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#41 金曜日の永田町

党首討論、岸田さんの沈黙 〝王道〟にとらわれるメディアの責任

党首討論で、LGBT理解増進法案の来年の通常国会提出への賛意を問われ、自民党の岸田文雄総裁(中央)だけ手を挙げなかった=2021年10月18日午後3時、東京都千代田区、西畑志朗撮影
党首討論で、LGBT理解増進法案の来年の通常国会提出への賛意を問われ、自民党の岸田文雄総裁(中央)だけ手を挙げなかった=2021年10月18日午後3時、東京都千代田区、西畑志朗撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.41)2021.10.23】
4年ぶりの衆院選が始まりました。安倍晋三氏から菅義偉氏、岸田文雄氏へと首相の顔をかえてきた自民、公明両党の連立与党と、立憲民主、共産、国民民主、れいわ新選組、社民の野党5党が、それぞれ候補者を一本化して競っています。岸田首相が「未来選択選挙」と名付けた衆院選。有権者の選択を妨げてきたのは何か――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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「見出しが立たない?」

10月14日、首相に就任して10日あまりの岸田さんが衆院を解散しました。解散から投開票までは戦後最短の17日間。国会議員も慌ただしく、全国各地の選挙区へと散っていきました。

国会周辺では、さまざまな団体や市民が、衆院選に向けて、論点や各政党のスタンスを明らかにするアンケート結果などを発表しています。10月15日には「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」のメンバーが国会内で記者会見を開きました。

市民運動などを通じてつながった有志が立ち上げたこのアクションでは、自民、立憲民主両党などの主要8政党に19項目・67問の公開質問状を送り、その回答をまとめました。

「選挙のための人気取りとしてのマニュフェストではなく、この国で暮らす多様な人々の生活をみつめ、答えの出ない課題、すぐには変わらないけれど大切な課題に対して、真摯に根気強く向き合う政治を行って欲しい」

公開質問状には、若い世代が中心の主催者たちの願いが込められています。自民、立憲、日本維新の会、共産、社民、れいわ新選組の6党が期限内に回答を寄せました(国民民主党は記者会見後に回答)。

「コロナ対策」「家族・暮らし・防災」「エッセンシャルワーカーの待遇」「税制改正」「働く人の権利」「困窮者支援」「同性婚」「ジェンダー平等の実現」「性暴力/刑法改正」「学費」「環境問題」「原発問題」「核兵器廃絶」「沖縄基地問題」「農林水産業」「差別問題」「入管問題」「情報開示」「文化芸術」――。

回答はホームページ(https://choiceisyours2021.jp/)で公開されています。日本のなかで長年、先送りにされてきた課題が詰まっているチェックリストです。

ところが、記者会見で驚くべきことが起きました。

質問者としてマイクを握ったある報道機関の記者が「これだときつい」と発言し出したのです。

「(メディアの)色々なところがやっていて、なかなか目を引かないと思う。もう少し、『自民党は答えない項目が何個ある』とか『×ばっかりの何とか党』とか、(回答を)分析していただかないと。マスコミで言う『見出しが立たない』。ニュースもものすごく多いので、分析も含めてきちんとやってもらったものを出してもらわないと、取り上げにくいというのが本音です」

質問とは言い難い「本音」をぶつけられて、会見場に困惑が広がる中、主催者の1人が理路整然と指摘しました。

「『自民党は×が多い』といった分析は大事ですが、これだけたくさんの争点、しかも既存のメディアではなかなか取り上げてこなかったテーマを市民が持ち寄って、政党に聞いて回答が返ってきた。それはメディアが『見出しになる』とか『ならない』とか、そういうことではない。一人ひとりの有権者が回答を見て、『私はここに投票しよう』『ここには投票しない』ということを考えていただければと思っている。政党は真摯に答え、まじめに○・×・△をつけてくれた。私たちが持っている問題意識はちょっとは政党に届いたのではないかと思った。メディアの人が忙しくて、全部分析しきれないと言われても、メディアの皆さんは自分なりに頑張ってください」

「それはちょっとおかしいですよ。メディアを呼んで会見するからには、責任がある。きついことを言わせてもらいますが、記事にしてほしいと思ってメディアを呼んでいるわけですから、分析する努力をしていただかないと」「どこに届けるんですか?」

同じ記者がさらに発言を続けましたが、会見者は「有権者一人ひとりが判断してくださいといっているわけです」「私たちがまだ至らないところもありますが、ホームページやツイッター、インスタグラム等々を利用して(結果を)お伝えしていくことになります。『至らない』というご指摘は受け取りますが、さきほど申し上げたように考えています」と引き取りました。
みんなの未来を選ぶためのチェックリストのサイト
みんなの未来を選ぶためのチェックリストのサイト 出典:https://choiceisyours2021.jp/

「マッチョな話題が多い」

会見者の1人として応答した大学院生の町田彩夏さんは、4日後に出演した「Choose Life Project」の番組「#投票2021Vol.8わたしたちの争点」で次のように振り返りました。

「いろいろな報道をみているが、だいたい選挙の争点は、経済政策や外交・安全保障政策、コロナ対策が前面に出てくる。そのなかで、ジェンダー平等や文化芸術の話、外国人の人権、環境問題といったものを大事なところとして報道してこなかったと思う。この社会に生きている人は、全員が全員、経済に興味があるわけじゃない。むしろ『経済にもジェンダーにも興味がある』『経済にも環境にも興味がある』といろいろな興味を持っている人がいる。だけど、いままでの報道は『政治といえば経済』『政治と言えば外交・安全保障』という、ある種、王道しか報じられてこなかった。そういった価値観で私たちの記者会見に来れば、『何、ニュースにならないことを騒ぎ立てているんだ』と思ったかもしれません」

一連のやりとりを見て、今回の衆院選で問題提起をしている人たちのなかに、メディアの報道に複雑な思いを抱いている人が少なくないことを感じています。思い出したのは、10月7日にオンラインで行われた国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」の記者会見です。

ヒューマンライツ・ナウも衆院選を前に、主要8党に人権政策に関するアンケートを呼びかけ、10月21日にその内容が公表されました(https://hrn.or.jp/news/20727/)。前回の衆院選からの4年間に、国際社会で進みながら、日本が批准していない「ハラスメント禁止条約」や「核兵器禁止条約」などへの考え方を問う重要な判断材料です。

アンケート実施を説明する10月7日の記者会見でこんなやりとりがありました。

「いまの政治の課題を『人権』という切り口から浮かび上がらせる重要なアンケートですが、政治報道における人権のテーマの取り扱われ方についてはどう感じていますか」

この記者からの質問を受けて、進行役を務めていたジャーナリストの津田大介さんが「普段から活動していて、メディアが鈍いなと思うところもある。でも、ここ1、2年空気がかわってきたところがある。メディアに望むところはどうでしょうか」と出席者に振りました。

ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子さんは「確かにコロナ禍ということもあって、人権に関する議論がメディアを通じて広がってきたことを感じる」とした上で、こう指摘しました。

「政治報道は、政局やスキャンダルにかかわる、どちらかというとマッチョな話題が多く、人権の問題が副次的で、メインテーマではない形で扱われてきたと思う。でも、本来は人権の問題が政治の中心として語られるべきで、あたかもそれが重要ではないかのように議論されるということが、『私たちが置き去りにされているのではないか』ということで、政治に対する不信感もつのっているのではないかと思う」
国際NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が主要各党に人権政策に関するアンケートを呼びかけることを発表したオンライン記者会見
国際NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が主要各党に人権政策に関するアンケートを呼びかけることを発表したオンライン記者会見

「未来選択選挙」

10月4日に岸田さんが「10月31日投開票」を表明したころ、国会周辺にいるメディア関係者に「選挙関係の特集や特番はどうするんですか」と尋ねると、「盛り上がらない選挙だよね」という声がよく聞かれました。

新聞のテレビ欄をみても、1カ月前の自民党総裁選で党内の権力闘争を熱心に報じていた情報番組も、衆院選に関する報道の告知は控えめです。

「今、時代は分岐点にあります。どのように動くかが日本の未来を決めることになります」

岸田さんは10月14日の記者会見で「今回の選挙は未来選択選挙です」と訴えました。

安倍さんが「アベノミクス解散」と名付け、「アベノミクスを前に進めるのか、止めてしまうのか、それを問う選挙だ」と自らの経済政策を争点の前面に押し出した2014年の衆院選。少子高齢化と北朝鮮情勢を「国難」と位置づけ、「国難突破解散」と名付けた2017年の衆院選。「この道しかない」と訴える安倍さんの政権時代にあったような押しつけはなく、岸田さんの命名は、役所の選挙管理委員会のような中立的なコピーです。

その「未来選択選挙」における前半戦のハイライトは、10月18日に日本記者クラブで行われた党首討論会で、他の8党の党首が手を挙げるなか、真ん中に座る岸田さんだけが顔の前で両手を組んだ場面です。

「まず選択的夫婦別姓について。来年の通常国会に選択的夫婦別姓を導入するための法律を提出することに賛成という方は挙手をお願いいたします」

「もう1つ、LGBT法案です。来年の通常国会で理解増進法案を提出することについて、賛成の方は挙手をお願いいたします」

いずれも9年近くの安倍・菅政権で進まなかった日本の課題でした。

選挙戦の街頭には、「未来選択」を求めるそよ風が吹いています。10月31日の投開票に向けて、与野党はどんな「未来」の選択肢を競い合うのか。長期政権の光景になれてしまったメディアの責任もかみしめながら、有権者の「選択」の判断材料を示していきたいと思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

〈南彰(みなみ・あきら)〉1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連の委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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