連載
#41 金曜日の永田町
党首討論、岸田さんの沈黙 〝王道〟にとらわれるメディアの責任
【金曜日の永田町(No.41)2021.10.23】
4年ぶりの衆院選が始まりました。安倍晋三氏から菅義偉氏、岸田文雄氏へと首相の顔をかえてきた自民、公明両党の連立与党と、立憲民主、共産、国民民主、れいわ新選組、社民の野党5党が、それぞれ候補者を一本化して競っています。岸田首相が「未来選択選挙」と名付けた衆院選。有権者の選択を妨げてきたのは何か――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。
10月4日に岸田さんが「10月31日投開票」を表明したころ、国会周辺にいるメディア関係者に「選挙関係の特集や特番はどうするんですか」と尋ねると、「盛り上がらない選挙だよね」という声がよく聞かれました。
新聞のテレビ欄をみても、1カ月前の自民党総裁選で党内の権力闘争を熱心に報じていた情報番組も、衆院選に関する報道の告知は控えめです。
「今、時代は分岐点にあります。どのように動くかが日本の未来を決めることになります」
岸田さんは10月14日の記者会見で「今回の選挙は未来選択選挙です」と訴えました。
安倍さんが「アベノミクス解散」と名付け、「アベノミクスを前に進めるのか、止めてしまうのか、それを問う選挙だ」と自らの経済政策を争点の前面に押し出した2014年の衆院選。少子高齢化と北朝鮮情勢を「国難」と位置づけ、「国難突破解散」と名付けた2017年の衆院選。「この道しかない」と訴える安倍さんの政権時代にあったような押しつけはなく、岸田さんの命名は、役所の選挙管理委員会のような中立的なコピーです。
その「未来選択選挙」における前半戦のハイライトは、10月18日に日本記者クラブで行われた党首討論会で、他の8党の党首が手を挙げるなか、真ん中に座る岸田さんだけが顔の前で両手を組んだ場面です。
「まず選択的夫婦別姓について。来年の通常国会に選択的夫婦別姓を導入するための法律を提出することに賛成という方は挙手をお願いいたします」
「もう1つ、LGBT法案です。来年の通常国会で理解増進法案を提出することについて、賛成の方は挙手をお願いいたします」
いずれも9年近くの安倍・菅政権で進まなかった日本の課題でした。
選挙戦の街頭には、「未来選択」を求めるそよ風が吹いています。10月31日の投開票に向けて、与野党はどんな「未来」の選択肢を競い合うのか。長期政権の光景になれてしまったメディアの責任もかみしめながら、有権者の「選択」の判断材料を示していきたいと思います。
〈南彰(みなみ・あきら)〉1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連の委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。
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