神戸
『夫は成長教に入信している』は主人公の会社員、コウキの行動を中心に展開していく物語です。コウキは、自分磨きの一環として高価なスーツや時計を買い揃えるなど、いわゆる「意識が高い」と言われるような振る舞いを好みます。妻・ツカサがコウキを仕事一辺倒の生活から引き離そうと努力する筋書きが、人気を博しました。
なぜ成長を、漫画のテーマにしようと思ったのか。紀野さんにお伺いします。
紀野
実は、私が「成長教」に入信していました。隙間時間に英語を勉強したり、休日ダラダラして過ごすと、「今日は成果がなかった」とつぶやいてみたり。すごく成長にこだわった毎日を過ごしていたんです。
その後、私が多忙すぎて、体調を崩してしまいました。そんな中で、
「何かやりたいことがあって成長する」のではなく、「成長すること自体が目的になっているのかもしれない」と感じたことが、漫画を作るきっかけとしてあります。
神戸
「成長すること自体が目的になってしまっている」というのは、身につまされる話だと思いました。成長教をテーマに、漫画を描こうと思ったのは、なぜですか。
紀野
妊娠し、お腹の中に子どもがいる状態で、昨日よりも今日、今日よりも明日成長する、
ずっと120%の力で頑張るのは難しいと強く感じていました。漫画という表現は読まれやすいので、漫画を使って表現することにしました。
そういう状況や、自分の変化を受け入れていくみたいな感覚だったんです。後で漫画を描くことにも繋がっていきました。
神戸
『夫は成長教に入信している』の原型は、紀野さんがnoteで自主制作作品として発表していた
漫画です。講談社への持ち込みがきっかけで、制作陣に作画の北見雨氷さんが加わり、連載が始まりました。編集を担当された竹本さんは、最初に『夫の成長教に入信している』のプロットをご覧になったとき、どう感じられましたか。
竹本
やはり”成長教”という言葉が「スーパーパワーワード」だと思いましたね。僕は編集者として、作者がそのテーマを描きたいと強く思っていることを前提としたうえで、普遍性と時代性を大事にしています。
『成長教』は、先ほど紀野さんがおっしゃったように、今の時代に求められるという意味ではすごく時代性がありますし、自己認識と他者評価のバランスをどう取るかということでは普遍性があるんですね。これは是非、担当したいと思いました。