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お金と仕事

レスリング2度も全国優勝した私が、五輪を目指さなかった理由

セカンドキャリア苦労した先輩たちの姿

高校3年の時、第74回国民体育大会で優勝、表彰台にのぼる筆者=2019年10月1日
高校3年の時、第74回国民体育大会で優勝、表彰台にのぼる筆者=2019年10月1日

目次

東京五輪があった2021年が終わり、まもなく北京五輪が始まろうとしています。筆者は、高校時代にレスリングの全国大会で2度優勝し、五輪挑戦という選択肢も考えましたが、結局、大学進学を選びました。その理由はセカンドキャリアです。一部の種目を除き、閑散とした試合会場と低い知名度。その先に待っているのは……。「ノンプロスポーツ」の課題について、当事者の視点から考えます。(Shungo)

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アメリカで見た別世界の光景

※この記事は、時事YouTuberのたかまつななさんが講師を務める政策デザインWS(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の活動の一環として学生が作成しました。

「ノンプロスポーツ」とは大学スポーツを含め、プロ組織がない競技のことです。

現在、スポーツにおいて、プロとアマの定義は難しいのが現状です。たとえば陸上競技はプロ組織はありませんが、スポンサーをつけて競技だけ専念している人は少なからずいます。このように、アマチュアとは言いにくいことを考え「ノンプロスポーツ」という呼び名が生まれました。

「ノンプロスポーツ」の舞台の一つが大学スポーツです。しかし、六大学野球やラグビーなど一部の人気種目を除くと、ほとんどの競技では閑散とした試合会場は当たり前、学内での知名度も低いという現状があります。


私自身、高校時代にレスリングの全国大会で2度優勝し、オリンピックを目指すという選択も考えていましたが、その選択はせず大学に進学しました。

スポーツに専念する環境に身を置かなかった理由の一つは、共に練習をしていた先輩方がセカンドキャリアに困っている現状を目の当たりにしたからです。

当事者としてこのままではレスリングを含めた「ノンプロスポーツ」が日の目をあたることがないのではという危機感を覚えました。

驚いたのは、アメリカ遠征に参加した際、現地の学生スポーツが日本とはまったく異なる存在だったことです。

生活の一部として地域社会と密接に関わり、娯楽として成り立っていました。選手にとってもモチベーションとなり、観客は仲間との応援を楽しんでいる雰囲気は、日本の学生スポーツのあるべき姿だと感じました。

アメリカ遠征の時、地元の高校生と交流試合後に撮った記念写真=2019年1月10日
アメリカ遠征の時、地元の高校生と交流試合後に撮った記念写真=2019年1月10日

五輪で活躍しても……

私が長年、選手として関わってきたレスリング界の課題はセカンドキャリアです。

笹川スポーツ財団の調査によると、「ノンプロスポーツ」の選手が目指す最大の目標であるオリンピックに出ても、正規雇用者は55.7%にとどまり、オリンピアンの収入は国民全体の平均給与と同程度となっています。

見逃せないのは、心理的問題です。これまで人生をかけてきたスポーツから離れざるを得なくなった場合、「アイデンティティの喪失」が避けられません。

この問題について 日本スポーツ振興センターは 競技人生だけでなく人としての人生を包括的に考えるキャリアプログラム構築と、アスリートの主体性や自主性を育むための専門プログラムの開発が必要不可欠だと指摘しています。

もう一つ、問題点として上げられるのは、「ノンプロスポーツ」の選手が競技を続けていく中で、実質的に「オリンピック」以外の選択肢が無いことです。

そして競技団体はオリンピックへの出場選手とメダルの数にこだわりがちです。しかし、現実を見ると、レスリングは、1964年東京オリンピックで男子が5個の金メダルを取るなど「お家芸」ともいえる競技にも関わらず、競技人口は伸びていません。

わかりやすい指標として全国高体連登録選手数では、2005年には280校2655人いた競技人口は、2021年には237校1802人に減っています。少子高齢化の影響も考えても、成長しているとは言い難い現実があります。

これらの指標からは、レスリングを盛り上げるためには、オリンピックだけを考えても限界があることが見えてきます。

最後に、大学と競技団体の連携不足が挙げられます。その一つが試合日程です。大事な試合が授業のある平日に設定されることが少なくありません。勉学にも励みたい学生にとっては進路の選択を狭めることになり、そもそも、最も観客になってくれるはずの学生が試合を見に来られません。

第74回国民体育大会決勝で東京都代表選手と対戦する筆者=2019年10月1日
第74回国民体育大会決勝で東京都代表選手と対戦する筆者=2019年10月1日

「観客に見せる」工夫を

選手として関わってきた中で、提案したいのは「観客に見せる」ということを意識した改革です。

近年盛り上がりを見せる「RIZIN」は選手の所属団体から試合単位で契約を買い取り、団体の垣根を越えて選手が参戦できる仕組みを作り、面白い対戦カードや視聴者に寄り添った試合設計をすることで観客を集めています。

「RIZIN」の観客者数は第1回大会の2015年に12214人だったのが、コロナ前の2019年には29315人になってます。大晦日のゴールデンに放送されることを見ても、一定の人気を反映しているといえるでしょう。

これをレスリングに応用するなら、国内外問わず、国際大会などで好成績を残した選手たちを招き、エンターテインメントとして試合を開催するなどの展開が考えられます。

また、日本の大学の試合ではホーム・アウェイ開催という概念はなく、セントラル開催として一つの体育館に集まり、効率的に試合を開催しています。そのため、試合を見にいきたい学生がいても、そもそも、いつどこで試合をしているのかわかりにくい、配慮不足の面が否めません。

各大学が自分の学校を本拠地として試合をすれば、顧客の安定化やブランド化にもつながるでしょう。

もし、学生スポーツの盛り上がりや、プロ団体で活躍することで仕事としてレスリングを続けられる環境があれば、大好きなレスリングから距離を置こうと思うこともなかったかもしれません。

未来のアスリートのため、大学スポーツをはじめ「ノンプロスポーツ」の環境整備が望まれます。

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