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連載

#26 SDGs最初の一歩

幻の「ぬか床」店頭に並ぶと即完売 前面に出さないSDGsのカタチ

目をつけたのは「ウニ殻」だった

逗子小坪産ウニ殻カルシウム入りぬか床
逗子小坪産ウニ殻カルシウム入りぬか床

目次

神奈川県の人気スーパーのスズキヤスーパーで、店頭に出るとすぐに完売してしまうぬか床があります。水を入れてかき混ぜた後、すぐに野菜が漬けられて、翌日には塩分控えめのおいしいぬか漬けが完成。時間も手間もかからない上に、19種類もの栄養が配合されている優れた商品です。もうひとつ変わっているのが、キャベツウニの殻を使ったSDGsな商品という点。この商品を開発したTAC21の代表・田耕邦子さんに、お話をうかがいました。(ライター・安倍季実子)

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#SDGs最初の一歩
※クリックすると特集ページに移ります(タイトルイメージは、女優・創作あーちすと のんさんの原画を元に作りました)。

小坪漁港の厄介者のウニを逗子の名産に

田耕さんが代表をつとめるTAC21は、50年以上前から自然食品や自然化粧品を開発・販売する会社です。販売後、すぐに人気商品となった、ウニ殻カルシウム入りのぬか床を作ることになったきっかけには、小坪漁港の抱える「磯焼け」問題が関わっていました。

磯焼けとは、海藻の繁殖エリアで藻食生物が増えて、海藻が減少してしまう現象です。藻食生物によって海藻が減って磯焼けになると、海藻をエサにしている魚介類が減少して、漁業に大きなダメージを与えてしまうのです。

「近年、小坪漁港では、ウニによる磯焼けが問題になっていました。漁業協同組合などが中心になって、ウニを取るイベントも行うほどでした。そんな中で、磯焼け対策の研究を続けていた神奈川県水産技術センターで、駆除したウニの養殖に成功しました。いろいろなエサを試したところ、キャベツだと身入りのいい美味しいウニになることが判明して、『キャベツウニ』が誕生しました」

さらに、ウニはキャベツの外側の葉を好むこともわかりました。ウニを駆除して礒焼けを防ぐだけでなく、キャベツで養殖することで、キャベツの廃棄量を抑える効果もあったといいます。

その頃、田耕さんが参加していた逗子の有志からなる「共同社会こつぼ」で、キャベツウニを使った名産品を作ることになりました。その結果、ウニの中身は地元のスーパーで売り、田耕さんはウニの殻チームになりました。

今年の夏に発売された「逗子小坪産ウニ殻カルシウム入りぬか床」と田耕邦子さん
今年の夏に発売された「逗子小坪産ウニ殻カルシウム入りぬか床」と田耕邦子さん

ウニの殻でぬか床を作ろうと思った理由

昔から、田耕さんには「ぬか床を販売したい」という想いがあったといいます。

「ぬか床は先人の食の知恵です。植物性乳酸菌を含む醗酵食であり、生の野菜に比べてビタミンやミネラルなども多く含まれます。でも、塩分過多になりやすいという欠点があり、なかなか商品化できませんでした」

神奈川県水産技術センターに相談したところ、キャベツで育ったウニ殻のカルシウムを使えば、中身の品質が安定し、味もマイルドになる上に吸収もいいため、通常のものよりも少ない量でカルシウムを効率的に摂れる可能性があるとアドバイスされました。

「ウニの殻のアップサイクルの方法で悩んでいたので、まさに一石二鳥でした。この話を聞いて、すぐにキャベツウニの殻からできるカルシウムに、アカモクやはと麦といった19種の原材料も加えた機能性の豊かなぬか床を作ることにしました」

ムラサキウニ
ムラサキウニ

はじめに、神奈川県水産技術センターの方からウニ殻カルシウムの製法を教わりましたが、実際に陶器釜で製造することは難しく、何度も失敗を繰り返してしまったそうです。

その後、公開されている製造特許を確認すると、700度と1200度で二度焼きする方法があることを知りました。実際に、二度焼きでウニ殻カルシウムを製造している企業からカルシウムを取り寄せて、自分たちで作ったものと味や品質を比べてみました。その結果、クセのないマイルドな味のカルシウムが完成しました。

カルシウムの製造が可能になると、味にも満足できるように、原料の配合バランスのテストもしました。普段から自然食品を扱っているので、原材料へのこだわりもあります。はじめは粉体原料を全てブレンダーでミックスしていましたが、中には混ざりにくい原料も含まれていたため、配合バランスがバラついてしまう心配が出てきました。そのため、最終的には19種類の原料を1つずつ手詰めすることになりました。

高品質な原材料を使っている上に手作業ということも加わり、1ヶ月に作れるのは200個程度。大量生産ができないため、ひとつが1250円(税込)と予想よりもコスト高になってしまいました。

しかし、手間ひまをかけている甲斐もあって、味には絶対の自信があります。商品発売会の試食で好評されたことで、すぐに地元の人気スーパースズキヤでの販売が決定。口コミから少しずつ人気が出てきて、商品を卸すと、すぐに完売するようになりました。

完成したぬか床は、現代人に不足がちなミネラルが豊富。乳酸菌パウダーや酵素生産菌が入っているため、水を入れて混ぜるだけで、その日から野菜を漬け込み、次の日には美味しいぬか漬けが食べられます。コンパクトな容器で、冷蔵庫での保存もしやすく便利です。

ただ、キャベツウニの収穫時期は夏。一年を通して販売が続けられるかは、まだはっきりしていません。しかし、できるだけコストを下げて、定期的に商品化できるようにするため、来年2月にはウニ殻焼成釜が完成するそうです。

半日漬けるだけで美味しいぬか漬けが完成
半日漬けるだけで美味しいぬか漬けが完成

SDGsは前面に出さないことで継続できる

「SDGsという言葉だけが広まってしまい、その言葉を聞くだけで構えてしまったり、一種の慈善イベントのようなものと捉えてしまったりする人もいると思います。しかし、SDGsという部分を前面に押し出さずに、『必要な栄養をとる』『美味しくて体にいい食事』といった面が前に出ていたら、生活の中に気軽に取り入れられると思いませんか?」

今と比べて一昔前までは、食に対してこだわりを持つ人はそんなに多くはなく、極端な場合は、お腹が満たせればいいという人もいました。しかし、最近は健康志向の人が増え、中には食材の産地にまでこだわる人もいます。

「健康に気遣いながら、気軽に継続できるのが食のSDGsのいい所だと思います。今後は、ウニ殻カルシウムの無味無臭で使いやすいという特徴をいかして、クッキーや煎餅などにも使いたいと考えています。まずは挑戦しやすそうなクッキーから。そうやって、気楽に取り組めるSDGsが増えるといいですね」

 

〈SDGs最初の一歩〉大事だけどよくわからない…? そんな「SDGs」について身近な出来事を通じて「自分ごと」として考える企画です。実は、あなたもすでにSDGsやっているかも!?(タイトルイメージは、女優・創作あーちすと のんさんの原画を元に作りました)

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