連載
#121 #父親のモヤモヤ
「あれ?」22歳の大学生が見つけた…男性の育休をじゃまする〝犯人〟
和田さんは卒論で、ツイッターを使ってアンケートを実施しています。このツイートを見たことが、取材のきっかけです。コンタクトを取ってお話をうかがいました。
「大学3年生だった2020年の秋、家族でテレビを見ていた時のことです」。和田さんは、卒論執筆のきっかけについて話してくれました。番組では「男性の育休」が取り上げられていたそうです。
厚生労働省の調査によると、男性の育休取得率は2020年度調査で12.65%。80%台の女性と比べると低さが目立ちます。当時の番組でも「取得が進まない」ことが話題になっていました。
「男性の育休って、なぜ必要なのかな?」。番組を見た会社員の父親と専業主婦の母親は、育休にどんなメリットがあるのかと話し合っていました。確かに、と思う一方で、和田さんはこうも思います。
「あれっ? でも、メリットの有無も大切だけど、取るのが『普通』という感覚じゃないんだ…」
父親がきちんと関わってくれるなら、子どもにとってうれしいことだと思います。シンプルに、ならば取る方が自然に感じました」
和田さん自身、仮に子どもが生まれたとしても、働き続けたいと思っています。その意味でも、育休が夫婦そろっての子育てのスタートになると考えています。
でも、「普通」でないとしたらなぜだろう? なんで、男性の育休取得は進まないのだろう? そんな疑問を卒業論文のテーマとすることにしました。
和田さんの卒論のタイトルは「日本における男性の育休取得」です。昨年末、大学に提出しました。
卒論の柱は、当事者へのアンケートです。以前からツイッターで男性育休について発信する投稿を見ていました。協力を得られるかもしれないと思い、自身で専用アカウントを立ち上げ、育休を取得(予定含む)した男性42人、取得しなかった男性34人にアンケートしました。
育休を取得した理由、しなかった理由、周囲の反応などを聞いています。
なぜ、男性の育休取得率は低いのか――。
「男が仕事」「女は家庭」のような性別役割分担の意識や人員不足、収入減など、先行研究から複合的な要因を見いだしつつ、和田さんが着目したのは「前例がない」という当事者の意見でした。
育休取得者、未取得者、いずれにも「育休の取得しやすさ」について5段階で尋ねた上で自由記述で意見を求めました。自由記述を分析して浮かび上がったのが「前例がない」だったそうです。「育休取得者でも『前例がない』ことで取りづらさを感じていました」。「前例がないためなんとなく取りづらい」。そんな声が集まったそうです。
その上でこう説明します。「父親世代が『男は仕事』のような性別役割分業意識を持たなくなる一方で、過去の分業意識による『前例がない』が取得を妨げている側面もあると思うのです」
和田さんは、企業の内定を得ていて4月から勤め始めます。自身が将来的に子育てする可能性も考えつつこう話します。
「アンケートに回答してくれた父親たちは、子どもの成長を見守りたい、という意識を強く持っていました。育休は手段であって目的ではないですが、より長い時間、子育てに関わることができるようになるよう、前例が重ねっていけばと思います」
私は共働きの妻と娘(5)を子育て中。仕事と家庭の両立に葛藤する男性を描いた「#父親のモヤモヤ」という企画も担当しています。
男性が育休を取得しない理由については、先行調査があります。例えば、厚生労働省が、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託した調査では、育休を希望しながら取得しなかった男性に理由(複数回答)を聞いたところ、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」などが挙がっています。
一方で、取材を通じて父親たちからは「ロールモデルがない」という言葉も耳にします。育休に限らず、仕事と家庭の両立全般に対する意見ですが、和田さんの着目した「前例がない」にも通じるものがあると感じています。
子育て世代の男性たちが、「育休は取りたい、でも…」と躊躇しているとすれば、「前例のなさ」も一つの要因だと思います。
今年は、改正育児・介護休業法の施行年で、父親の育休をいっそう促すような仕組みがスタートします。卵が先か、鶏が先か――。前例を積み重ねるような動きにつながればと願います。
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