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ハライチの2人が到達した〝高度なバランス〟コンビ格差乗り越え開花

ぶれない岩井、ジワジワと存在感高める

ハライチの岩井勇気(左)と澤部佑=2015年11月20日
ハライチの岩井勇気(左)と澤部佑=2015年11月20日
出典: 朝日新聞

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2021年8月に冠特番『ハライチ×マッチング』(テレビ朝日系)が放送され、勢いづくハライチの澤部佑と岩井勇気。早くからテレビ出演し、「M-1グランプリ2009」の決勝にも進出した。コンビ揃って順風満帆かと思いきや、引っ張りだこになったのは澤部のみだった。それでもコントCD制作やサブカル方面でジワジワと存在感を示していった岩井。そして2人は今、高度なバランスを保ちながら、お笑いの“天下”を見据えている。(ライター・鈴木旭)

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『キャンパスナイトフジ』での歯がゆさ

澤部佑と岩井勇気は、幼稚園からの幼なじみだ。当時から澤部はテレビ好きで周囲を楽しませようとする柔軟なタイプ、岩井はどんな状況でもブレない合理主義者だった。(2021年4月に発売された「クイック・ジャパンvol.155」(太田出版)より)

2人は高校卒業間際の2005年にコンビ結成。同年、ワタナベコメディスクールが開催する「お笑いメジャーリーグ」に出場し、高校生の部でグランプリを受賞。特待生として養成所に入学している。

比較的早い段階でチャンスも巡って来た。ネタ番組に出演し始めて間もなく、2009年4月にスタートした深夜の生放送番組『キャンパスナイトフジ』(フジテレビ系・2010年3月終了)のレギュラーに抜擢されている。ただ、女子大生タレントをメインとした番組では、芸人の立ち位置が難しいであろう部分も垣間見えた。

総合司会はケンドーコバヤシ、レギュラー陣はハライチとゆったり感のほか、当時人気絶頂のはんにゃ、「M-1グランプリ」で知名度を上げたナイツとオードリーだ。最年少コンビのハライチは、必然的に担当コーナーも少ない。生放送でどう振る舞うべきか、悩みながら動いているなと感じたものだ。

2021年4月に配信されたTBSラジオの『ハライチのターン!』ラジオクラウドの中で、澤部自身が「はんにゃ、ナイツ、オードリーがいてのハライチ、ゆったり感。あったんだよな、格差が」と当時を振り返っている。若手としては非常に恵まれた立場だが、だからこそ歯痒い思いがあったのだろう。

“ノリボケ漫才”で知名度が全国区に

コンビの名を全国区にしたのは、「M-1グランプリ2009」の決勝進出だった。岩井のボケを否定せず、そのまま澤部が乗っかるスタイルは“ノリボケ漫才”と称され、一躍時の人となった。2000年代のM-1は、笑い飯の“Wボケ”、オードリーの“ズレ漫才”など、新しい型を持つ漫才が注目された。ハライチは、この流れをうまくつかんだと言える。

2021年8月10日に放送された『ハライチ×マッチング』の中で、岩井は「陣内(智則)さんの羊数えるネタを見てた時に、めちゃくちゃ面白いって。『やりてぇー!』ってなったんですよね」「『羊の背筋が伸びました』みたいな。『羊と思たらカリフラワー』みたいな。全部語呂が合ってて、あそこ。で、俺らのネタも語呂合わせとかにしてるし。絶対入ってるんすよ」と語っている。ノリボケ漫才の着想は、陣内智則の映像コント「羊が一匹…」にあったのだ。

そもそもハライチの2人は、中学時代に見たM-1をきっかけに芸人を目指している。緊迫したリアルな空気感、開拓しがいのある新しい型の漫才は、とくに岩井の感性を刺激したに違いない。ネタでも認められたハライチは、2009年、2010年、2015年、2016年と4大会連続でM-1決勝に進出する。優勝こそしていないが、その実力は広く知れ渡ることになった。

ハライチの澤部佑=2020年10月21日
ハライチの澤部佑=2020年10月21日 出典: 朝日新聞

澤部だけが売れっ子のコンビ格差

ノリボケ漫才は、何と言っても澤部の持ち味が目立つ。まるでアドリブであるかのような返しは、どんな状況でも柔軟に対応するタレント像をもイメージしやすい。案の定、澤部はバラエティーで引っ張りだこになった。

2010年には『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)といった番組にたびたび露出し、2011年には『スター☆ドラフト会議』、『ネプ&イモトの世界番付』(ともに日本テレビ系)で準レギュラー、翌2012年には、『笑っていいとも!』(フジテレビ・関西テレビ系)の曜日レギュラーに抜擢されるなど、みるみる人気者の階段を駆け上がっていった。

一方の岩井は、『ピカルの定理』(フジテレビ系)、『おはスタ』(テレビ東京系)など、コンビでの出演ばかりだった。澤部に比べて圧倒的に露出が少ないだけでなく、この時期の岩井は控えめな印象が強い。それは、2013年8月に放送された『FNS27時間テレビ』(フジテレビ系)の「深夜に復活!!フジテレビ大反省会」を見ても明らかだった。

MCの明石家さんまをはじめ、笑福亭鶴瓶、ナインティナイン、雨上がり決死隊(2021年8月解散)、くりぃむしちゅーなど錚々たるメンバーが揃った生放送のスタジオ。その中、小堺一機、爆笑問題・太田光、ネプチューン・堀内健といった面々から次々と“ノリボケ”のネタを振られ、澤部は爆笑をとった。岩井はこれに乗っかるわけでもなく、ただただひな壇に座り笑っていた。

今振り返れば、「自分が入らないほうが面白い」という岩井の合理的な判断によるものだろう。しかしリアルタイムで見ていた者からすると、寂しげな姿に映って見えたものだ。そんな岩井にスポットが当たったのは、2018年に放送された『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「腐り芸人セラピー」からだった。この企画をきっかけに物事を斜めに見る、毒気のあるキャラクターが認知されていった。

『そんな度胸ねぇだろ』って思うんですよ

2010年代中盤から後半に掛けて教養バラエティーや旅番組なども始まり、澤部は怒涛の活躍を見せた。出演本数は、2020年までに7年連続300本以上。驚異的ともいえる人気ぶりだ。

相方の岩井も、2018年前後から持ち味が発揮され始めた。2017年には企画・構成・脚本を担当したコントCDを発売し、『笑×演』(テレビ朝日系)で役者が演じるネタを提供。また2018年には、趣味であるアニメにスポットを当てた『ハライチ岩井勇気のアニニャン!』(TBSラジオ)、『小説新潮』(新潮社)の連載エッセイ「僕の人生には事件が起きない」がスタートするなど、着実に活動の幅を広げていく。

昨年の『史上空前!! 笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ2020』(TBS系)では、岩井と渡辺直美によるミュージカル風コント「醤油の魔人と塩の魔人」がツイッターでトレンド入りするなど、大きな話題となった。澤部と違い、ジワジワと存在感を増した岩井だが、そのスタンスは一貫したものがある。

「母親が授業参観に来たとき、二択の問題で俺だけがみんなと違う答えに手を挙げたことがあって。結局俺が正解で母親は『うちの子、ヒーローじゃん』って思ったらしいんですけど、多分そのとき俺が思ってたのは『かっこいいところ見せた』『自分の意志を貫いた』とかじゃないんです。『本当はこっちが正解だと思ってたのに怖くて挙げられないヤツ、いっぱいいただろ。臆病なヤツらだな……』って思ってたんですよね、多分(笑)。ずっとそうなんですよ。(中略)『ドリームマッチ』でも『リズムネタはそりゃウケるよな』とか言う人がいましたけど、『でもそんな度胸ねぇだろ』って思うんですよ。だから、発想力と度胸は絶対あると自分で思ってますね」(「クイック・ジャパンvol.155」(太田出版)より)

「ハライチ」の岩井勇気=2019年12月5日
「ハライチ」の岩井勇気=2019年12月5日

さまぁ~ず、千鳥にも似た「天下」への路線

まったく違う個性を持った2人だからこそ、コンビという単位では奥行きと幅が広がっていく。岩井の魅力が開花したことで、ハライチはレベルの高いバランスを保ち始めた。澤部自身、コンビの機運を意識し始めているようだ。

「ひとりで出だしたじゃないですか、俺が。岩井はずっと独自の感じで。それぞれの独自の道を歩き出し、それと同時に天下という文字もちょっとずつ小さくはなっていったんですよね。(中略)でも今こうやってふたりで出させてもらって、結構面白いとか言ってもらって、岩井面白いってなって。今またそこが交差している段階じゃないですかね。その交差した今、ちょっとだけ『天下』の文字は大きく見えているのかなって」(「クイック・ジャパンvol.155」(太田出版)より)

実際、今年7月には『この世は【ご報告】であふれてる!?』(テレビ東京系)、8月には『ハライチ×マッチング』といったコンビMCの特番が放送されている。すでにテレビ関係者は、ハライチに大きな期待を寄せているようだ。

過去を振り返れば、さまぁ~ずや千鳥も同じような道をたどっている。まずはネタが評価され、ツッコミが注目を浴び、改めてコンビの面白さにスポットが当たった。その先に複数の冠番組がスタートし、今も尚安定した人気をキープし続けている。

また、ネタを重要視する姿勢も共通するところだ。さまぁ~ずは単独ライブを継続し、千鳥は劇場でネタを披露し続けている。ハライチもまた昨年の「けもの道」に続いて、今年10月にハライチライブ「!」が控えており、ラストイヤーとなるM-1にエントリーするなど、ネタに対する思い入れも強い。コンビとして理想的な階段を上っている真っ最中と言えるだろう。

今年8月に行われた配信ライブ『あちこちオードリー 真夏のオンラインライブ』でも、ハライチはゲストとして登場し相変わらず息の合った掛け合いを見せていた。近く、“天下”は訪れるのだろうか。注目したい。

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