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連載

#49 「見た目問題」どう向き合う?

「その顔で営業できるのか」アザのある私が面接で臆さなかった理由

容姿を問わず仕事を得るための生存戦略

記事の著者・石井政之さん。顔にアザのあるタクシードライバーだ(岩井建樹撮影)
記事の著者・石井政之さん。顔にアザのあるタクシードライバーだ(岩井建樹撮影)

目次

生まれつき顔にアザがある石井政之さん(56)。フリーライター、損害保険会社の営業などを経て、現在はタクシードライバーとして働いています。就職面接で、容姿にまつわる差別的な対応を受けたこともありますが、人と会う仕事を続けてきました。その経験を通じ、自分自身を受け入れてくれる人々や組織を、見極める力が養われたそうです。これまでの歩みを踏まえ、外見と職業との関係性と、見た目が「ふつう」とは異なる当事者のサバイバル術について、つづってもらいました。

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「化粧をして乗務して欲しい」面接官の言葉

「あなたの顔を見て、お客様が驚いたらどうするのか。化粧をして乗務して欲しい」

半年ほど前、東京のタクシー会社の面接官から言われた言葉だ。

「その対応は差別であり人権侵害ですよ」

私は面接官をじっと見つめ、そう返した。これ以上の面接は必要なしと双方とも判断し、席を立った。

東京には400超のタクシー会社がある。その中でも差別的な面接をする会社に当たってしまったわけだ。

顔にアザのある人間が就職できるのか

私の顔の右半分には大きな赤いアザがある。単純性血管腫という生まれつきの疾患だ。この顔で56年生きてきた。顔にアザやキズなどの症状がある当事者のことをユニークフェイスと命名し、当事者支援や文筆活動をしてきた。

外見に目立つ症状があると、学校でのイジメや、恋愛・結婚の対象とみられない、就職差別といった壁にぶちあたる。

特に就職では、当事者は「こんな顔だから人と会う仕事は向いていないので……」と人と会う機会が少ない職業、職場を選択する傾向がある。あるいは、資格を武器に就職することを目指す。

その気持ちはわかる。ただ、差別を避けるために職業選択の幅を狭めるのはもったいない。私は人と会う仕事ばかりをしてきただけに、そう思う。

顔と仕事は関係があるのか。どうすれば差別に負けず、自分のやりたい仕事に就くことができるのか。実体験に基づく私なりの考えを記していきたい。

著者の石井政之さん(石井さん提供)
著者の石井政之さん(石井さん提供)

学生時代は「就職の壁」を恐れていた

はじめて職業選択を意識したのは高校3年のときだった。アザがあるので、面接試験では苦労するだろうと思った。

アザを隠す化粧品会社を訪ねた。メイク技術を習得して、普通の顔で面接試験を受験すればよい、と考えたのだ。だが、メイクすることへの違和感を覚え、自分には向いていないと思った。

その会社には、顔にアザのある美容部員が働いていた。そのメイク技術に感動した私は、この会社で働きたいと思った。だから、私は大学に進学し、有機化学を学んだ。ただ、大学3年の時にベトナム旅行に行ったことをきっかけに、海外報道をするフリージャーナリストに憧れるようになった。

カバーメイクをする石井さん。かつて、ユニークフェイス当事者支援の一環として、カバーメイク研修を開いていた(石井さん提供)
カバーメイクをする石井さん。かつて、ユニークフェイス当事者支援の一環として、カバーメイク研修を開いていた(石井さん提供)

実際に働くと、壁にはならなかった

大学卒業後は海外へ渡る資金を貯めるために、肉体労働のアルバイトをした。食品卸売市場での荷運び作業、冷凍コンテナにアスベストを吹き付ける作業もした。求められたのは、身体が丈夫で遅刻せず、まじめに仕事をこなすこと。顔は問題にならなかった。

同時に、ライターの活動を始めた。弁護士の原稿を編集したり、専門医のインタビューをして原稿にまとめたりした。学生時代のベトナム旅行で知り合った男性が経営する広告印刷会社でも働いた。必要に応じて、職を変えてきた。

25歳のとき、フリーライターとして独立。その12年後にNPO法人ユニークフェイスを設立し、忙しい日々を送った。42歳のとき、縁あって結婚。同時に地方都市に移住して、会社員として就職した。家族を養うためには、フリーライター、NPO法人経営ではダメだ、と判断したからだ。

収入の安定する正社員の仕事がいいな、と考えて、友人知人にメールを書いて事情を説明し、就職した。友人がその会社の取締役だったので縁故入社である。

就職活動は、外見に症状がある人たちにとってハードルとなりうる問題だ(画像はイメージ)
就職活動は、外見に症状がある人たちにとってハードルとなりうる問題だ(画像はイメージ) 出典: Getty Images

大手保険会社の面接では、対策を練った

4年勤務したあとに、大手損害保険会社に転職した。当時、既に子どもが2人おり、育てるにはもっと手取り給与が必要になったからである。手取り35万円の初任給、という条件は魅力だった。

この面接試験では、対策を練った。希望者も多い大手なので、工夫をしなければならない。

「君のその顔で飛び込み営業できるのかね」

最終面接で、支店長にこう言われた。

待ってましたとばかりに「もちろんできます。これがその証拠です」と答え、私はこれまで執筆した単行本や雑誌記事を、机に並べた。

「初対面で企業経営者や個人にも話を聴いてきましたし、マスメディアの取材もたくさん受けてきました。飛び込み営業の経験もあります」

支店長は「わかった」と言い、にやりと笑った。採用だった。

企業への飛び込み営業と、テレアポ営業を集中的にやった。見知らぬ人との初対面が続く。顔のアザが問題になることはなかった。経営者は、その営業マン個人には興味はない、保険商品の内容と、丁寧に説明する力をみている。研修で学んだ営業スキルを忠実に実行するだけだった。

2018年、愛知県に在住していた頃の石井さん。建設業の会社員をしていた。その後、愛知県から川崎に移住する(岩井建樹撮影)
2018年、愛知県に在住していた頃の石井さん。建設業の会社員をしていた。その後、愛知県から川崎に移住する(岩井建樹撮影)

初対面の人間に私は何をしているか

ユニークフェイスが原因で、私は就職や仕事をする上で大きな苦労をしたことはない。だからと言って、「顔に症状がある人は、就職の心配をしなくてもいい」とはならない。当事者は、差別を受けているからだ。

私個人のテクニックだけれども、初対面のときに意識的にやっていることを整理してみよう。

「初対面で差別をする人は、1パーセントくらいと見積もる」。初対面で、私の顔を見て、蔑視やひどい態度をする人間は多くはない。ざっと1%くらいだろうか。ほとんどの人は、私の顔を見ても動じない。

「相手の表情を観察する」。初対面の人の顔と表情をしっかり見つめる。見られる側ではなく見る側になることでコミュニケーションの主導権を握れる。蔑視の視線が、私の顔のアザに注がれるときがある。その蔑視はすぐに感じ取ることができる。私はその視線を、見つめ返す。すると相手の表情から、蔑視の態度が消えていく。ジロジロ見たら失礼だ、と気づかせる。

 「第一印象で人間を評価しない」。第一印象で相手の人間性を決めつける人が多い。だから私はその逆をいく。初対面でひどい印象でも気にしない。「その人の調子が悪かっただけだろう」と考える。人間の評価は、数回話してから決める。

 「むき出しの悪意を向けてくる人間を避ける」。私のアザを見た瞬間に敵意や嫌悪感をむき出しにする人間が、ごくたまにいる。男女関係なくいる。このタイプの人と出会ってしまったときは避ける。つねに人間観察をしていれば勘が磨かれて、見つけることができる。ビジネスなので、避けることが合理的判断だ。

 「外見ではない、言動だけをみている人間を探す」。第一印象や外見ではなく、人間の言動だけを見るタイプの人は存在している。私のアザを見ないで、目を見てコミュニケーションする人にそのタイプが多い。

 「本当に気の合う人は1000人に1人」。営業の仕事をして「千三つ」という言葉を知った。1000人にテレアポ営業すると3人とアポが取れる。そのうち1人から契約がとれたら大成功。これは営業だけでなく、現実の人間関係にも当てはまると思う。1000人と会っても友人になれるのは3人。長いつきあいになるのは1人。

当事者からは「そう考えられるのは、石井さんが強いから」と言われるかもしれない。それでも、一つでも参考になったらうれしく思う。

2年半前、石井さんは転居した川崎の地で父と同じタクシードライバーとなった(岩井建樹撮影)
2年半前、石井さんは転居した川崎の地で父と同じタクシードライバーとなった(岩井建樹撮影)

タクシードライバーという職業が好きだ

私が最も力を入れてきた仕事は文筆業、そしてユニークフェイス活動だった。収入とは関係なく、この二つ以上にやりがいのある仕事はない、と思っていた。だが、それは間違っていた。

2019年5月、川崎に転居し、タクシードライバーになった。離婚して人生再スタートになったのがきっかけだ。亡き父は30年以上、個人タクシーをやっていたので身近な職業だった。

タクシーに乗り始め、すぐにこの仕事を好きになった。

タクシーは、後部座席に座ったお客さんと、背中越しでの接客になる。お客さんと直接、顔を見て話をすることがない。

そして、日本の自動車は右ハンドルだ。私の顔のアザは右側にある。すると、後部座席のお客さんから、私の顔のアザは死角になって見えない。2年で約1万人のお客様を乗せてきただろう。いちども、顔をジロジロ見られたことがない。初めての経験である。

「アザを見られないのは、なんてラクなんだ!!」。率直な思いである。

目的地への道中で、「いつコロナ禍が終わるんでしょうね」といったお客さんの嘆きの声を聴く。相づちを打つか沈黙する。タクシードライバーは、世界に直接触れている職業なのだ、と感じる瞬間だ。

経営者、ギャンブラー、風俗嬢、会社員、主婦、高齢者、酔っ払い、公務員、塾通いの中学生、不倫カップル。様々な人が乗って、つぶやき降りていく。一日中、冷暖房のきいたオフィスにいては会えない多様な人たちと会える。

2年働いて、東京のタクシー会社に移籍した。いくつかの会社の面接を受けたが、冒頭で説明した1社だけが差別的な対応をしてきた。腹は立ったけれども、これまで順調すぎたのかもしれない。世界には、やっぱり差別が残っている。

タクシードライバーの仕事は、石井さんにとって天職だ(画像はイメージ)
タクシードライバーの仕事は、石井さんにとって天職だ(画像はイメージ) 出典: Getty Images

どんな外見でも仕事のチャンスは必ずやってくる

こうして「顔と仕事」というテーマについて振り返るうちに、私は自分の外見にマイナスイメージを持っていない、と気づいた。自分の顔のイメージを、セルフプロデュースしていたのだ。

これまでの人生経験で蓄積してきた対人関係の能力をフルに使ってきた。差別されやすい外見なので、差別しない人間や組織を見つけるために五感を使って情報収集をした。それがうまくかみ合ったとき、仕事のチャンスがやってくる。

人生は予測不可能な冒険だ。

差別に遭うこともあるし、初対面で友になることもある。

社会も人間関係もすべては変化する。その変化を恐れることなく、向かっていく。サバイバルできて、幸福になるチャンスは必ずやってくる。

これは根拠のない楽観主義ではない。経験から身についた信念だ。外見で差別してはいけないという考え方も少しずつだが社会に広まっている。10年後、社会は今以上に変化しているだろう。

今年12月、京都のタクシー会社に移籍した。新しい冒険の始まりだ。

【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考える内容です。

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