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グルメ

いつも食べているチーズの深刻な〝破棄物問題〟原料の9割が無駄に…

那須の酪農家が目指す「ハッピーな解決法」

牧草地で思う存分草を食べる牛たち
牧草地で思う存分草を食べる牛たち

目次

私たちがいつも食べているチーズ、実は、膨大な廃棄物を生みだしていること知っていますか? 原料の牛乳のうち9割が廃棄されるという実態……。そんな深刻な現実に「ハッピーな解決法」で立ち向かう牧場主がいます。廃棄される「ホエイ」を使ったお菓子作りを目指しています。しかも、以前にはバターの課題解決にも取り組んでいた牧場主。都心の消費者も巻き込むユニークな活動について聞きました。(FUKKO DESIGN・木村充慶)

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※クリックすると特集ページに移ります(タイトルイメージは、女優・創作あーちすと のんさんの原画を元に作りました)。

実は珍しい「放牧の牛乳」

栃木県那須の小高い山にある「森林ノ牧場」。森林の中にある放牧地で牛を放牧しています。

自然の風味たっぷりの放牧の牛乳はもちろん、その牛乳を生かしたソフトクリーム、バターなども製造、販売しています。

牛乳のテレビCMの印象もあって、販売されている牛乳を放牧されたものと思っている人もいるかもしれませんが、酪農において放牧は主流ではありません。北海道では約31%、都府県では4.5%しか放牧されていません。多くの場合、牛舎でつなぎ飼いなどをされています。

※放牧の割合は、(一社)日本草地畜産種子協会調べによる放牧頭数、畜産統計による飼養頭数に基づいています(平成31年2月1日現在)
 
牛舎の中で暮らす牛と比べ、放牧の牛は牧草地を自由に歩き回ることができます。好きな時に草を食べ、そのまま排泄し、その糞から草が生え、またそれが餌の草となる。自然が循環する仕組みから、最近では温暖化対策、SDGsとしてよく取り上げられます。
 
牛にとっても健康的に生きられるため、動物にとって可能な限りストレスない暮らしを目指す飼育方法「アニマルウェルフェア」としても注目されています。
太陽に当たり、気持ちよさそうに昼寝をする牛
太陽に当たり、気持ちよさそうに昼寝をする牛

バター作りの課題から生まれたお菓子

注目の放牧酪農を行っている「森林ノ牧場」の牛乳を使って生み出されたお菓子が、「バターのいとこ」です。

放牧された風味たっぷりの牛乳からできた甘いジャムが入った「ゴーフル」と呼ばれるお菓子です。口に入れると、甘みの中にある牛乳の風味が広がります。

味はもちろんのこと、フランス菓子らしい雰囲気、そして、お洒落なパッケージが相まって、地元の栃木県那須だけでなく、東京など各地で販売され、若い女性などに人気の商品となっています。

「バターのいとこ」。筆者が東京で購入したもの
「バターのいとこ」。筆者が東京で購入したもの

人気の「バターのいとこ」ですが、実はバター作りの課題から生まれました。

バターを作る際には、バターの他にスキムミルクができます。バターは牛乳から作られますが、使われるのは牛乳全体の約4%にすぎません。残りの約96%はスキムミルクとなるのですが、ほとんどは脱脂粉乳に加工されています。

ただし、スキムミルクを脱脂粉乳に加工するのは小ロットの牧場では難しい問題です。それはロット(生産数)と費用の問題があるからです。

大規模な牧場であれば、ある程度の量を見込んで、脱脂粉乳の設備も投資ができます。しかし、小規模な牧場ではロットが小さく、設備を導入するための多額の投資は大変です。結果、スキムミルクの問題が解決されず、バター作りを諦めている人がほとんどでした。

「なんとかバターを作りたいと思ったんです。その時に、スキムミルクの価値向上が必要なんだと考えました。スキムミルクの価値を引き出すことでより良い事業ビジネスとして成り立ち、バター作りがしやすくなります。そこで、スキムミルクをもとにした乳酸菌飲料の『キスミル』を作りました」

スキムミルクの課題を解決する商品ということで多くの人が注目してくれました。ただし、キスミルを販売する中で、地元の仲間が「スキムミルク」の課題を理解し、もっといろいろな使い道があるのではという話になりました。

そこで、飲食店をやっている仲間を中心にスキームミルクを生かした商品作りを考える中で、スキムミルクを煮詰めたミルクジャムを作って、それを入れたお菓子を作ることにしました。それが「バターのいとこ」です。

「商品として販売するとなると、牧場だけでできないことがあるなと痛感しました。僕たちの仕事は牛乳の生産が中心なので、消費者のニーズを肌では感じづらいところもあります。常にお客さんと接して加工商品を作っている仲間と一緒に作ることで、より世の中のニーズに合うものができたんじゃないかなと思いました」

お菓子を作っているところ
お菓子を作っているところ

お菓子の作り手は地域の障害者や子育て世代の主婦たち

生み出されたスキムミルクを使ったお菓子。最初は仲間と運営する飲食店「Chus」の中でこじんまりとバターのいとこを焼いて販売していましたが、売れ行きも良くなり本格的な工房を作ることになりました。

バターのいとこの工房の中では新たな担い手として障害者の方や子育て世代の主婦やシニア層の方が働くようになりました。

「障害者の方には調子の良し悪しがあったり、子育て世代の奥さま方には仕事が子供の学校行事に左右されたり、シニア世代のように体力的に長時間は働けなかったり。安定的な労働はできなくとも大人数で補い合いながら誰もが働ける環境を作りました」(山川さん)

様々な人たちの力が合わさって製造がスタート。地元のお土産として販売をはじめると「バターのいとこ」はすぐに人気に。今では地元だけでなく東京でも販売され、ファンもたくさんいるそうです。

お菓子を作っているところ
お菓子を作っているところ

チーズの副産物でも

山川さんたちが次に考えているのがチーズの副産物「ホエイ」を生かすプロジェクトです。

チーズは牛乳から作る時に大量の副産物「ホエイ」を生みます。牛乳からできるチーズのうち何と約90%がホエイになります。

ホエイの場合はバターと異なり、利用方法が確立されておらず大部分が破棄されます。それでも成り立つようにチーズの単価はある程度高く設定されるのですが、破棄されるものをなんとか生かせないか、と山川さんと地元の仲間で一緒に考えました。

「今までチーズは関税に守られてきました。ただし、今後関税が段階的に下がり、最終的には撤廃され、日本のチーズ業界は厳しい状況になると言われています。しかし、ホエイを生かすことで今まで出費となっていた廃棄がなくなることはもとより、新たな収益源が生まれるんです。」

ホエイを調べていくと、ノルウェイにはホエイを煮詰め、キャラメルのような「ブラウンチーズ」があることがわかりました。そこで、山川さんたちは、ブラウンチーズを作る調理器具をそろえて商品を開発するためのクラウドファンディングを始めました。

山川さんたちが始めたホエイを活用するためのクラウドファンディング「ホエイの未来PROJECT」
山川さんたちが始めたホエイを活用するためのクラウドファンディング「ホエイの未来PROJECT」 出典:https://camp-fire.jp/projects/view/482515

さらに、山川さんはホエイの活用は収益化は、さらなるチーズの多様性につながると言います。

「小さなチーズ工房たちが自分たちで収益を得られるようになることで、様々なチーズが生み出され、酪農業界全体の底上げになると思います。そのためにもホエイの活用方法を見出して、そのノウハウを自社だけでなく周りの工房、そして日本のチーズ業界にシェアしたいと思っています」

「牛が持つ力を最大化して様々な課題を解決したい」

山川さんはお菓子作りだけでなく、牧場を生かして様々なことで社会に貢献したいと考えます。

「『バターのいとこ』や今回のクラウドファンディングはあくまで手段です。牛や牧場の生み出せる価値を最大限発揮し、様々な課題を解決していきたいです」

最近、第二牧場も作りました。地方で活用されていない耕作放棄地はたくさんあります。牛の力を生かしながら、森林を資源に変え、さらに、多くの人が訪れ、地域の課題解決になるような牧場作りをしたいと考えています。

「東京など都心部で働いている人には感謝しています。彼らがいるから国が回っているところもあります。那須は東京から新幹線ですぐ近く。疲れた都会の人が那須の牧場に来て癒されて欲しいなと思います」

牧場で牛と触れ合う山川さん。牛は全て名前をつけて可愛がっている
牧場で牛と触れ合う山川さん。牛は全て名前をつけて可愛がっている

仲間とポジティブに解決していく――取材を終えて

スキムミルクやホエイなどの乳製品について、一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、どのような過程で生まれるか知っている人はそう多くないと思います。まして、それらがバターやチーズの製造における課題につながっていることを知っている人はかなり少ないと思います。事実、牛乳屋の息子である私もしっかりとは理解していませんでした。

スキムミルクを脱脂粉乳として販売したり、ホエイを家畜の餌に混ぜたり、いろいろな活用法がすでに実践されていますが、まだまだそこには課題がありました。

そんな中、美味しいお菓子として販売するというのは素晴らしい解決策だなと感じました。おいしいからこそ、どんどん広がって購入も進み、使用される量も増えていきます。

ネガティブなものはそのままだと長続きしないので、ポジティブに解決していくことがとても意味があることだなと改めて感じました。

その逆転の発想もさることながら、その商品を地元の仲間たちと作る、そして、製造でもフルタイムで働けない障害者の方や主婦やシニア層の方に参加してもらうなど、それぞれの思いをつなげて価値にする、新しい仕事のスタイルにも参考にすべきポイントがありました。

 

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