連載
#110 ○○の世論
岸田さん「選挙の顔」度を数値化してみた「プラス8」菅さんから改善
過去に断トツ「プラス40」を出した人
就任からわずか10日。岸田文雄首相は10月14日に衆院を解散、天下分け目の選挙戦に事実上突入します。自民党総裁選で菅義偉・前首相が再選出馬断念に追い込まれたのは、発信力などに欠ける菅さんでは、「選挙に勝てない」という不安感が党内に広がったのが大きく響きました。「選挙の顔」が岸田さんに変わったことで、果たして浮上効果は出ているのでしょうか。朝日新聞社は内閣発足直後の4、5両日の全国世論調査(電話)で探りました。(朝日新聞記者・磯田和昭)
一つの選挙区から、一人の議員が当選する小選挙区制が導入され、初の衆院選が実施されたのは1996年でした。
四半世紀がたち、衆院選は政権選択が問われる機会だとされ、どの党首を首相にするかを選ぶ色合いが濃くなりました。
党首は、「選挙の顔」としての資質をそれまで以上に求められるようになったのです。
そこで、「内閣支持率―自民党の支持率」を「選挙の顔」度として、最近の政治状況を見てみます。
自民支持率という基盤の上に、無党派層などからの支持を上乗せしてどこまで内閣としての支持率を高くできるか、というわけです。
すると、菅さんの「選挙の顔」度は、内閣支持率が発足以来初めて3割を切った今年8月には、内閣支持率28%、自民支持率32%で「マイナス4」という有り様でした。自民支持層でさえ、一部は内閣支持と答えない状況だったのです。
「選挙の顔」度がマイナスに落ち込んだ前例は、2009年夏の麻生太郎内閣のケースがあります。このときは直後の政権交代につながりました。
結局、菅さんは9月早々に総裁選に出ないと表明。その後の世論調査では、総裁選報道が活発になったこともあり、自民党の支持率は持ち直しました。
そして、岸田内閣が発足した10月4日の夜から5日にかけた世論調査で、内閣支持率45%、自民支持率37%となり、岸田さんの「選挙の顔」度は、「プラス8」と菅さんに比べれば大幅に改善したのです。
小泉純一郎内閣以降、13回の国政選挙がありました。それぞれの投開票日直前の「選挙の顔」度を比べると、トップは2001年参院選の小泉さんが断トツで「プラス40」。6位タイまでを小泉さん、第2次政権の安倍晋三・元首相が占め、いずれも「選挙の顔」度は「プラス10」以上でした。
それからすると、「プラス8」というのは、ずばぬけていいというわけではありませんが、選挙前にはままある水準です。
新しい内閣ができた直後の世論調査では、内閣支持率は高めになるケースがままあります。これが「ご祝儀相場」と言われています。
今回は10月31日投開票と、衆院選が目前に迫っているだけに、この「ご祝儀」への自民党議員の期待感はいつにも増して高かったはずです。
それがフタをあけてみると、朝日新聞の調査では、岸田内閣の支持率は45%、不支持率20%。発足直後の支持率としては、現在の方法で電話調査を始めた2001年の小泉内閣以降で、麻生内閣の48%を下回り、最低となりました。
とはいえ、岸田内閣の不支持率が高いというわけではありません。「その他・答えない」が35%と、支持・不支持の態度を明らかにしない人が3分の1を超えています。岸田首相の「選挙の顔」度がさらに高まるかどうかは、まさに今後の動向次第といえそうです。
当初、衆院選の投開票日は「11月7日」か「11月14日」の2択と目されていました。それを「10月31日」に前倒しした格好になったのは、「ご祝儀」感が薄れないうちに少しでも早く決戦に臨みたいという、はやる気持ちの表れなのでしょう。
実際、最近の自民党内閣で見ても、わずか発足1カ月で内閣支持率が落ちています。国会論戦で追及されるなど様々な要因があるのでしょう。岸田内閣は14日までの臨時国会で野党との論戦は代表質問にとどめ、衆院を解散する運びです。
岸田首相の「選挙の顔」度の行方を見るうえで注目したいのは、衆院選でブロックごとに投票する比例区での投票先です。
「仮に今、投票するとしたら」と比例区投票先を聞いたところ、今回、自民は41%で立憲(13%)に大きな差をつけています。
自民は総裁選の動きが活発化した9月中旬の調査で43%に復調。その勢いは今回やや弱まったものの、無党派層の投票先では、自民の22%が立憲の13%を上回っています。
過去には選挙戦に入ってから、増税や減税をめぐる党首の発言で選挙情勢が一変した例もあります。「選挙の顔」としての採点結果は、投票箱があくまで分かりません。
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