IT・科学
「コロナ禍で太りたくない」子どもたち 〝炭水化物断ち〟が招く被害
危険な「ケトジェニックダイエット」

コロナ禍でのストレスから子どもの患者が増えている摂食障害。やりがいや気晴らしを失い、「自分でコントロールできる」と体重や食事に目がいってしまったり、「運動不足やコロナ太りに気をつけて」というささいな一言から食べるのが怖くなったり……そんな子どもも多いといいます。医師として子どもを診察している鈴木眞理さん(摂食障害協会理事長)に話を聞きました。
「子どもの1,2年の影響は大きい」
鈴木さんの外来でもコロナ禍以降、拒食症の患者が増えているといいます。一方で過食症の患者は数字としてははっきり現れていません。
過食症はバイトのできる高校生といった過食に使えるお金がある世代で多くなりますが、「体重には変化がないので、本人が過食を打ち明けないと周りには分かりません。拒食症も過食症も、隠れて悩んでいる子どもはもっと多いでしょう」と指摘します。

子どもたちが摂食障害に陥るきっかけとして増えているのは「やりがい」「気晴らし」が失われてしまったことです。
・放課後や休みの日に友人と遊んで気晴らしができない
・ステイホームで、増えた家事やテレワークで忙しそうな家族がいて気詰まりする
・狭い家の中にひとりになってホッとする「場」がない
鈴木さんは「子どもにとっての1,2年はとても長く、影響が大きい。大人だって落ち込む状況なのに、子どもならなおさらでしょう」と指摘します。
「コロナで太りたくない」ダイエットへ
家族がダイエットしたり、糖尿病・腎臓病などで食事制限したりしていると「私も食べてはいけない」と思い込む子もいます。
鈴木さんの元にも「コロナの運動不足で太りたくないので、ネットで見た『低炭水化物ダイエット』をしようと思った」と理由を語る子が訪れたといいます。

分かりやすい数字を追う「達成感」も
「ダイエットはネットで調べれば自分ひとりでできます。『やせたね』と褒められることさえある。分かりやすい『数字』を追えばいいので〝達成感〟があり、大人でもハマってしまう人がいます。けれど、成長期に過度なダイエットをすることは本当に危ないんです」
「ダイエットは良いこと」といった価値観から「一緒にダイエットしよう」と誘ったり、「一生懸命やってえらいね」と褒めたりする保護者もいるといいます。
ケトジェニックダイエットの危険性
「とにかく炭水化物が敵なんですね。『1週間で5kgやせた』といった短期間のダイエット情報がSNSやブログなどに出ていると飛びついてしまう。医師からすると『1週間で-5kg』は『何か病気かな』と心配になるレベルです」

「本来は重症のてんかんの人のための『治療食』です。副作用が高い頻度で現れ、便秘や成長障害、骨カルシウムの減少など、たくさんの負の影響が出るため、薬物療法が進んだ今では、薬物抵抗性のてんかんを除いて使われなくなりました」と話します。
ネットでは「脂肪をエネルギーとして使うケトン体を作りましょう」と紹介され、「効率よくやせられるダイエット」のように聞こえますが、「体はぼろぼろになり、体を壊すと今度は太りやすくもなります」と指摘します。
骨格も体質も人それぞれ
「太っていると生活習慣病になる」と反論する人もいますが、鈴木さんは「もともと東洋人はインシュリンの出が悪く、どんなに気をつけていても糖尿病になってしまう人がいます。『全ての病気が予防できるもの』という考え方は危険です」といいます。
子どもの成長を「観察」
鈴木さんは「頭ごなしに『ダメ』と言っても、逆にやりたい気持ちが増したり、隠れて続けたりするでしょう。『どうしてダイエットしたいの?』『どんなダイエットをするの?』『どれぐらいやせたいの?』と子どもの思いを聞いてみてください」とアドバイスします。

出典: ※画像はイメージです GettyImages
鈴木さんは「親子で適切なヘルスリテラシーを身につけ、柱で身長を測るといったコミュニケーションをとりながら、子どもの成長をチェックしてみてはいかがでしょうか。体重が過度に減っていないか、生理が止まっていないか、監視ではないけれど『観察』はしてほしいです」とも呼びかけます。
また、子どもの行き場のない気持ちを受け止め、遠方へのドライブ、ベランダでのキャンプなど、「気晴らし」に誘うことも勧めています。
大人の意識のアップデートを
「雑誌の販売部数が伸びるからと危険なダイエット情報を出したり、修正したモデルの写真を使ったり……。それが子どもたちの心に大きく影響していることも知ってほしい。社会にいる大人の意識をアップデートすることが大切だと思います」
1979年、長崎大学医学部卒業。2002年から政策研究大学院大保健管理センター教授を務め、現在は名誉教授。2020年から現職。総合内科専門医・内分泌代謝科専門医・日本医師会認定産業医。摂食障害の治療と研究と同時に家族会を主催。共著に『摂食障害:見る読むクリニック』など。
鈴木さんが理事長を務め、摂食障害の情報も掲載している日本摂食障害協会のページはこちら(https://www.jafed.jp/)。
コロナ禍を経て、「太るのが嫌で食べるのが怖くなった」「食事量が減った」など、子どもの「食べる」にまつわる変化はありましたか。ご意見や体験談をこちら(https://forms.gle/LzT2fKs6wzgxdrMP9)までお寄せ下さい。