せっかくの週末、不安感で目が覚める女性。心の中にある「不安のコップ」は時々あふれそうになりますが、パートナーと普通の会話が始まると、いつの間にか消えて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、相方と暮らす女性のエピソードです。

いつも機嫌いい声でしゃべってくれる
週末、なんとなく不安感をおぼえて目を覚ました女性。
心にある、冷たい水みたいな不安のコップ、時々あふれそうになる……そう感じていました。
リビングへ行き「寝坊しちゃった」と声をかけると「いいよう」という明るい声。相方のカンちゃんは機嫌よく言ってくれます。
普通の会話が始まると、女性の「不安のコップ」は、あふれる前に消えていきます。
ふたりとも仕事は厳しく、今年カンちゃんは父を亡くしました。それでも「今晩は食べたい物を作るよ」と声をかけたら、「クリームシチュー!」と喜んで答えてくれます。
女性は、夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵に、そんな相方への思いを打ち明けます。
「どんな時でも機嫌いい声でしゃべってくれるんだ これってえらくない? 私のことも支えてくれてる」
遠藤はお裾分けをいただきながら「世の中の柱だなぁ そういう人は」と応えて笑うのでした。
「思いやれる人」のありがたさ
作者の深谷さんは「機嫌のいい人が好きです。ごくわずかでいいので、目の前にいる人を歓迎しているという様子でいてくれるとホッとするからです」と話します。
自分に関係ない出来事だったとしても、機嫌のいい人同士の会話を小耳にはさんでうれしくなることも。逆に、不機嫌を隠さない人は苦手といいます。
「自然に機嫌よくいられるような時はそう多くありません。だからこそ、『自分の機嫌が、目の前の人の気持ちを明るくも暗くもする』と思いやれる人をありがたいと思うのです」

猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本8巻(講談社)を2021年11月22日に発売。2022年2月3日から23日まで、京王百貨店新宿店7階の丸善で「夜廻り猫原画展」を開催予定。