサービスも手掛けている。

「IBUKIは利用する企業に雇用された障害者が、ハーブや葉物野菜などの栽培装置が設営されたブースの中で、栽培品種の選定や育成をします。栽培した作物は、企業ごとの用途に合わせて二次加工をおこない、ノベルティなどに活用されています」(藤野さん)

サテライトオフィスサービス同様、障害者雇用支援のプロフェッショナルが常駐し、安心して働ける環境を整備。2017年からスタートした「IBUKI」は、今では18カ所を構えるほどで、そのニーズは高い。

「IBUKI」で育成されたハーブは、障害者を雇用する企業ごとの用途に合わせて二次加工される
「IBUKI」で育成されたハーブは、障害者を雇用する企業ごとの用途に合わせて二次加工される

金銭面でも支持

こうした「外からは仕組みの見えづらい施設」での障害者雇用に対して、一部心ない声も届くというが、藤野さんは「実際に働いてる方の表情を見ていただきたいです」と言葉に力を込める。

事実、スタートラインの就労支援は、福祉サービスではなく、一般企業での就労となる。たとえば障害者の労働形態には、雇用契約を結んで給料をもらう「就労継続支援A型事業」と、雇用契約を結ばずに作業の対価として工賃を得る「就労継続支援B型事業」が挙げられるが、これらは福祉的就労という位置づけで、一般企業での就労という扱いにはならない。

就労継続支援B型事業所の全国の月額平均工賃は約1万5千円であり、厚生労働省は工賃向上のための支援を行っているものの、スタートラインの支援は最低賃金が保障される通常同様の雇用形態を実現させており、障害者の働き方の選択肢を増やしている。つまり環境面だけではなく、金銭面でも障害者や家族から支持を集めているのだ。

私たちは障害者を考えるとき、一概に「障害」という大枠の中でくくりがちだ。しかし、人間一人一人に個性や得手不得手があるように、障害者にも合う、合わない、得意、不得意がある。障害にも身体、知的、精神というように差異がある。

Aさんは一人で集中して働きたいかもしれないし、Bさんは誰かがいる現場で和気あいあいと働きたいかもしれない。そうした働き方の多様性が、障害者のフィールドにも広がっていかなければいけないわけだが、スタートラインは“当たり前に選べる”ようにするため、障害者を取り巻く就労環境を変えようとしている。

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