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連載

#40 金曜日の永田町

山本太郎参戦が火をつけた市民の怒り「文句も言わず名前書けなんて」

いびつな選挙制度、東京8区の「乱」

れいわ新選組の山本太郎代表。次期衆院選で東京8区から立候補すると表明したことに市民から抗議の声があがっている=2020年7月5日、東京都新宿区、藤原伸雄撮影
れいわ新選組の山本太郎代表。次期衆院選で東京8区から立候補すると表明したことに市民から抗議の声があがっている=2020年7月5日、東京都新宿区、藤原伸雄撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.40) 2021.10.10】
れいわ新選組の山本太郎代表が10月8日、次期衆院選で東京8区から立候補すると表明しました。地元の意向は反映されないまま、山本氏と立憲民主党の一部幹部の間で話し合われたことに、市民たちは抗議の声をあげています。根っこには、小選挙区制という選挙制度の問題が――。朝日新聞政治部の南彰記者が国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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「1強政治」を変えた野党共闘

10月8日、第100代首相に就任した岸田文雄さんの所信表明演説が行われました。

「私が、書きためてきたノートには、国民の切実な声があふれています。一人暮らしで、もしコロナになったらと思うと不安で仕方ない。テレワークでお客が激減し、経営するクリーニング屋の事業継続が厳しい。里帰りができず、1人で出産。誰とも会うことが出来ず、孤独で、不安。今、求められているのは、こうした切実な声を踏まえて、政策を断行していくことです。まず、喫緊かつ最優先の課題である新型コロナ対応に万全を期します。国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を行うこと、常に最悪の事態を想定して対応することを基本とします」

自民党総裁選で「民主主義の危機」を訴えてきた岸田さんがまず強調したのは、国民の声に耳を傾けることでした。岸田さんが紹介した声の多くはこれまで国会で野党が主張してきた内容と重なります。

憲法学者らから「違憲」と指摘された安全保障関連法などを強行し、数々の疑惑も説明せず、「数の力」で国会を押し切ってきた安倍政権。野党や専門家の異論に耳を傾けず、コロナ対策で相次ぐ失策を重ねた菅政権。9年あまり続いた安倍・菅政権と比べて、岸田政権になって、国会の空気は少しかわりました。

「1強」の力で異論を封じ込める政治から、与野党が切磋琢磨して、コロナで脆弱性が明らかになった日本社会の修復をはかる政治を担えるのはどちらなのかを議論し、競い合う政治に近づいたのです。

この政治の変化をもたらしたのは、全国の小選挙区で野党候補の一本化を進めた「野党共闘」です。「野党共闘」は、4月に北海道・長野・広島で行われた衆参両院の補選・再選挙で全勝し、8月に菅さんの地元であった横浜市長選でも菅政権の閣僚だった与党系候補に圧勝しました。

衆院選の小選挙区でも各地で一本化が進むなか、「このままでは大幅に議席を失う」という自民党内の焦りが「菅おろし」につながりました。機能不全に陥っていた政治を止める力になったのです。

野党共闘の原点は2015年。「1強多弱」の国会で、安倍政権が安保関連法を強行したときに、「また選挙の前になったら、バラバラになるかもしれない。野党が協力して、次の選挙に勝ってください」とわきあがった市民の声です。

自民党に対する得票は全有権者の2割程度なのに、野党が分裂しているため、国政選挙で大勝を続けてきたことへの不満がありました。

野党共闘の転機は2017年。同年の衆院選で、小池百合子東京都知事が結成した「希望の党」により民進党は分裂し、選挙直前に足並みが乱れました。そのとき「市民と野党の共闘」の願いを受け継いで枝野幸男さんが「立憲民主党」を結党。衆院選では立憲が希望の党を上回り、野党第1党に躍進。その流れが今回の衆院選での全国規模での協力体制につながっています。

結党大会を終え、記者会見する立憲民主党の枝野幸男代表=2020年9月15日午後3時2分、東京都港区、長島一浩撮影
結党大会を終え、記者会見する立憲民主党の枝野幸男代表=2020年9月15日午後3時2分、東京都港区、長島一浩撮影 出典: 朝日新聞

「派遣労働者」「シングルマザー」の代表

しかし、小選挙区制度というのは一番多く得票した候補者が当選するという仕組みのため、一対一の構図になりやすい傾向があります。野党にとって、多様な選択肢を絞り込んでいかなければ与党の候補には対抗できないという悲しい一面をもつ選挙制度でもあります。

10月10日、衆院東京10区で野党共闘を呼びかける「市民連合」が主催する集会が開かれ、オンラインでも配信されました。

東京10区では前回の衆院選では、自民の候補と次点だった立憲の候補との得票差は約2万票でした。共産党の候補は約2万票を獲得していました。今回は、共産党が独自候補擁立を見送り、国民民主党から立候補しようとした候補も比例中国ブロックに選挙区を変更しました。一方で、れいわ新選組は新顔候補を擁立しています。「野党共闘」の枠組みに入る政党の候補は、立憲とれいわの2人に絞られていました。

れいわの候補者は、元派遣労働者の渡辺照子さんです。

渡辺さんは大学を中退して出産しましたが、25歳の時に配偶者が2人の子どもを残して失踪。シングルマザーとして、正社員になることもできず、保育園の給食調理や保険営業等の職を転々とし、40歳を過ぎた時に派遣の仕事に就きました。

働きながらいくつもの資格を取得しましたが、正社員になれず、16年8ヵ月も働いてきた派遣先企業から一方的に雇止めを受けた経験を持ちます。「必死に毎日を生きる私たちに『自己責任だ』として政策の怠慢や無作為を容認してしまう政治をなんとしても変えたい」と言って、選挙に向けた準備を進めてきました。

この日の集会では、立憲候補のスピーチの後、自らを「貧困のデパート」と振り返りながら、切々と今の政治を変えたい思いを訴えました。

「日々の新聞で、介護殺人、生活保護ももらえずに、餓死をした方々、子どもを虐待して死なせてしまった親、そうした方々の記事をみると、私は悔しくて仕方がありません。力がないのが情けないです。つらいです。こんな状況をほっといているのが自公長期政権なんです。それを私はなんとか覆したいんです。そのためには我が身はどうなってもいい。れいわ新選組の候補者の多くは、みな、その思いです。私利私欲ではございません。党利党略でもない。みんな仕事をやめ、退路を断って、この厳しい戦いに臨んでいます」

ただ、現状では野党第1党である立憲現職の男性に一本化する空気が強まっています。

主催者の一人は最後のあいさつで、「残るはあと2名になりました。現在、立憲とれいわが協議をされています。その協議のうえにたって、なんとしても統一候補ができることを願っています」と語りました。


山本太郎さんの突然の参戦

こうした詰めの調整が続くなかで、注目を集めているのが、東京8区です。れいわ代表の山本太郎さんが10月8日、JR新宿駅前の街頭イベントで「立憲側とは話を進めている」といって、事実上、野党統一候補としての立候補を宣言したからです。

東京8区は、小選挙区制になってから25年、石原慎太郎・元都知事の長男で、自民党幹事長も務めた石原伸晃さんが8連勝を重ねてきた地盤です。

ただ、市民運動が盛んで、野党支持層が厚い地域でもあり、野党側の候補者が一本化されれば、勝機があるとみられています。そこで、2年ぶりの国政復帰をめざす山本さんが2012年に初めて国政選挙に挑戦したゆかりのある選挙区に白羽の矢を立てたのです。

「石原さんにリベンジ。もう一度やらせていただく。私に首をとらせてください」

山本さんは立候補宣言の街頭イベントで訴えました。

しかし、東京8区には、立憲、共産、れいわの新顔がそれぞれ立候補の準備を進めていました。れいわの新顔は比例に回ることで決着しました。山本さんの突然の立候補表明に、地元の市民はびっくりします。野党共闘を呼びかける「市民連合」の地域組織はこの4年間、立憲、共産、れいわの3候補が参加するイベントを重ね、粘り強く一本化に向けた話し合いの場を持ってきたからです。立憲新顔で6年間活動を続けてきた吉田晴美さんに一本化する調整も進んでいました。

10月10日には、JR阿佐ケ谷駅前に「#吉田はるみだと思ってた」と書かれたプラカードを持った市民が100人ほど集まり、地元の市民を無視した手法に抗議する街頭イベントが開かれました。

れいわ新選組の山本太郎代表が衆院東京8区での立候補を表明したことをめぐり、これまで地元で進めてきた話し合いの経緯について説明する「市民連合」のメンバー=2021年10月10日午後4時20分、東京都杉並区、南彰撮影
れいわ新選組の山本太郎代表が衆院東京8区での立候補を表明したことをめぐり、これまで地元で進めてきた話し合いの経緯について説明する「市民連合」のメンバー=2021年10月10日午後4時20分、東京都杉並区、南彰撮影 出典: 朝日新聞

呼びかけ人になった30代女性は、市民不在で物事を決める政党幹部への不信を口にしました。

「『選挙で勝てればなんでもいい』『政権交代ができればなんでもいい』とか、そういうくだらない権力闘争みたいな政治をやめ、私たちの生活から考える政治を作るために、やってきたんじゃないですか。選挙が近くなると大事なことを忘れちゃう政党なんて、誰が信用できますか。『統一候補だから文句も言わず名前を書け』と言われ、誰が書きますか? 忙しい生活の中で、あなた方が思うよりもずっと、地べたを生きる市民たちはあなたたちをよく見ているし、考えているんですよ」

「知名度がないところから、杉並の端から端まで駆け回って、街頭に立って、いろんな人から話を聞いて、杉並の分厚い市民運動の歴史の上に立つ人から怒られたりしながら学んで、コロナ禍で相談や支援も最初からやり続けていて、ちゃんと人として人間を見て、政治を志しているのが、吉田晴美さんなんですよ。そんな候補者を大事にしない政党なんてありえない。『#吉田はるみだと思ってた』というひと言にはいろんな思いが込められています。私は(東京8区にある)杉並に暮らす人間として、女として、こんなやり方は許せないと思ってきました。市民が望む政治のやり方、民主主義って何だということを考えていきたいと思います」

この呼びかけに呼応するように、15人の市民が次々とマイクを握りました。

「地元の市民を無視した密室談合だ」

「ブラックボックスで決まる政党に対する不信感、市民の無力感。こんなことを許してはならない」

「一本化しようと丁寧に、丁寧にやってきて今日がある。3人のどの候補にもリスペクトを持ち、乱暴なことはやらずにきた。今起きていることはあまりにも乱暴なことです。民主主義は地域から、私たち一人一人の願いの中から育てていくもの。それを乱暴に壊すことは絶対にNOだというしかない」

山本太郎さんが「鼻をつまんで一緒にやってもらえたらありがたい」と語ったことについては、「鼻をつまんで投票したくない」「ボトムアップで積み上げてほぼ決まりかけていたのに、後出しじゃんけんで納得できない」との批判が相次ぎ、参加者は「知名度がある俺なら勝てるという独善的な考え方をひけらかしながら『弱者を救う』といっても誰も信用しない」と再考を求めました。

そして、批判は立憲へも向けられました。

一部の幹部が、他の選挙区でれいわが候補者を降ろすことと引き換えに、東京8区で吉田さんを降ろし、山本さんに一本化しようと模索していたからです。市民は、立憲の都連幹部から降りるよう水面下で求められ、苦しんできた吉田さんの姿も見てきていました。

「市民の声に耳を傾けず、こうやって女性候補を降ろすのであれば、ボトムアップやパリテ(男女同数)を掲げてきた立憲のあり方を考え直さないといけないのではないか」

「立憲が女性議員を増やすといっているのは大賛成だけど、吉田さんをサポートしないと女性議員は増えない。それどころか降ろして、見返りとして、れいわは立憲都連幹部のところで候補者を降ろそうとしている。パワハラで、断じて許せません。みんなで力を合わせて民主的な活動をしていきたい」

れいわ新選組の山本太郎代表が衆院東京8区に「野党統一候補」を前提に突然、立候補を表明したことに抗議する市民たち=2021年10月10日午後、東京都杉並区、南彰撮影
れいわ新選組の山本太郎代表が衆院東京8区に「野党統一候補」を前提に突然、立候補を表明したことに抗議する市民たち=2021年10月10日午後、東京都杉並区、南彰撮影 出典: 朝日新聞

「偉いおじさんが勝手に決める政治は終わりに」

立憲の小川淳也衆院議員との議論をまとめた『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』という本を出版したライターの和田静香さんも駆けつけました。「みんながもっと純粋に誰に国会に行ってもらいたいかを話し合うのが、本当の野党共闘だと思います」と訴えました。

抗議活動は予定の1時間では収まらず、司会の女性が「一部の偉いおじさんたちで勝手に決める政治は終わりにしないといけない。地べたを生きる私たち市民と、その声を持って議会へ行く代議士とが一緒に政治を作るという、そういう政治を私たちは望んでいるので、これからちゃんと考え直してください」と呼びかけて終了しました。

小選挙区制になって25年。公認権や選挙区調整の権限を持った男性幹部の力が強くなるなか、「勝てる候補」への一本化が重視され、有権者が候補者の人を選ぶ選択肢は狭まり、国会の多様性と力を損ねてきました。東京8区の「市民の乱」は、いびつな政治の元凶にある選挙制度のあり方自体を見直していく必要をあらわしていると思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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