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0歳児3人抱えて逃げられる? 「丁寧に見たいのに」保育士の葛藤

人を増やせない理由

(写真はイメージ=Getty Images)
(写真はイメージ=Getty Images)

目次

仕事や介護、病気などで日中子どもをケアすることが難しい保護者にとって、保育園は頼みの綱です。ただ、現場の保育士さんを訪ねると、園児に対する保育士の最低数を定めた今の「配置基準」が、子どもたちの健やかな育ちを保障するのに十分なのかどうか、不安を感じる声が聞こえてきました。

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「心ゆくまでやらせたい」が難しい現状

名古屋市の私立認可保育園で、園児たちが散歩をしている時にこんなことが起きた。

1歳になったばかりの子ども2人がハトを追いかけて遠くへ行ってしまった。

この園に務める保育士の女性(30)が追いかけようとしたが、今度は砂場で遊んでいる子が1人になってしまう。

女性はとっさに他の保育士に助けを求めた。

砂場で遊んでいた子を託して2人を追いかけたが、もしほかの保育士が手いっぱいだったらハトを追いかけていた2人を「戻ろうね」と連れ戻していたかもしれない。

「本当はその子が楽しんでいることを心ゆくまでやらせてあげたいのに、中断させてしまうのはすごく嫌なんです」

「本当はその子が楽しんでいることを心ゆくまでやらせてあげたいのに、中断させてしまうのはすごく嫌なんです」(写真はイメージ=Getty Images)
「本当はその子が楽しんでいることを心ゆくまでやらせてあげたいのに、中断させてしまうのはすごく嫌なんです」(写真はイメージ=Getty Images)

もし地震が来たら……

女性のクラスは0歳児8人と1歳児5人の計13人。女性と、主任を兼務する保育士が担任となり、パートタイムの保育士も合わせて計4人で受け持つ。

保育士の人数


国の配置基準では、0歳児3人に対し保育士1人以上、1歳児6人に対し保育士1人以上配置することになっている

女性の園は配置基準を満たしているが、不安は拭えない。「地震がきたら、0歳児3人を抱えてどうやって逃げようと常に考えている」

非常時だけではない。現在の最低基準で丁寧な保育をするのは難しいと、日常的に感じている。

名古屋市の女性は「保育士を増やしてほしい。保育士を増やすために給与をあげてほしい。一人でこんなにたくさんの子をみているのに、給与は低くて、責任は重いなんて…」とため息交じりに話す。

【前編】「生活できへんやろ」息子は言った 保育士の給与上げにくい理由
(写真はイメージ=Getty Images)
(写真はイメージ=Getty Images)

ただ、保育士を増やすのも簡単ではない。保育士の有効求人倍率(2021年9月)は2.58倍。全職種平均の1.05倍と比べて高く、人手不足が問題になっている。

東京都の調査(2018年)では、過去に保育士として働いていた人が退職した理由は「職場の人間関係」が33.5%で最も多く、「給料が安い」が29.2%で続いた。

特に私立認可園の保育士の給与については、国が定めた「公定価格」で園に入ってくるお金が決まっているため、園が上げたくても上げにくい。「公定価格」では、国の配置基準をベースに人件費が算定されており、もし園が手厚い保育をしようと独自に基準を上回る保育士を配置した場合、1人の保育士に渡る額が想定より少なくなってしまう難しさもある。

「食べさせる」だけじゃない仕事

三重県鈴鹿市の私立認可保育園で働く保育士の女性(44)も、配置基準を見直す必要性を感じている。

女性は1歳児クラスの担任。国の最低基準では、1歳児クラスは子ども6人に対し保育士1人。女性の園には1歳児クラスの子が16人おり、8人ずつの各クラスに保育士2人を配置している。

単純計算で4対1。国の最低基準より独自に手厚く配置している形だ。

それでも「丁寧にみきれない」と感じる。

特に大変なのが食事の時だ。口に詰め込んで食べてしまう子がいないか、窒息の原因にもなるため、常に目を配っている。

それと同時に、スプーンを使って自分で食べ始めた子をサポートする。

食べるスピードには個人差があり、食べ終わると眠くなってしまう子もいる。お昼寝できるように着替えさせている間は、残りの保育士1人で子ども7人を見る。

「おいしいね」と言葉を交わし、食べる楽しさを感じさせてあげたいのに、おかわりをよそうだけで精いっぱいになってしまうことも。「もう1人、大人がいればと思います」

(写真はイメージ=Getty Images)
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子どものかみつき、気持ち聞きたいのに

さらに1歳は自我が芽生える時期。「○○したい」という子ども同士の思いがぶつかり合うと、言葉でまだうまく説明できないこともあり、相手にかみついてしまうことも。

ある日、絵本を読んでいた子が、近づいてきた他の子をかんでしまった。

近づいた子は一緒に絵本を読みたかったのかもしれない。かんでしまった子は自分が読んでいたのを中断させられたのが嫌だったのかもしれない。双方に、それぞれの思いがある。

「かみつきを止めるだけでなく、気持ちを聞いてあげる保育をしたいのに、今の配置基準でそれをかなえるのは大変。かみつかないように監視だけしているようで苦しくなる時もある」とこぼす。

子どもが好きで、保育士を20年以上続けてきた女性。

「子どもにとって、自分を受け止めてくれる人がいる、認めてくれる人がいるという感覚は、生きていくうえでの基礎となる。そうした感覚を育てるためには、大人との丁寧なやりとりが必要なんです」

「もっと手厚くみてあげたい。みんな違ってみんないいという時代になってきているのに、1対多数の一斉保育にならざるを得ないような今の最低基準は時代遅れではないでしょうか」

(写真はイメージ=Getty Images)
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保育園の先生、ありがとう

今回の取材を通し、「保育士の先生ってこんなに子どものことを考えてくれているんだ」と頭が下がる思いでした。

保育士の先生は、ただ子どもと遊んでいるだけではなく、子どもの心と体の成長を専門知識を持って支えてくれていました。

記者には3歳と1歳の子どもがいます。

もし上の子が砂場で遊んでいる最中に、下の子がハトを追いかけて行ってしまったら?

深く考えずに「危ないから戻ろうね」と下の子を連れ戻していたと思います。

でも、今回取材した保育士の先生は「その子が心ゆくまでハトを追いかけさせてあげたい」と話していました。

「○○したい」という気持ちにこんなに丁寧に寄り添ってもらえたら、自分は自分でいいんだという自己肯定感も育まれるだろうな、とありがたく感じました。

これが、別の保育士の先生が言っていた「丁寧なやりとり」なんだと思いました。

その保育士の先生は「子どもにとって、自分を受け止めてくれる人がいる、という感覚は、生きていく上での基礎となる。そうした感覚を育てるためには、大人との丁寧なやりとりが必要」と強調していました。

今、現場の保育士の先生たちは、こうした子どもとの「丁寧なやりとり」を、たくさんの子を同時にみながら、なんとかやろうとしてくれているのだと感じました。

保育園を設置する際の基準を考えるとき、今回の記事で紹介した保育士さんたちのように、「子どもにとって何が最善か」という視点から考えていけたらいいなと思います。保育園は子どもを預ける場にとどまらず、子どもが育つ場だと、感じるからです。

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