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「M-1」で味わった夢のような2分間の舞台 1回戦敗退がくれた財産

置き去りにした青春 誓った〝いつか必ず〟

M-1の1回戦で漫才をする後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影
M-1の1回戦で漫才をする後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影

目次

年末の決勝に向かって予選が進んでいる、漫才の頂上決戦「M-1グランプリ2021」。記者の私(38)は今年、同僚(32)とコンビを組んで出場しました。その名も「新聞社から来たサンライズ」。自身〝6度目〟の挑戦となったM-1の舞台。人を笑わせることの難しさと、考える中で生まれる成長。何より、そこには、置き去りにした〝青春〟がありました――。(朝日新聞記者・仲程雄平)

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「号外でーす!」「号外でーす!」

私たちが立った1回戦の舞台=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影
私たちが立った1回戦の舞台=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影

「号外でーす!」「号外でーす!」

9月23日、M-1の1回戦の会場となった、心斎橋PARCO(大阪市中央区)のイベントスペース「SPACE14」。

私と、同僚で相方の後藤隆之記者が、勢いよく舞台に飛び出しました。

演者を迎え入れる、観客の温かい拍手が私たちを包み込みました――。

M-1はプロ・アマ問わず、結成15年以内(当時は10年以内)の2人以上の漫才師であれば、エントリーフィー(1組2千円)を払えば、誰でも出場できます。

ここ数年は5千組以上がエントリー。

1回戦のネタ時間は2分。

「とにかくおもしろい漫才」が審査基準になっています。

私と相方の後藤記者は6月24日、「新聞社から来たサンライズ」を結成。

体験を記事化する前提で、M-1に挑戦することになりました。

後藤記者にとっては、初めてのM-1の舞台。

私にとっては、10代~20代の頃以来の〝6度目〟の舞台。

どうして私がM-1にそこまでの思い入れがあるのか、ということや、本番までの道のりについては、配信済みの記事をお読み下さい。

「心臓がバクバクしてます」

1回戦の会場が入る心斎橋PARCO=大阪市中央区
1回戦の会場が入る心斎橋PARCO=大阪市中央区

迎えた9月23日。

コンビ結成からたった3カ月。

急ごしらえではありましたが、やるべきことはやったと自負していましたので、自信をもってこの日を迎えました。

午前11時開演で、出番は12番目。

朝に会社でネタ合わせをしてから、1回戦会場の「SPACE14」に向かいました。

緊張はありませんでした。

むしろ、いよいよ自分たちの漫才を披露できる、という高揚感が勝っていました

会場では、出場者に対してもコロナ対策が徹底されていました。

「密」が生まれないように、出場者は時間を区切って4組ごとに集められ、検温などを経て控室に入りました。

控室でもマスクは着けたまま、コンビどうし間隔を空けて並びました。

会場の控室に入った後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日、大阪市中央区
会場の控室に入った後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日、大阪市中央区

刻々と迫る出番。

相方の後藤記者の表情を見てギョッとしました。

血の気が引いていました。

会場の雰囲気にのまれてしまっていました。

「おいおい、大丈夫かいな」

そう言う私に、後藤記者は「心臓がバクバクしてます」。

このままではマズイ。

絶対にネタが飛ぶ、と危機感を抱きました。

出番までは20分ほどしかありません。

それまでに何としてでも、後藤記者を奮い立たせないといけません。

舞台袖に行くまで、何度も何度も小声でネタを合わせ、後藤記者をネタに集中させようとしました。

しきりに握手をし、肩をたたき、緊張をほぐそうとしました。

そのかいあって、舞台袖にたどり着いた頃には、後藤記者は落ち着いていました。

そして、前のコンビが舞台袖に退きました。

夢のような2分間

M-1の1回戦で漫才をする後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影
M-1の1回戦で漫才をする後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影

「号外でーす!」「号外でーす!」

声を張り上げて、私と昭和の新聞記者の格好をした後藤記者が、舞台に飛び出しました。

半分近くが埋まった客席。

そこには同僚の姿もありました。

ただ、私はネタが飛ぶことをおそれて、観客の顔を見ないようにしようと決めていましたから、舞台からは確認していません。

一方の後藤記者は、控室のときとは打って変わって、舞台上では落ち着いていました。

客席に同僚がいるのは、舞台上から確認できたそうです。

演者を迎え入れる、観客の拍手が、とにかく温かかったです。

私たちは、新聞記者が首相官邸に行って総理大臣を取材するネタ、を披露しました。

はっきり言って、ネタの入りから、笑いはとれませんでした。

ただ、そういう事態は織り込み済みです。

お互いにネタを飛ばすことなく、練習どおり、大きな声でやりきりました。

無意識のうちに言葉をつないだように思います。

2分は文字どおり、あっという間に過ぎました。

夢のような2分でした。

私は生き生きと演技する後藤記者を見ていました。

しっかり客席にも視線を向けていました。

頼もしかったですし、何より、楽しかったです。

M-1の1回戦で漫才をする後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影
M-1の1回戦で漫才をする後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日午前、大阪市中央区、遠藤真梨撮影

舞台に立っている2分間は、ほんとうに心地がよかった。

「おまえがニュースになるわ!」

私が締めのツッコミをし、2人は拍手を耳に舞台袖に退きました。

まず、やりきった、と思いました。

笑いはとれませんでしたが、達成感はありました。

休憩時間には、MCの芸人が自分たちのことを話題にしてくれたようで、インパクトは残すことができた、と思いました。

抜け殻になったけれど……

結果はその日の夕方、これもコロナ対策で、インスタグラムの生配信で発表されました。

会社の片隅で、2人で見守りました。

インスタグラムの結果発表生配信を見守る後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日夕、大阪市北区の朝日新聞大阪本社
インスタグラムの結果発表生配信を見守る後藤隆之記者(左)と私=2021年9月23日夕、大阪市北区の朝日新聞大阪本社

この日出場したのは122組。

1回戦を通過したのは25組で、うち16組がアマチュア。

「新聞社から来たサンライズ」は呼ばれませんでした。

予想はしていましたが、ショックは大きかったです。

後藤記者は「大学受験に失敗したときのようなダメージ」と表現しました。

時間をかけて創作してきたものが否定される、ということはそういうことなんです。

発表後、その日は2人とも、魂の抜け殻のようになっていました。

またしてもかなわなかった1回戦突破。

ネタがマニアック過ぎて伝わらなかったのではないか、声が聞き取れなかったのではないか――などと2人で敗因を分析しています。

新聞記者の仕事をわかりやすく伝える、という今回の試みは、記事を書く普段の仕事にも通じることだと思います。

難しい事柄をわかりやすく記事にして伝えることは、新聞記者にとって大事な能力だからです。

人を笑わせるために求められるスキル。

それは普段の仕事や生活にもつながっています。

1回戦敗退という出来事は、そんなことを教えてくれました。

M-1の舞台には青春があるように思います。

舞台上の私たちを撮った写真を見て、改めてそう思いました。

2人とも生き生きとした表情をしていて、漫才を楽しんでいるように見えます。

我ながら、ほほえんでしまいました。

ただ、今回の結果を踏まえると、私にはお笑いのセンスはない、と認めざるを得えません。

だから、笑いをとる、などというぜいたくは、もう言いません。

でも、いつか必ず1回戦は突破してやる。

そう心に誓いました。

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