連載
#17 #アルビノ女子日記
肌に「なじまない」指輪の色も美しい アルビノの私が考える多様性
「分かり合えない相手ともつながっている」
「みんなと同じ見た目になりたい」。髪や肌の色が薄く生まれる遺伝子疾患・アルビノの神原由佳さん(28)には、そう思った経験があります。そんな彼女が、ある指輪に一目ぼれしました。多様な肌の色を表現した、あたたかみを感じさせるデザイン。その中に、自分の身体になじむ色を見つけ、心安らげたのです。「国籍や性別や肌の色が違っても、『人』である事実を通して私たちはつながっている」。指輪を身につけて得た気付きについて、神原さんにつづってもらいました。
1年ほど前の話になるが、Twitterを見ていたら素敵な指輪を見つけた。
それは、多様な肌の色がグラデーションで表現された指輪だった。その指輪が、アーティスト・デザイナーの発掘を目的とした「TOKYO MIDTOWN AWARD」のデザインコンペでグランプリを受賞したというのだ。
【関連リンク】TOKYO MIDTOWN AWARD 2020 デザインコンペ結果発表
見た瞬間「きれい」と思った。その指輪は人の肌色の多様性を表現していて、黒から白へのグラデーションにはあたたかみがあった。
私はアルビノだ。髪は金髪だし、肌も白い。ふつうとは違う「色」に悩んだこともあった。
それだけに、肌の多様性をこんなに美しく表現できる人がいるのかと思うとうれしくなった。欲しくてたまらなかったが、商品ではなく作品である以上、手に入れることはできないのだと思うと憧れとさみしさが入り混じった気持ちになった。そのツイートにいいねを押して、小さな称賛を送った。
TOKYO MIDTOWN AWARD 2020にて、友人と制作したプロダクト「uskin」がグランプリを受賞しました!
— Wakata (@lmnyuwa213) October 18, 2020
肌の色のグラデーションが持つ美しさを、指輪に落とし込んだデザインです。
多様性を想う気持ちが、”快さ”になることを願って。https://t.co/huGxu2jd8q pic.twitter.com/0K2CaxZlfK
正直、信じられなかった。だって、手に入るはずがないと思っていた指輪が目の前にあるのだ。スマホの画面の中できれいと思った指輪は、実物で見てもきれいだった。
手に取ると、まったく重さを感じない。指にはめ、指輪をくるくると回しながら最も自分の肌になじむ色を探した。私の肌は、指輪の限りなく白に近い部分になじんだ。輪の中に自分の色があると分かりほっとした。自分の肌と同じ色は、なんだか心地が良かった。
ツイートを見たあの日、心から欲しいと思った指輪を、ようやく手に入れた。
hadawaという、とてもきれいな指輪を手に入れました。#WearDiversity pic.twitter.com/3ige9LZCYR
— 神原由佳 (@y_kambara) October 17, 2021
アルビノとして当事者発信の活動をしていると、よく「多様性」の文脈で実体験を話して欲しいと言われることがある。
多様性、ダイバーシティ……。さまざまな表現でスポットが当てられるのは、たいていマイノリティの人たちだ。多様性という文脈の中では、マイノリティの人たちが率先して語り、マジョリティの人たちが「教えられる側」として埋没しているようにも感じる。文脈の特性上、それは仕方のないことなのだが、マイノリティとマジョリティには隔たりがあるように、私は感じてしまっていた。
このような隔たりを、hadawaでは一切感じなかった。地球上の人間全員で手をつないでグラデーションをつくることはできないが、小さなhadawaがそれを実現してくれているような気もした。
多様性を分かろうとしたとき、頭の中で小難しく考えても、なかなか答えは見つからない。
自分とは異なるものに対して感じる違和を受け入れてこそ、多様性を受け入れる第一歩が踏み出せるのだと私は思う。一方で、人と違う「色」に悩んだ経験がある私は、「人と同じでありたい」という強い欲求も十分に理解できる。
hadawaは自分とは異なるものに対する違和と、自分と同じものに対する心地よさ、その両方を体験させてくれる。
自分には全くなじまない色を眺めながら、そこに当てはまる色の誰かに思いをはせる。これらの体験こそ、「多様性とは何か」とシンプルに問いかけてくるのではないだろうか。
hadawaの制作者のひとりである、若田勇輔さんに話を聞いた。
若田さんは国内外でアーティスト活動を行っている。若田さんが特に多様性について考えるようになったのは、海外で活動をしていた頃からだという。
ストリートアートの制作や作品の販売をするなかで、人種の違いを理由に、外国人からからかわれ、傷つけられるような言葉を浴びせられる経験をした。情報として、海外では人種を理由に差別を受けることがあると理解をしていたものの、いざ、自分自身が差別を経験すると、国籍、ルーツなど、異なる属性同士には越えられない壁が存在すると痛感した。
「自分が誠意を持って対応すれば、向こうも応えてくれるだろう。そうした甘い期待があった」
海外での経験が、若田さんの多様性への認識を大きく変えるきっかけとなった。帰国後、コンペに向けて作品づくりに取り組み始めた若田さんは、制作の動機を次のように語ってくれた。
「問題提起として、『多様性って大切だよ!』と一方的に主張する作品ではなく、アーティストとして、様々な感性に問いかけられるものが作れないかなと思い、色々アイデアを出していきました」
こうして、hadawaはコンペでグランプリを受賞した。そして、私の手元へやってきたのである。
「多様性を肌色で表現するって、ありきたりだとは思いませんでしたか?」
私は思わず、若田さんに対して、失礼な質問をしてしまった。それでも、若田さんは嫌な顔をせず、肌色をテーマにした理由を教えてくれた。
「肌の色というモチーフは、普遍的で重要なテーマだと思う。多くの人が強く共感できるテーマでもあるので、むしろ“ありきたり”という印象を、自分のアイデアで超えていきたいと思った」
若田さんはhadawaを制作するにあたって、普遍性を大切にしたのだとか。
「人種ごとに様々な歴史的背景があるとしても、肌は自然物だからこそ人間の普遍的な繫がりを感じさせるし、個性として美しい。それを指輪にすれば、多様性のシンボルになるんじゃないかと思った」
もちろん、肌を巡る現実は綺麗事だけでは語れない。肌の色を理由に起きる差別には長い歴史がある。
それでも、肌の違いを「普遍的な個性として美しい」ととらえる若田さんのアートに、私は可能性を感じる。私の白い肌も美しいし、あなたの肌も美しい。そんな風にみんなが思えたら、この世界は優しくなりそうだ。
hadawaを指にはめるだけではなく、ぜひ光に当てて見て欲しい。黒から白へのグラデーションをより一層強く感じることができる。
材料や製法にもこだわったそうだ。hadawaは特殊な樹脂でできている。最新の3Dプリンタによって体温を感じるようなあたたかみのあるデザインに仕上げた。さまざまな素材や研磨の仕方など、試行錯誤を繰り返し、納得できるものを作り上げた。
hadawaのグラデーションが私に気づかせてくれたのは、国籍や性別や肌の色が違ったとしても、「人」であるという事実を通して私たちはつながっているということだ。
私は、アルビノである私の思いを「理解してもらいたい」との考えがあり、こうして情報発信をしている。でも、アルビノという切り口だけでは、私と他者は分かり合えないかもしれない。例えば、私が人と違う髪色や肌色であることで感じた違和を発信した時、「じゃあ、染めればいいんじゃない?」という反応が返ってくることがよくある。その度に、「そういうことじゃないんだ。なぜ伝わらないんだ……」と寂しい思いを抱くのも事実だ。
そんなとき、私はアルビノであることを「保留」する。別の切り口だったら、私と他者は分かり合える可能性だってあるかもしれないから。私のアイデンティティはアルビノだけではない。年齢、性別、職業、考え方や好きなもの……私自身を構成している物事はたくさんある。まずは、そこに共感してもらえればいい。あわよくば、その先にアルビノについても分かってもらえればいいとも思っている。
それでも分かり合えなかったら、少し残念な気持ちにはなるかもしれないけれど、互いの相性もあるだろう。それは仕方がない。分かり合おうとした取り組みを褒めればいい。分かりあえない相手とも、「人」としてつながっている。それだけでも、私にとっては救いだ。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中の人々の生活が一変した。ソーシャルディスタンス、ステイホーム、三密……。キャッチーな言葉とは裏腹に、会いたい人に会えない、行きたいところに行けないことで、思うようにいかず、不条理さを感じる2年間だったように思う。
一方、感染対策で、忘新年会といった集まりを取りやめる場面は増えた。勤め先の上司などと顔を合わせる機会がなくなり、喜ぶ人の声に触れることもある。
「めんどくさい人と関わらなくて済む」
そうした意見に賛同しつつも、「いや待てよ、めんどくさいから関わらない、それで本当にいいのか……?」と思う自分もいる。
話が長い目上の人、特に用事も無いのに絡んでくる先輩、共通の話題が見つからなくてなんだか気まずい同期や後輩……。こうした人たちと関わるのは正直、疲れる。
仲の良い女友達とふわふわのパンケーキを食べながら、おしゃべりしているほうが心地いいし、楽しいし、おいしい。でも、そればっかりで本当にいいのかな。同質の人たちだけと関わり続けることで、視野が狭くなってしまうとしたら、それは怖いことのように思える。
私が今、この記事を書いている目的は、読者にアルビノという異質性を感じて欲しいからだ。だけど本当は、異質性のなかに普遍性があることを感じて欲しい。私がアルビノであることは特殊かもしれないけれど、それを除けば、食べることとしゃべることが好きなよくいる28歳の女性だと思う。私とあなたはどこかで重なる部分があるかもしれない。私がhadawaを身につけて、指輪をくるくる回して色を探したように。
後日、幼なじみにhadawaの話をしたところ、コンセプトに共感をして、購入をしていた。自分がいいと思ったものを気に入ってくれたこともうれしかったが、hadawaがきっかけとなり、友人と多様性について気軽に話すことができてうれしかった。
hadawaや多様性について考えることが、タンポポの綿毛が飛んでいくように広がっていったらいいなと思いながら、今日もhadawaを身につけて出かけます。
【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。神原由佳さんの歩みについても取り上げられています。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考える内容です。
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