話題
大阪人の「東京ライバル心」本当にあるの? 衆院選の結果から分析
維新躍進の理由から浮かび上がる有権者心理
今回の衆議院議員選挙で、日本維新の会は選挙前の4倍近い議席を確保し、自民党、立憲民主党に次ぐ第3党に躍進しました。なぜ、日本維新の会はそこまで支持されているのか。有権者の政治心理や行動の計量分析が専門で、維新支持層の研究についての著書もある関西(かんせい)学院大学の善教将大(ぜんきょう・まさひろ)教授は、メディアの影響では説明が困難だと指摘します。一方で、関西で支持される背景には大阪が抱える「特殊な事情」があるとも……。YouTubeたかまつななチャンネルでお話を伺いました。(取材:笑下村塾たかまつなな)
――善教さんは、2011年に大阪市長選や府知事選で維新が大勝したころから維新に注目し始めて、10年近く維新支持層の研究を続けていらっしゃるそうですが、今回の選挙では、なぜ維新が強かったのでしょうか。メディアの影響はあるんでしょうか。
善教:今回、コロナ禍で吉村洋文大阪府知事が注目を浴びて多くの人の関心の対象になりました。そのため、在阪メディアの影響があったのではないかとよく聞かれます。
政党の得票率、あなたの市町村は? 衆院選比例マップhttps://t.co/qTCvA95Sms
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) November 7, 2021
日経新聞が出している各政党の得票率を地域別に見られるマップを見ると、たしかに関西のメディアの放映範囲、兵庫、大阪、京都、和歌山、奈良といったところで、維新の比例の得票率が高いです。ただ、これが在阪メディアの影響だと簡単に言えない難しさがあります。
注目するのは、境目です。例えば兵庫と岡山の県境、あるいは奈良と三重の県境とか、メディアのエリアが切れる境界線が、影響があるかないかを判断する際に大事なポイントとなります。
その際、メディアが何かを放映する、しないという要因以外の維新の比例得票率に与える要素というのが一定であることを、どれだけ厳密に仮定することができるのかが重要です。
そう考えると問題点がいくつかあります。「空間的自己相関」の処理がなされていないこと、在阪メディア以外にも境界線をまたぐ要因が複数存在すること、維新が在阪メディア圏域に戦略的に候補者を擁立していること、などです。これらは内生性によるバイアスの原因となります。つまり、メディア以外の要因の影響を考慮すると、メディアの影響のように見える得票率の差は、地図上に見えるものより小さくなると考えられます。
したがって、維新が支持される理由として、在阪メディアの影響というか、吉村大阪府知事の人気によるものかどうかについては、影響力はゼロではないんですが、多くの人が想定するほど大きくないのではないか、と考えています。
――今のお話を聞いた上で、なぜそもそも維新は大阪で強いのか気になります。
善教:維新が関西で支持されている背景には、特殊な地域的な事情があります。大阪の都市圏は、兵庫の一部、京都の一部、奈良、和歌山の北部など極めて広い範囲に広がっています。いろいろなインフラで繋がって、昼間は大阪市で働いて、夜は周辺部に帰るみたいな形で人の移動が起こる。大阪市外に住んでいる人が、土日に「大阪市へ遊びに行くか」みたいな状態にもなる。都市圏が、他の政令市と比べて大きいのです。
大阪府が都市計画を考えるときには「大阪」という広域的な都市圏で考えることになります。その中心にある大阪市の政策の効果は周辺の都市にも波及するので、大阪府は大阪市の存在を無視できません。しかし、大阪市は政令市で、府から独立した権限をもつし、大阪市は区域内のことを第一に考える。
そうすると、大阪府と大阪市のあいだで考え方のギャップが生まれたり、両者の意思をすり合わせることが困難になっていく。それぞれがバラバラに政治を動かしていく「二重行政」、あるいは「二元行政」と批判されるような状態が生み出されるわけです。
そこを変えようとしたのが維新なんですね。維新という政党の中で、市と府のバラバラな意思決定を統合して、何か前に進めてくれるという人々の期待の受け皿になっている。だから大阪市を超えて「大阪」都市圏に維新支持が拡大していくわけです。維新には、「大阪」の都市圏を代表するような価値が付随してくると多くの人が認めている。これまで統合できなかった大阪の政治を維新が改善し、政治的なリーダーシップを発揮できることを組織として見せた。ここが維新支持を見る上で、一番大事なポイントだと思います。
善教:近畿圏と全国で、どの政党が地域的に偏っているかを直接的に尋ねると、維新を支持する人の、維新の地域偏重度は0に近い。つまり維新を支持する人は、表立って、維新は地域的に偏っているとは言わないのです。
維新支持者は、(本音では)維新が大阪の利益を代表する政党だと考えているのですが、それを実証することは意外と難しい。地域代表という言葉にネガティブなイメージがあるので、維新支持者は維新を「地域代表者」とはなかなか言ってくれない。
なぜなら「社会的期待迎合バイアス」(Social Desirability Bias)が働くからです。社会的期待迎合バイアスとは、本音じゃなくて建前を答える傾向をいいます。社会的に望ましいとされていることをやっていないのにやっていると言ったり、社会的に望ましくないと思われていることを本当はやっているのにやっていないと答えたりすることです。
違法行為や不法行為が典型で、例えば、何か悪い薬をやっている人に「あなた、悪いお薬やっていますか?」と直接聞いても、やっているとは言わないですよね。僕が学生に「僕の講義は面白いですか?」と直接聞いても、面白くないですとは言いにくいのと同じ構造です。
――言いにくいですよね。
そのため、回答者がどの要素に反応しているのかを秘匿しながら、例えばこの要素が効いている、効いていないというのを分析する実験的手法を使う必要が出てきます。そうすると、先ほど説明した「社会的期待迎合バイアス」を除去しながら、その人が何を重視しているのかというのを分析できるんです。
この方法を使って維新支持の規定要因を分析すると、維新支持者の中で、「大阪」の代表だから支持するという潜在的な選好が存在することが分かりました。直接的に聞いても地域の代表じゃないみたいな認識を示されることが多いですが、「社会的期待迎合バイアス」を除去すると、「大阪」という要素が維新支持の背景にあることが見えてくる。関西議員の割合についても多ければ多いほど維新を支持しようとする傾向が強まります。
ではなぜ、大阪でなければいけないのか。維新を支持する背後には、「東京への対抗心」があるのではないかとよく指摘されますが、実は大阪の人は東京への対抗意識はそんなにないんですよ。よそはよそ、うちはうちって感じなんですね。
――ちょっと意外です。党本部は関西にあってほしいとか、関西議員が多いほうがいいというのは、東京への対抗心とイコールなのかと思いましたが・・・。
善教:一方で大阪府と大阪市が一体的に運営されたほうがいいかと聞くと、ほとんどの人がイエスと答えるんです。バラバラよりも統合して一つの政治的なリーダーシップを発揮しながら、もろもろ調整してくれたほうが望ましいと、多くの大阪市民、府民は考える傾向があります。
問題は、東京への対抗心と維新を支持する意識、また、市と府が一体的に運営されてほしい意識と維新を支持する意識がどれだけ繋がっているのかということです。
結論から言うと、分析の結果、府市一体化を強く望む人ほど維新を支持する傾向があることが分かりました。東京への対抗心がある人ほど維新を支持する確率が上がるという結果もえられましたが、ほとんどの人が東京への対抗心を持っていないので、これは維新が支持される要因とは言えません。
大阪という要素とそれを形作る府市一体への選好、つまり府市を一体的に運営して、関西一円でリーダーシップを発揮してくれているという認識が、維新を支持する人々の中に潜在的な意識としてあるから、維新が関西圏で支持されているというのが、分析結果からえられる結論です。
――今回、維新は候補者を擁立した15選挙区で「全勝」しました。特に大阪10区では、立憲民主党副代表の辻元清美さんが負けました。これはなぜですか?
善教:実は今回、大阪10区に何度か伺って、辻元さんがどういう票の取り方をするのかを調査させていただいたんです。朝から各候補者の演説を聴いたり、辻元さんがまいたビラの枚数なども調査したりしていました。その中で、辻元さんが配るビラは、他の方が配る以上に受け取られる確率が高くて、地元での人気が高いことを実感しました。
しかし、辻元さんは負けてしまいました。なぜか。私は立憲に対する評価が低下してしまったことが重要ではないかと考えています。辻元さん個人が持っている票は多くても、立憲としてこれまで稼いでいた票が逃げてしまった可能性がある。10区には自民党の候補者がいますが、その人が自民党として獲得してきた票の一部も維新に乗っかっているので、その合わせ技で維新の候補者である池下さんが辻元さんに勝利したというところかと思います。
――維新がすごい人気というだけでなく、立憲に対する拒否感もあるということなんですか?
善教:最大野党としての立憲の立ち位置が若干揺らいでいて、その影響が出ている。立憲には入れられないという人々が大阪に相当数いる可能性は否定できないと思います。
――そもそもなぜ維新が強いのでしょうか。松井代表は大阪で実績を上げたから我々は支持されているんだとおっしゃっていましたが、どう思われますか?
善教:2019年の統一地方選のときに、松井さんとか吉村さんが何を実績として主張されていたかというと、インバウンドで大阪はこんなに成長した、観光政策も充実させた、というものです。大阪の経済が伸びたんだということを、実績として語っていました。維新が勝った理由としても、その実績が評価されたという論調が当時はたくさん見られました。
しかし、コロナ禍を契機にインバウンドの数は減って、大阪の経済もどちらかというと悪い方向に変化しました。実績が重要であれば、維新の支持率は下がるはずです。ところが、維新は今回の選挙でこれだけ勝っている。とすると、実績はそこまで維新への支持と強く関係しないという見方のほうが妥当ということにならないでしょうか。
大事なのは、実績そのものではなく、それを可能とする政治的なリーダーシップが担保されているかどうかです。そこで基本的な評価が固まっているということだと思います。
――ちなみにどこの支持の層の票が維新に流れているんですか
善教:重要なのが、大阪でよく言われている、国政自民、大阪維新という支持のねじれです。大阪で維新を支持している人の中には、そもそも国政で自民を支持しているタイプの人がけっこういます。
要するに国政ではなんとなく自民を支持しているけれども、大阪では維新を支持するという支持政党のねじれが生じている空間が、大阪という場所なのです。
これは、大阪市民は、政党を比較考量しながら、大阪の政治では自民ではないよねという判断を積極的に下しているということでもあります。
府と市の広域的な調整が大事だと考えられ、府市間調整が大阪の自民党にはできないとなると、相対的に維新が優れているという評価がくだされる。
結果として国政では自民を支持している人であっても、大阪の自民は支持できないということで、大阪では維新支持に流れるというわけです。
――「望ましい野党像」についても伺いたいです。維新が望ましい野党像に合致しているのではと以前ご指摘されていました。どういうことでしょうか。
善教:自民党に対して、どういうカウンターパートが望ましいかを探る実験結果があるんです。これは京都府立大学の秦正樹准教授がTwitter上で公表しているもので、許可を得て紹介しています。コンジョイント実験という方法を用いて、望ましい野党のイメージ、あるいはそれを形成する諸要因というのを明らかにしている実験の結果です。
ポイントになるのがまずスローガンとしての「改革政党」ですね。立憲とか共産とか主要野党を支持している人も、維新を支持している人も、「庶民政党」とかそういうスローガンよりは、「改革政党」のほうが好きだということ。そこはあまり差がありません。
おそらく多くの方が気になっているのは、与党との対抗姿勢のところだと思います。そこで結果を見ると、維新を支持している人は、「原則対抗」という文言への拒否感が相対的に強いことがわかります。
維新を支持している人、あるいは今回支持した人というのは、「原則対抗」はちょっと嫌ですという思いが強いと解釈できる結果でしょう。「是々非々」と「連立政権」、「是々非々」と「閣外協力」、ここはそこまで大きな差はない。
だから、「是々非々」がいいというよりは、与党に原則対立するイメージだと「それはちょっと違う」という人が増えるということだと思います。「対抗」というところに、けっこうネガティブなイメージがあるというのは知っておいていいと思います。
――確かに若い人の感覚でもそれはすごいあると思いますね。なんでも反対しているイメージでの立憲とかに対しての拒否感みたいなのは強いんじゃないかというのは、取材の実感としてもあります。
善教:ポイントは、若くなくてもそう思うところです。これは平均的にそう思われているという結果なのです。若い人だけがそうなら、政党から見たら若い人の数は多くないから無視していいという戦略もあるかもしれません。しかし、平均的にネガティブなイメージを持つ人がいることをどう考えるかということだと思います。
野党の方、特に立憲の方は今回の選挙で「我々は8割賛成してきたんだ」ということをおっしゃっていました。しかし、それを聞いてもなお「原則対立」とみなされている可能性があると思うんですね。
例えば、ある重要なポイントで賛成していれば、残り9割で反対していても、野党は大事なところで賛成して、ちゃんと協議に乗っかってくれるよねという話になるわけです。逆に、全体としては8割賛成するけれども、賛成すべきところで反対していると、反対してばかりと見られる。全体の割合より、どこが判断のポイントなのかが大事だと、個人的には思っています。
善教:どの政党を支持するかだけではなくて、どの政党を拒否するかというのも調査をしたところ、自民党の拒否度は、多くの人に批判されている印象の立憲民主党と比べて大きな差はない。自民党も意外に拒否されているなという印象です。
ポイントは誰が自民党を拒否しているかということ。共産党とか社民とかれいわとか立憲の支持者は、自民党を拒否します。これは党派性が真逆なので当然ですが、無党派や維新の人も意外と拒否しているんですね。特に維新の人は、自民も立憲もほとんど変わらない拒否度です。だから関西圏を中心に維新が支持されているところで、自民から維新にドンと票が流れるわけです。
基本的に大阪の選挙区は、自民か維新かという選択を行うことが多い構図です。全体として、今回自民党にはさすがに入れたくないが、立憲でもない、という人がけっこういた。それが維新に流れたのでしょう。
背景にあるのはコロナだと考えています。コロナの責任主体はあくまで国であると考える人が多い場合、この2年間のいろいろな蓄積が反映されて、それが自民党の拒否度の相対的な高さに繋がったと考えています。
――維新のイデオロギーについて、よく維新は新自由主義だと言われていますが、マニフェストを見ると格差解消や教育無償化などを訴えていて、新自由主義とは反対だと思いますがどうご覧になっていますか?
善教:実際、全体の傾向を見ると、若干右ぐらいというのが、これまでの研究の成果が明らかにしているところかなと思います。大体位置的には公明党とかあの辺りと同じようなイデオロギーポジションかなと思います。なので、ちょっと右側に位置付けられているという指摘は誤りではないんですが、急進右翼政党という見方は妥当性が低いように思います。
――維新の今後のこともお伺いしたいです。松井代表に、そもそも支持基盤はどこにあるのか、どうやって広げていきたいかを聞いたんですけど、そういうものは作らず、しがらみのない政治をしたいとおっしゃっていました。
善教:維新が今後広がっていくかどうかは、地域政党というポジションをどう脱するかだと思います。少なくとも「どぶ板」選挙を通じて支持が広がっていくイメージはありません。
「大阪」ではなく「関西」という枠で広がるか、「都市の政党」として広がるか、あるいは一時的な支持にすぎず、またしぼむか。いずれかだろうと思っています。ただ、今の時期が重要なターニングポイントであることは間違いないと思います。
――最後に、投票するときに有権者が気をつけるべきポイントを教えていただきたいです。
善教:まず、すごく真面目に真剣に考えて投票先を選ばないといけないという発想から抜け出すことが大事です。分からないなら分からないなりに選べばいい。この人に入れたいという選択肢がなくても、まあこの人だったらいいかなという程度でいいので、悪くない方を選んで投票するという気軽さを持つことが大事です。
もうひとつは、長期的に見る視点です。この候補者は今はだめだけど長期的に育ててあげよう、見続けてあげようという思いも持ってほしい。選挙ごとに短期で見るのではなく、長期的にちゃんと支えてあげる、負けても応援していることを伝えてあげる心持ちも大事だと思います。
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