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連載

#21 マスニッチの時代

〝ストロング系〟やめたオリオンビール ジャーナリズム化する広告

僕の広告人生を変えた「フィアレスガール」の衝撃

ビール大手が発売するストロング系チューハイ。オリオンビールは撤退した
ビール大手が発売するストロング系チューハイ。オリオンビールは撤退した 出典: 朝日新聞

目次

企業広告や販売戦略の現場で社会問題に向き合うケースが増えています。女性の社会進出の大切を訴えた「フィアレスガール」の像が世界的に注目を集め、「オリオンビール」はアルコール度数の高い〝ストロング系〟缶チューハイの販売をやめました。著書『広告がなくなる日』で単なる商品の宣伝にとどまらないブランドジャーナリズムの大切さを説いた牧野圭太さんと一緒に、広告とジャーナリズムの関係について考えます。

プレモルと絶品プリン。withnewsチームが見つけた共通点とは(PR)
【11月16日19時オンライン開催】荻上チキさんと考える「となりの陰謀論」――〝ちゃんとした情報〟との出会い方
 

 

牧野圭太(まきの・けいた)
1984年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。東京大学大学院情報理工学系研究科修了。2009年博報堂入社、コピーライターに配属。HAKUHODO THE DAYを経て、2015年独立し、株式会社文鳥社設立。1作品最大16ページという「文鳥文庫」を制作。「Oisix」と「クレヨンしんちゃん」のコラボレーション広告、旬八青果店立ち上げのほか、話題性のある広告やプロモーションを手掛ける。2020年末にDEを共同創業。
 

 

奥山晶二郎(おくやま・しょうじろう)
朝日新聞withnews編集長。共著に『フェイクニュースに震撼する民主主義』(大学教育出版)。近著『現場で使える Web編集の教科書』(朝日新聞出版)を記念し、11月16日19時から、代官山蔦屋オンラインイベント「荻上チキさんと考える『となりの陰謀論』――〝ちゃんとした情報〟との出会い方」を開催予定(https://peatix.com/event/3058408/)。
 

「ジャーナリズムだな」と思ったフィアレスガール

※記事は、9月17日にあった代官山蔦屋書店オンラインライブ「広告と報道のプロが語り合う Webで価値ある情報を発信する“編集力“のこと」での議論をまとめました
牧野:
広告とジャーナリズムは、役割としては違うので、完全に一緒にはならないと思いますが、社会への関与は必要になってくるでしょうし、なるべきだと思っています。

商品の宣伝だけではない、企業広告が社会問題も扱うブランドジャーナリズムみたいな流れはどんどん増えてくるはずです。

僕の広告人生を変えたものに、アメリカで生まれた「フィアレスガール(恐れを知らぬ少女)」があります。女性をエンパワーメントする目的で、少女の銅像を牛の前に置いた。あれを見たとき、ジャーナリズムだなと思った。課題に対して投げかけて、その問題を明るみに出す。広告のコミュニケーションの中で、そういうことができるってかっこいいなと思いました。

でも、日本だとまだ起きていなくて。日本でもそういうカルチャーを作っていきたい。
フィアレスガール(恐れを知らぬ少女)2017年3月、国際女性デーに合わせて米大手資産運用会社が設置した牛の銅像に向き合う少女の像。1週間限定の「ゲリラアート」として出現したが、常設を求める署名活動が起きるなど注目を集めた(写真はロイター)
フィアレスガール(恐れを知らぬ少女)2017年3月、国際女性デーに合わせて米大手資産運用会社が設置した牛の銅像に向き合う少女の像。1週間限定の「ゲリラアート」として出現したが、常設を求める署名活動が起きるなど注目を集めた(写真はロイター)
奥山:
私も近づいていかざるを得ないと思っています。将来的には、報道機関が作る広告や、広告会社による報道があるかもしれない。ボーダーレスになって、いいとこどりができるようになっていくといい。

その上で、報道と広告との違いは、しゃくし定規にいうと、発信する側も含めて批判する対象になるかどうか。児童労働の問題を抱えている企業が、それを自分の広告費で啓発するキャンペーンをできるかどうか。株式会社でやろうとしていたら株主は許さないかもしれない。

一方で、「オリオンビール」がアルコール度数の高い缶チューハイの販売をやめるというケースも生まれています。ヒット商品を自分の手で中止する。その行為自体が、ブランドジャーナリズムともいえる決断になっています。そういう動きを見ていると、近いことはもう起きているのかなとも思います。

報道機関にも「訂正」や「おわび」の欄があるけれど、「オリオンビール」の決断に比べると、こそこそしている感じがある。悩んでいる姿をもっと見せた方がいいんじゃないかなと思っています。
 
スーパーの缶チューハイ売り場。ビール類と同じ棚の広さに商品がずらりと並ぶ=2018年9月14日、大阪府大東市
スーパーの缶チューハイ売り場。ビール類と同じ棚の広さに商品がずらりと並ぶ=2018年9月14日、大阪府大東市
出典: 朝日新聞

前に進めるプロデューサーの大切さ

牧野:
ブランドジャーナリズムのような新しいジャンルの仕事に挑戦するためには、アイデアを出すだけでなく、それを前に進める人材が必要です。

アイデアを考えるクリエーターと、世に出して形にするプロデューサーは全然違う。世の中で形にすることがすごく難しい。クリエーターに光が当たりがちなんですけど、考えながらドライブして進めていってくれるプロデューサーは尊い。それに焦点が当たってほしいと思っています。

奥山:
うちの会社ならではなのかもしれませんが、一番最強のプロデューサーは、文句言わない上司だと思っています。無責任というわけはなくて、何かあったら対応してくれるんですけど。「ネットとか、よくわからないから任せる」というスタンス。

私は今、44歳ですけど、「TikTok」は正直、当事者ではない。でも、これが受け入れられているコミュニティーがあるならやってから考えようとは思っています。

牧野:
組織で一番嫌いなのは、組織上立場が上の人が、若い人たちの「翼を折る」こと。そういうのも含めて社会の余裕のなさが現れてしまうのかなと思っています。
牧野さんの著書『広告がなくなる日』(クロスメディア・パブリッシング)ではプロデューサーの重要性についても書かれている

「ツイッターでは議論しない」

(参加者からの「発信する際に気をつけていることは?」という質問を受けて)

牧野:
僕はかなりツイッターにいるんですけど、きちんと意思を持って発言するようにしています。あまり意見がないのに中途半端に口を挟まない。

そして、基本、ツイッターで議論はしない。コメントも返さない。あそこで議論するのはあまり生産的なものにならないと感じています。意見を発表する場だと割り切っています。顔が見えない人と議論はしない。センシティブなテーマで、顔を合わせないで議論するのは難しい。

奥山:
その考え、すごく大事です。さっそく社内に広めます。

私の場合は、分からないことは触らない、ということ。その結果、ツイッターの投稿が減ってしまうんですけど、自信を持って言えないことには突っ込んでいかない方がいいと思っています。

紙からウェブ「能力の使い道が変わっただけ」

(参加者からの「紙出身からウェブ編集者になったのですが、掲載する記事の量が多く、戸惑っています」という質問を受けて)

牧野:
メディアの構造が変わっても、それぞれの持っている能力って変わりません。紙からウェブはギャップがあるように感じるかもしれませんが、能力の使い道が変わっただけ。生かし方が別にあるはずです。

気づいていなかったことはハードルに見えるかもしれないけど、別の場所で培った能力は、どこでだって通用するんじゃないかなと思っています。

奥山:
クオリティーに対するとらえ方を広く持ってもいいのかなと思います。

1本の記事のクオリティーは紙と比べると落ちてしまうかもしれないけど、メディアをサービスと考えた場合、毎週同じ人のコラムが更新される状態の方が、クオリティーが高いとも言える。

1本1本のクオリティーにこだわって、更新が滞ると、ユーザー的にはクオリティーが落ちたと受け止められる。そのあたりを割り切れるといいのかなと思います。

その上で、数字などは関係なく、本当にやりたいことを作っておく。無料の発信の手段はいっぱいある。本にならないならやらない、という狭い考えをする時代ではないと思います。「note」だけでもいい。ツイッターだけでいい。そういう自分の裁量でコントロールできる所でこつこつ積み上げて、自分の中でバランスを取ることを考えていいかもしれません。

11月16日19時から荻上チキさんとイベント開催!

様々な情報があふれるたネットの世界で、〝ちゃんとした情報〟に出会うのは難しい――。そう感じることはありませんか?

極端な意見や間違った事実を信じてしまうと、身近な人の健康を損なったり、誰かの攻撃に加担してしまったり……そんな「落とし穴」にはまってしまうことも。一方で、誰でもSNSなどで発信者になる時代でもあり、〝ちゃんとした情報〟を届けるには様々な工夫が必要です。

その時に大切なのは「編集」という視点です。

メディア論・政治経済・社会問題まで幅広く扱う評論家の荻上チキさんと一緒に考えます。

【11月16日19時オンライン開催】荻上チキさんと考える「となりの陰謀論」――〝ちゃんとした情報〟との出会い方
 
 

人々の関心や趣味嗜好(しこう)が細分化した時代に合わせて、ネット上には、SNSやブログ、動画サービスなど様々なサービスが生まれています。そんな中で大きくなっているのが、限られた人だけに向けた「ニッチ」な世界の存在です。ネットがなかった頃に比べれば手軽に様々な情報を得ることができるようなった一方、誰もが知っている「マス」の役割が小さくなったことで、考え方の違う人同士の分断を招きかねない問題も生まれています。膨大な情報があふれるネットの世界から、「マスニッチの時代」を考えます。
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