ネットの話題
草なぎ君が取り除いてくれた…大人用オムツ、家族の「罪悪感」
担当者が伝えたかった「話し合える世の中」
オムツをかたくなに拒否していた家族が、突然着用するようになった――。心を変えるきっかけになったのは、大人用オムツのあるCMでした。ツイッターで話題になった投稿について、投稿者らに話を聞きました。
話題になったのはツイッターで、昨年末に投稿された文でした。
この投稿には、「言葉って大切」「私も必ず『紙パンツ』というようにしています」「良いデザインは、人に新たな視点を与えてくれるものなんですね」などとコメントが寄せられ、1万件以上のいいねがつきました。
オムツを頑なに拒否してきた家族が、草なぎくんのアテントのCMを見てから身につけるようになったらしい。母から聞いて驚いた。「おとなのパンツ」「今までの常識をはきかえる」は、とてもいいコピーだと思う。スッキリする。本人も家族も大変だったので本当にありがたいし、広告の持つ力を感じた。
— でざいん姉さん|佐野五月 (@irohazum_s) December 29, 2021
投稿した佐野さんは、福岡市でデザイン事務所をしています。
投稿したのは、別の県の山奥に住む、家族の体験でした。
5年ほど前から徐々に足が悪くなり、今まで一人でできたことをするのが、だんだんと難しくなっていました。
介護をしていた同居人も足に痛みが出始め、特に夜中に何度もお手洗いにつきそうのが困難になっていきました。寝不足も重なり、疲労が募っていました。
そんな二人の生活を、毎日のように通い、支えていた佐野さんの母。
それぞれの苦労を聞いていた佐野さんは、「正直、介護している方が、日々の疲れとストレスで元気がなくなっていて、先に倒れるのではないかと心配していました」。
家族みんながストレスを減らして、長い目で暮らしていくにはどうしたらいいんだろう。思案した結果、「夜間はオムツを勧めてみたら?」と提案しました。
でも提案を聞いた本人は、「こんなもの着けられるか」「老人みたいで嫌だ」と不快感をあらわにしたそうです。
物腰の柔らかい普段の姿から想像できないような「拒絶」でした。
ただ、佐野さん自身も「老人みたいで嫌だ」と言った気持ちを理解できました。
だからこそ、オムツの着用を勧めることに罪悪感もありました。
そこから数年、家族それぞれがお互いを気遣いながら、ぎりぎりの日々を過ごしていたそうです。
そんな生活に、昨年末、突然の変化がありました。
「そういえば、オムツを履くようになったよ」
きっかけは、本人が自宅で偶然目にした大人用紙おむつ「アテント」のテレビCMでした。
ブランドの顔として2020年から草彅剛さんを起用しています。
白い背景で、心地よさそうに軽やかに、スリムジーンズの草彅さんが呼び掛けます。
「あなたも一緒に試してみませんか? もちろん僕も今、はいています」
これはCM上の演出でしたが、当初オムツを拒んでいた本人は「草彅くんも履いてるのか」とつぶやいたそうです。
同じ頃、ケアマネジャーさんが改めてオムツを勧めると、着用するようになりました。
佐野さんはこんな風に、本人の気持ちを分析します。
「本人にとって草彅さんは、以前からテレビで知っている、自分よりも若い『男の子』で、『オムツ』とは全く結びつかなかった存在でした。そんな国民的アイドルが『履いている』と言ってくれたことで、より身近に感じ、オムツに対する恥ずかしさも薄れたのではないかと思っています」
佐野さん自身も最初は「罪悪感」を持って、オムツ使用を勧めていました。
それがCMを見て、考えが変わったと言います。
「私自身もオムツに対する偏見があったことに気付かされ、私の罪悪感も取り除いてくれました。オムツが悪いのではなく、オムツに抱いていた自分の価値観が間違っていたんだと、スッキリしました」
デザイナーとして、広告が持つ力を改めて確認できたと言います。
「草彅さん、関係者皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。個人として感謝の気持ちと、デザイナーとしてこのCMを作ってくださったことに敬意を込めて、このエピソードが皆さんに伝わることを願ってツイートしました」
CMを作った大人用オムツ「アテント」(大王製紙株式会社)のマーケティング担当者に狙いを聞きました。
2020年8月に「介護の社会化」を目指すブランドとして、始めたキャンペーンは「かくさないパンツになる。」。
CM内でもたびたび「オムツからパンツへ」とイメージの転換をうたっています。
「紙パンツや介護の問題を、恥ずかしいことではなく、もっとみんなのオープンな話題にすることで、誰もが自分と関わりがあると認識し、社会全体で支えるようにしたいと考えました」
介護に直面する「中高年」だけではなく、「『若い世代』にも自分事としてとらえてほしい」と起用したのが、草彅さんでした。
多くの世代の橋渡しになりうる存在。
そして、「50歳以上の人が50%を超える2023 年には、1974年生まれの草彅さんも49歳と、まさに50歳を目の前にして超高齢社会に直面されるおひとりです」。
CMでは草彅さんも紙パンツを履いて、下着のような履き心地を確かめる演出をし、「一緒に新しい世界に出かけましょう」と呼び掛けてもらいました。
隠さずに介護やオムツのことを話せる世の中にしたいと、「#常識をはきかえよう」というハッシュタグを作りました。
「介護やオムツのことを話題にしてもらえるのだろうか?」との不安をよそに、ハッシュタグには瞬く間に、大人用紙オムツについてのさまざまな声が寄せられました。
介護している人、オムツを使っている本人、若い世代まで。
「プライドを傷つけないように介護したい」
「おむつじゃなく、パンツって呼ぶようになってほしい」
「大人用紙パンツのパッケージはいかにもおむつというデザインで、レジに並んでいる時や持ち帰るのが恥ずかしい」
生活者の声を聞きながら、昨夏販売を始めたのが、「かくさないパッケージ」です。
シンプルでモダンなデザインのパッケージ。「Attento」と小さくロゴが入っているだけ。
「堂々と持ち歩ける、部屋に置いておくことができるパッケージがあれば、メガネのように、必要な時には当たり前に紙パンツを頼ることができる。そんな社会になってほしいとの願いを込めました」(アテントマーケティング担当者)
現在はインターネットでの販売のみですが、2022年4月には店頭でも発売する予定とのことです。
今回の佐野さん家族のように、介護用品への偏見で、なかなか使用できない人もいます。アテントの担当者は、こうアドバイスします。
「紙パンツの品質は年々向上しています。下着のような薄さとはき心地で、外から見てもはいていることが分からない商品や、夜も安心して過ごせる商品もあります」
「紙パンツを使うことで、ご本人であれば安心してお出かけしやすくなり、ご家族であれば少しでも不安が解消されるかと思います。今より生活がしやすくなる部分がたくさんあると思いますので、使おうかなと思われた際は、前向きにご検討ください」
そして、ブランドとしての決意も示してくれました。
「現在、世の中は、まだ紙パンツを使うことを『恥ずかしい』『知られたくない』という思いの方が多いと思います。アテントは、紙パンツは介護の『問題』を、みんなの『話題』に変えて、オープンに話し合える場をつくり、誰の未来にとっても大切なことに変えていきたいと思います」
1/4枚