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心臓をくれた人に感謝する時… 1万7千人が待つ臓器移植に思うこと

移植が必要な人たちを支援するNPO法人「トリオ・ジャパン」のイベントに参加し、移植を受けた男の子と並んで写真に写る横山由宇人さん。自身も5歳の時に心臓移植を受けました=由宇人さんの父・慎也さん提供
移植が必要な人たちを支援するNPO法人「トリオ・ジャパン」のイベントに参加し、移植を受けた男の子と並んで写真に写る横山由宇人さん。自身も5歳の時に心臓移植を受けました=由宇人さんの父・慎也さん提供

友達と語り合ったり、居酒屋バイトで新しい料理を作って喜んでもらえたり――。5歳の時に心臓移植を受けた大学生は、日常のさまざまな「楽しい」瞬間に、〝心臓をくれた人〟に感謝しているといいます。日本ではおよそ1万7千人が待っている臓器移植。しかし、受けられるのが数パーセントにとどまっているのが現状です。

少なかった子どもの移植 アメリカへ渡航を決断

宮城県に住む横山由宇人(ゆうと)さん(21)は、県内の大学に通いながら居酒屋でバイトをしている一見〝普通の大学生〟ですが、5歳の時に心臓移植を受けました。

「隠すことでもないので、自分と関わりをもつ人には自分の病気については話していますね。自分が倒れた時とかに対応を知っていてもらいたい、というのもあります」

日本では1997年から脳死による臓器提供ができるようになり、2010年の法改正で家族の承諾があれば15歳未満の子どもでも提供が可能になりました。

拡張型心筋症と診断され、入院していた由宇人さん。子ども用の補助人工心臓をつけているので、血液を循環させるポンプが見えています=父・慎也さん提供
拡張型心筋症と診断され、入院していた由宇人さん。子ども用の補助人工心臓をつけているので、血液を循環させるポンプが見えています=父・慎也さん提供

心臓のポンプ機能が働かなくなる拡張型心筋症と診断され、由宇人さんが移植を待っていたのは2009年11月からでした。日本では子どもの臓器移植は0件でした。

日本で心臓移植を受けるのは難しいだろうと考えた両親は、日本よりも移植の件数が多いアメリカに渡航しようと決断します。

医療保険が使えないため、支援者たちとともに募金活動で必要経費1億3500万円を集め、2010年8月に渡航しました。

子ども用の補助人工心臓の管(カニューレ)が、体の外の血液ポンプとつながっています=父・慎也さん提供
子ども用の補助人工心臓の管(カニューレ)が、体の外の血液ポンプとつながっています=父・慎也さん提供

翌月の5歳の時、ニューヨークのコロンビア大学病院で心臓移植を受けた由宇人さんは「移植の当時の記憶はほとんどないんです。僕の人生は6歳から始まっています」と振り返ります。

その後、日本で初めて6歳未満の子どもの臓器提供が行われたのは2012年6月のことでした。

病気を説明「移植への偏見や誤解を解きたい」

記憶はないものの、由宇人さんは子どもの頃から、自身の病気について両親たちから聞いて育ってきました。

移植のおかげで日常生活を送れるようになりましたが、中学2年生の時に移植を受けた心臓に不整脈が見つかったり、人より疲れやすかったりするそうです。

「体育を休まなきゃいけなかったし、病気については積極的に話していました。『小さいときに心臓移植してて』って言うと『え~』って驚かれるから、『生活に支障はないけど、運動できなかったり歩くスピード遅かったりする』って話しています」

しかし、医療保険が使える国内での移植ではなく、多額の募金が必要になった海外での移植。中学時代には、「お金、余ってるんでしょ」という心ない言葉をかけられ、いじめられたこともあるといいます。

由宇人さんは「臓器移植への偏見や誤解を解いていきたい、というのも、積極的に病気について話している理由です」と話します。

周囲に病気のことを積極的に話している由宇人さん=父・慎也さん提供
周囲に病気のことを積極的に話している由宇人さん=父・慎也さん提供

心臓移植の手術時や、補助人工心臓の管(カニューレ)が通っていたところなど、からだには傷痕があります。

子どもの頃は傷を見せることにためらいがあったそうですが、両親や祖父母から「頑張ってきた勲章なんだから」と繰り返し言われてきたことで、「今では友達と温泉にいっても抵抗はないですね」と言います。

「じろじろ見てくる人なんていないし、何も気にしないで、気ままに生きようって」

「心臓をくれた子の分まで、楽しく生きていこう」

小さな頃から両親に連れられて、移植にまつわるイベントへ参加。募金活動でお世話になった人や、移植にまつわる医療関係者たちと話してきました。

「いろんな職業や年上の人たちと話せて、すごく面白いなぁって。人と話すのが好きになったのは、小さい頃からいろんな人と会って話してきたことが影響しているかもしれません」と話します。

現在は就職活動中ですが、人と話す仕事に就きたいと考えているそうです。

由宇人さんは「親が『つらい闘病生活を耐えて、由宇人は治ったんだから』と言って、過保護にならず、好きに生活させてくれているのも大きいと思います」と語ります。

由宇人さんと、父の慎也さん(右)。慎也さんはトリオ・ジャパンの副理事長を務め、移植を待つ患者さんや、移植を受けた人たちをつなぐイベントなどを開催しています。慎也さんは臓器移植を「『贈りたい人からもらいたい人へ命をつなぐ』、尊くて素晴らしい医療」といいます=慎也さん提供
由宇人さんと、父の慎也さん(右)。慎也さんはトリオ・ジャパンの副理事長を務め、移植を待つ患者さんや、移植を受けた人たちをつなぐイベントなどを開催しています。慎也さんは臓器移植を「『贈りたい人からもらいたい人へ命をつなぐ』、尊くて素晴らしい医療」といいます=慎也さん提供

3年続けている居酒屋の厨房のバイトでは、作れる料理のバリエーションが広がりました。仕事で遅くなった親のために料理をつくるのも好きで、友達とおしゃべりしたり、カラオケして朝帰りしたりという大学生ならではの時間も楽しいそう。趣味のアクセサリー作りにもはまっています。

「僕はそういう『楽しい』のひとつひとつに出会ったとき、心臓をくれた人に感謝する習慣になっています」

ときどき、「自分に心臓をくれた人はどんな人だったんだろう」と考えることがあるそうです。

「自分のように人と話すのが好きな子だったんじゃないかなって思っています。きっと、その子も人と話したかったと思うし、いっぱい遊びたかったと思うし、生きたかったと思う。そのぶん、自分もずっと楽しく生きていこうって思っています」

友達に声をかける臓器移植の「意思表示」

日本でも子どもを含め臓器移植の件数は増えてきているものの、まだまだ海外に比べると少ないのが現状です。

人口100万人あたりのドナーの数(2023年)は、日本は1.2で、アメリカの40分の1、韓国の8分の1にとどまります。

2025年12月時点でおよそ1万7千人が移植を待って日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録していますが、受けられるのは数パーセントで、かなわずに亡くなる人もいます。

移植を待っている患者たちにエールを送る応援団のメンバーと、由宇人さん(前列左から2人目)=父・慎也さん提供
移植を待っている患者たちにエールを送る応援団のメンバーと、由宇人さん(前列左から2人目)=父・慎也さん提供

由宇人さんは「そもそも、移植について知らない人が多い」と感じるそうです。

友人たちには免許証やマイナンバーカードの裏側の「意思表示」欄について声をかけているそうです。

「僕は移植しているので、意思表示ができないんですよね。『みんなは書けるんだから、今の気持ちでまずは意思表示しておいたら。いつでも書き直せるし』って言ってます」

「もちろん『提供する』に強制したりなんてしてないです。友達のなかには『全部丸つけてるよ』って教えてくれたり、『目はちょっとな~』と言ったりしている子がいました」

免疫抑制剤をはじめとした薬をのんだり、疲れやすかったりはしても、心臓移植を受けたことで由宇人さんはここまで元気になりました。

「子どもの頃に移植を受けた年下の子たちには、『つらい病気を耐え抜いたんだから、心配することはないよ、何でもやれるし、何でもできるよ』って伝えたいです」と話しています。

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