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郵便受けに「2票届いた」女性、いったい何が? 自治体〝苦肉の策〟
タイトな日程、追い詰められた結果……
31日に投開票される衆院選の有権者の元に、それぞれの投票所を指定したハガキが2通、届きました。「私って2票あるの?」。選管に聞いて見ると、今回の選挙ならでは〝苦肉の策〟だったことがわかりました。
岩手県釜石市の女性宅の郵便受けに、釜石市選管から「投票所入場券」が届いたのは10月20日のことでした。「あれ? また来た」女性が首をひねりました。
その前日、「あなたは、大槌町から転出されましたが、大槌町の選挙人名簿に登録されており、投票することができます」と書かれたハガキが届いていたからです。ハガキには、大槌町内の投票所と名簿番号、バーコードもついていました。
女性は6月末、大槌町から釜石市に引っ越しました。「釜石市で投票するには手間がかかるんだろうから大槌町で投票しよう」と思っていたところに、釜石市からも投票入場券が届いた形に。最寄りの集会所が指定され、投票区と名簿番号が記されていました。
女性は、25日に買い物のついでに、釜石市で期日前投票をした後、念のために大槌町の選挙管理委員会に電話しました。
担当職員の説明は次のような内容でした。
ではなぜ、女性に投票できると書いたハガキが届いたのか?
「システム上、あなたのように大槌町で投票権のない人の分も交じっていたが、より分けずにハガキを送った。釜石で投票して正解でした」
もし女性が最初に大槌町に投票に行ったら、どうなったのでしょうか。
町選管は「投票ができません」。徒労になるのです。
「もし、投票日の締め切り直前に大槌町で投票しようとしていたら、釜石市に戻って投票できなかった」
「両方の選挙人名簿に登録されているのなら、実は二重投票が可能だったのでは……」
色んな疑問がわいてきました。
女性は、選挙で起きた出来事をツイッターに投稿していました。
ツイートを見た私は、大槌町選管の担当者に、なぜそんなことになったのかあらためて聞いてみました。
すると「申し訳ありません。準備期間が短すぎたもので……」という答えが返ってきました。
原因の一つが選挙日程です。
3カ月以内に住民登録がなくなった元住民には町内で投票する権利があるので、通知のハガキを送る必要があります。
公職選挙法には、転出後、選挙人名簿を抹消するのは「市町村の区域内に住所を有しなくなった日後4カ月を経過するに至ったとき」とあります。転入・転出を届け出る日のずれを考えてのことと思われます。
つまり、選挙人名簿には、住民票が移動して3カ月以上、4カ月以下の元住民分が残っているので、ひとまず選挙人名簿にある有権者全員分のハガキを印刷して、できたらその人たちの分を手作業で抜き取らねばならないことになります。
これまでなら印刷したハガキが届いた後に抜き取り作業をする日程的余裕がありましたが、今回はその作業で発送が1日でも遅れると、期日前投票が始まる20日までにハガキが届かない人が多くなってしまう恐れがありました。
実際には、ハガキが来なくても本人確認ができる物を持って行けば、所定の投票所で期日前投票ができますが、「それを知らない有権者からの問い合わせの電話がたくさんかかってくる。それよりは、まず全部送ってしまおう」。
そう、町選管は考えたのでした。
町選管は、誤配される有権者が必ず何人かいるだろうことは承知のうえで、抜き取らずに発送しました。その後、チェックして投票できないようにするので「二重投票はない」と説明します。
有権者が1万人ほどの大槌町でそうなら、大都市はどうなんだろうか。県選管に聞くと「把握していませんが、他の自治体でもありうることですね」
釜石市の選管に聞くと、市役所に印刷したハガキが届けられるのが週明けになると、印刷を発注した会社に言われたので、職員が週末に取りにいき、休日返上で抜き出しをした後にハガキを発送しました。それでも「ハガキがまだ届かない」という苦情がかなり来たようです。
解散から5日後に公示という、戦後で最も準備期間が短い選挙が、こんな事態を生んでしまいました。各自治体とも、ワクチン接種のために人手が必要なタイミングでの選挙となりました。さらにタイトな日程が追い打ちをかけました。
大事な1票を巡って起きた〝苦肉の策〟。「2票分」届いた人には、追って通知を送ったり、気をつけるように広報したりする必要はあるようです。
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