連載
#43 Busy Brain
うっかりな私、受け入れてくれる「ダメ友」小島慶子さんが抱く安心感
失敗を笑い合うことが生きる力になる
40歳を過ぎてから軽度のADHD(注意欠如・多動症)と診断された小島慶子さん。自らを「不快なものに対する耐性が極めて低い」「物音に敏感で人一倍気が散りやすい」「なんて我の強い脳みそ!」ととらえる小島さんが綴る、半生の脳内実況です!
今回は、小島慶子さんが失敗談を披露しあう友人たちの存在、またそのLINEの様子を綴ります。
(これは個人的な経験を主観的に綴ったもので、全てのADHDの人がこのように物事を感じているわけではありません。人それぞれ困りごとや感じ方は異なります)
診断名がついているかどうかにかかわらず、失敗談をシェアできる仲間はいいものです。私もそんな友人が何人かおり、時々LINEで最近のうっかりや、過去のうっかりの披露をしあっています。
人に話すと失敗を笑い話にできるし、「でも本人は結構凹むんだよね」ということもわかってあげられます。そうやってお互いに吐き出して、ケアしあうのです。
私「またオンライン打ち合わせをすっぽかしてしまった……」
友「あら、私そんなのしょっちゅう」
私「リマインダーもセットしたのに忘れたんだよ? ひどくない?」
友「あるある。これ見てよ。時間になっても現れない私を心配した同僚からのLINEのスクショ」
私「やだ、ひどい。じゃあ私のマネージャーとのやり取りのスクショも見て!」
友「これはひどいね」
私「ひどいよね」
友「毎度反省しかないね」
私「そうだよね。どうして他の人みたいにできないんだろう。でも前にもっとひどいすっぽかしをやったことがある」
友「私だって」
という具合に、だんだんうっかりジャンケンみたいになります。弱みを隠す必要がないので、人には滅多に言えないことも安心して吐露できます。
私「風呂に入るのが一仕事なんだけど。わかしたのに、やってることが中断できなくて入るタイミングを逃し、すっかり冷めてからまた入ろうと思い立って追い焚きしたのにまたなんか始めちゃって入り損ね、その繰り返しで1日経つことも。で、結局入らずに仕事に行くこともある」
友「私、そんなのザラで2〜3日入れないこともある」
私「冬場ならいけるね。フランスに住んでいた友人が、向こうではそれぐらいのペースも珍しくないと言っていた気が」
友「でも電車で隣の人が先に降りると、もしかして私臭うのかなと思ったり」
私「いや、あなたを見て誰もそうとは思わないから大丈夫」
友「あなたもよ」
私「香水があるしね」
友「わー昔の貴族みたい」
風呂に入るのと人に会うのはどんなにめんどくさくてもやって後悔はしない、と言った人がいましたが、本当にそうだと思います。なんかやっている途中でも中断して、パッと入ってしまえばいいのはわかっているのです。
わかっているのに、中断できない。私の場合は頭の切り替えが苦手なことに加えて、「忘れてしまうかも不安」がとても強いので、今やっていることや考えていることを中断したら、きっとすぐに忘れてしまう! だからまずはキリのいいところまで終えてしまわなくては!と思っているうちに風呂を忘れてしまいます。そして全てをやり終えた時には風呂に入る気力も体力もなくなっている。
厄介なのは「でなければならない不安」も強いので、「ベッドには風呂に入ってからしか入ってはならない」という掟(おきて)を破ることができず、風呂、風呂と思いながらデスクに足を乗せて椅子で寝てしまうことがとても多いのです。たった2メートル横に移動すればベッドがあるのに。で、凝り固まった体をほぐすために、ようやく翌朝になって風呂に入るという次第です。
さすがにパンデミックの今は外出から帰宅したら入浴しますが、パンデミックだからこそ、出かけなくても仕事が済んでしまう日も多いですよね。オンライン会議では上半身前面の見てくれさえちゃんとしていればいいので、こうして風呂に入る機会を逃し続ける危険は高まっています。
なんとかする方法はないかと考えたのですが、おそらく畳2畳分ほどの大きなバスタブの中にデスクと椅子を据えて、デスクのボタンを押せば湯張りをしてくれる仕組みにすれば風呂には確実に入れるはずです。
椅子の真上にシャワーをつければ洗髪もできます。排水したら全身ドライヤーで乾かし、両手を上げると上から貫頭衣が落ちてくるようにすれば着替えも簡単です。椅子は飛行機のビジネスクラスの座席のようにボタンひとつで水平にできるようにしておけば、楽な姿勢で眠れるでしょう。本当にそんなマシンが欲しいと心から思います。ドラえもーん。
友「また充電器が増えてしまった」
私「なんで持っていかないの」
友「なぜか持っていくのを忘れてしまうから。しかも前に買ったやつがまだバッグに入ってるのに忘れて買っちゃう。今、6個入ってる」
私「重くない?」
友「そもそも、家でスマホを充電し忘れるのがいけない。ほぼ毎日。学習効果ゼロ」
私「ああ、うっかり村の魔法だね。魔法だから、どうしようもないよね。私はね、同じ美術展のオンラインチケットを4回買い直して、昨日ようやく行けたよ。計6000円の入場料って高すぎだろ」
友「あるある」
私「1回目は完全に忘れて、2回目は時間を間違えて、3回目は直前に気づいたけど間に合わないから時間変更しようとして、カレンダー見た途端に皮膚科の時間変更を思い立ってしまい、それが終わってからはっと思い出した時にはキャンセル期限を過ぎてたんだよ」
友「身に覚えがありすぎる」
私「新人の頃に伊豆大島のロケで飛行機に乗り遅れてスタッフを2時間待たせたことがある。何度思い出してもひどい」
友「私は海外ロケで乗り遅れた」
私「地球規模だね」
友「昨夜はパスワード地獄にはまって眠れなかった」
私「あるある。ログインIDもパスワードも秘密の質問も全部忘れている」
友「どのメアド使ったかも覚えていないし」
私「そしてなぜか苦労してパスワードリセットしたのにまた弾かれてぐるぐる、あれ樹海だよね」
友「うん辛い。死にたい」
私「私も死にたい。でも生きよう。あなたは一人ではない」
という具合に、話は尽きません。ダメな自分を晒(さら)せる場所があるのは、大事なことだなと毎度ありがたみを実感します。私のような凸凹脳ではない人でも、それは同じではないでしょうか。
持つべきものは、良きダメ友ですね。
(文・小島慶子)
小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト。1972年、オーストラリア・パース生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『曼荼羅家族 「もしかしてVERY失格! ?」完結編』(光文社)。共著『足をどかしてくれませんか。』(亜紀書房)が発売中。
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