連載
#119 #父親のモヤモヤ
「パパはいっしょにくらせないの?」日曜日の夜、6歳の娘が泣いた
男性は30代の会社員。製造業の会社に勤めています。共働きの妻と、小学生の長女と保育園児の長男の4人家族です。
始まりは8年前の転勤でした。
長女が生まれて半年ほど経った頃です。当時、男性は首都圏の職場に勤務していました。育休中だった妻も復帰に向けて動き出した矢先です。
西日本への異動を告げられました。
「ただ、会社員なら仕方がない。粛々と受け入れるしかない。そんな思いでした」。幸い、妻の勤務先の配慮で西日本の職場へ異動。家族そろっての転勤となりました。
転勤先の西日本では夫婦で子育てをしていました。
男性が登園を担当。長女を迎えに行った妻が自宅に戻る頃には、男性が夕食を作り始める――。そんな生活でした。「初めて立った日」「初めてしゃべった日」。子どもの「初めて」にもたくさん立ち会うことができました。
2年ほど経った頃、妻が2人目の子どもの妊娠をしていることも分かりました。
妊娠は会社に報告。家族が増える喜びを感じていたところ、再び転勤を命じられます。
首都圏の事業所への異動でした。
「事業の統廃合のあおりでした。やむを得ない部分もあるのだと理解します。でも…」
妊娠中の妻とも話し合いました。
男性は首都圏で単身赴任。妻は出産後に、実家のある地方へ異動させてもらうこととなりました。
月2回、週末は家族の元へ帰る生活が始まりました。両親の全面的なサポートを受けていたとはいえ、妻の負担が気がかりでした。つらかったのは日曜日の午後8時ごろ。終電に乗って首都圏に向かうため、家族の元を離れないといけませんでした。「パパ!」と泣く娘の姿が目に焼きついています。
娘は、知らぬ間に逆上がりができるように。小学校の入学式には参加できませんでした。
あれほど「初めて」に立ち会えたのに。「子どもたちの成長を感じ取れない。そばにいられないことはつらかったです」。普段何を考えているのか。子どもたちの心の機微も分かりませんでした。
そこへコロナが追い打ちをかけます。半年間、家族と会えない時期もありました。
そんな単身赴任生活は、4年半ほど続きました。
このまま単身赴任が続くのか。家族と切り離されて暮らす生活に意味はあるのだろうか。家族を離ればなれにする転勤は、本当に必要なのだろうか――。
男性の心境にも少しずつ変化が生まれました。転勤の是非にも関心が高まりました。
単身赴任が解消されたのは1年半ほど前。会社と交渉の末、妻の実家のある地方で働くことができるようになりました。
「家族と一緒に住むことで安心感を覚えます」。男性はそう話します。子どもたちとのたわいない会話に心が満たされるのを感じます。
男性が仕事上の専門性を高めるためには、別の地方にある拠点で働いた方がよさそうです。ただ、「家族と離れて暮らすことがイメージできません」
そしてこう考えるようになりました。
「私の転勤で、妻のキャリアも少なからず停滞してしまいました。妻がキャリアを築くことを応援したいです。もちろん、家族とも一緒に暮らしたい。次に転勤辞令があれば、転職を考えます」
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「企業の転勤の実態に関する調査」(2017年)によると、「正社員のほとんどが転勤の可能性がある」「正社員でも転勤をする者の範囲は限られている」と回答した企業は、調査対象のおよそ6割でした。
ただ働き手にとっては大きな変化を伴います。調査では、転勤に関して、企業が社員からどのような理由で「配慮」を求められているかも聞いています。子育てに限らず、「親らの介護」「結婚」「配偶者の勤務(共働き)」など、さまざま。影響の広がりがみてとれます。
転勤が引き金となって退職につながるケースも散見されます。このため、企業によっては、転勤や単身赴任を減らすなど、見直す動きも出ています。
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