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連載

#12 地デジ最前線

オンライン夏祭り、昨年から一転「2年目のジンクス」反省生かし秋へ

2年目となった#オンライン青森夏まつり。「視聴者ファーストになりきれなかった」という反省が出たなか、オンラインで行う祭りの模索は続く
2年目となった#オンライン青森夏まつり。「視聴者ファーストになりきれなかった」という反省が出たなか、オンラインで行う祭りの模索は続く

目次

地デジ最前線
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新型コロナウイルスの影響で昨年、中止になった夏祭りのなかには、デジタル技術を生かしてお祭りを開く地域もありました。「#オンライン青森夏まつり」もその一つです。のべ1万人が参加し、手応えのあった昨年に続き開催された今年は「難しさを感じた」と主催者が口を開く結果に。それでも、オンラインの意義を見つめ直し前へ進もうとしています。ライターの我妻弘崇さんが仕掛け人を取材しました。

お祭りの代替ではない

長引くコロナ禍によって、多くのイベントが今なお中止・延期を余儀なくされている。

お祭りも例に漏れず、今年に入ってからも「博多祇園山笠」、「竿燈まつり」、「よさこい祭り」といった著名なお祭りから、地域の豊穣を感謝する小さなお祭りまで、中止・延期が相次ぐ。「仙台七夕まつり」のように規模を縮小して開催するケースもあるが、本来の活気にはほど遠い状況だ。

その中に、東北三大祭りの一つである「青森ねぶた祭」がある。昨年に続き、今夏も開催を見送った「青森ねぶた祭」を訪れる観光客の数は、コロナ以前の令和元年は285万人(出典:青森県観光入込客統計) 。同時期に開催され、いずれも中止となった「弘前ねぷたまつり」(令和元年観光客数168万人)、「八戸三社大祭」(同145万人)を含めると、経済的損失はもちろん、あるべき活況が失われたことは想像に難しくない。

「昨夏、中止になったと聞いた青森の皆さんは大きなショックを受けていました。ねぶたは、伝統行事というだけではなく、そこに向けてたくさんの人が動き出すイベントです。生活に張りや彩りを与えるお祭りがなくなったことで、気持ちが沈んでいた」

そう話すのは、「#オンライン青森体験フェス実行委員会」共同代表の佐藤大介さん。「何とかしたいという思いがあった」と振り返り、「#オンライン青森夏まつり」を立ち上げた背景を説明する。

昨年に続いての実施となった「#オンライン青森夏まつり」
昨年に続いての実施となった「#オンライン青森夏まつり」

「#オンライン青森夏まつり」は、動画サイト「YouTube」やオンライン会議システム「Zoom」でライブ配信される“オンライン上で行われる夏まつり”だ。誰でも参加でき、投げ銭や有料コンテンツを設けるが、基本は無料で楽しむことができる。

昨年に引き続き、今夏も開催された「#オンライン青森夏まつり」は、自宅からも参加できる「跳人コンテスト」(ねぶたの屋台とともに練り歩く踊り手)をはじめ視聴者参加型のイベントを多数用意。さらには、バーチャル温泉体験やおすすめの観光ツアーをオンラインで楽しむことができ、青森の旬の味覚をLIVE販売で購入するといったことができる。

しかし、読者の多くは、おそらくこう思うのではないだろうか?

「オンラインでお祭りを体験しても迫力に欠けるんじゃないの? そもそも面白いの?」

と。元も子もないが、実際、「青森ねぶた祭」を訪れたことのある筆者自身そう感じる。そのことを率直に佐藤さんにぶつけると、

「オンラインで疑似体験をするではなくて、オンラインにしかできないことをやる。それが#オンライン青森夏まつりです」。オンラインで行うお祭りは、実際のお祭りの代替ではない――。力強く返ってくる言葉の真意を尋ねた。

「#オンライン青森体験フェス実行委員会」共同代表の佐藤大介さん
「#オンライン青森体験フェス実行委員会」共同代表の佐藤大介さん

「ねぶた」とは別

「#オンライン青森夏まつりは、まったくの新しいお祭りとしてスタートしました。実は、「青森ねぶた祭」とは関係のないお祭りなんです」(佐藤さん、以下同)

お祭りは、自治体や委員会などが運営・実行をするケースが一般的だ。「青森ねぶた祭」であれば、青森市、青森観光コンベンション協会、青森商工会議所などが舵取りを行う。

そのため、「地域のお祭りというのは長い歴史があるため複雑なところがある。仮にオンラインでねぶた祭をやろうものなら、途方もない時間や話し合いを要することになる」と佐藤さんは微苦笑する。

落ち込んでいる青森県人を元気づけるためには、すぐにできることを行うほかない。そこで佐藤さんは、同じく共同代表を務める後藤清安さんとともに民間の手で、まったく別の新しいお祭り「#オンライン青森夏まつり」を開催することを決めたという。

実のところ、コロナ禍以降にお祭りをオンライン化する試みは、青森県以外でも行われている。だが、その多くは既存の組織が運営するケースが目立つ。民間有志の手で立ち上がった企画――まずこの点に、「#オンライン青森夏まつり」の特異性がある。

各地から中継。演出も派手派手だ
各地から中継。演出も派手派手だ

「あくまで別のお祭りとして、僕らは任意で勝手にやりますと説明し、各地を回りました。開催するなら、ねぶたと同じ時期の7月末から8月初頭にやりたいよねと。着想から2か月ほどしか時間はありませんでしたが、決めたからには面白いものを作りたかった」。からっと笑いながら話すが、その行動力や恐るべしである。

佐藤さんは自ら「東北アレンジャーズ」を立ち上げ、国内各地の旅館・ホテルの再生や観光振興を支援することを本業としている。その経歴はユニークだ。大学卒業後、三井物産に入社。そして星野リゾートへと転職し、経営破綻した古牧グランドホテルを、人気宿「星野リゾート 青森屋」へと生まれ変わらせた。

大規模リゾートを数々とV字回復させたことから、彼を“リゾート再生請負人”と呼ぶ人もいる。

「青森屋の中で、青森四大祭りのお囃子のショーを開催する際も苦心しました(笑)。そういった経験もあったので、公式のイベントとして「オンラインで開催したい」と言ったところで、実現することは難しいとわかっていました」

星野リゾート時代から、青森のために奔走した佐藤さんを共同代表とした「#オンライン青森体験フェス実行委員会」の想いに賛同する人は多く、昨夏の開催は、青森県酒造組合など72団体約500名が出展し、のべ1万人以上がリアルタイムで参加。YouTube再生回数も5万再生を記録した。

「我々がこだわった点は、「オンラインねぶた」ではなく、「オンライン青森夏まつり」にするということ。有名なお祭りだけを取り上げるのではなく、あまり知られていないかもしれないけど地域に欠かせないお祭りまで一堂に会すことができれば、落胆している多くの方々に喜んでもらえる。こういった取り組みは、オンラインだからこそ可能です」

その言葉通り、青森各地で行われるねぶた(ねぷた)祭り以外にも、日本三大流し踊りの「黒石よされ踊り」や、今別町の荒馬(あらま)祭り、むつ市の田名部祭りといったお祭りを配信で紹介。数ある中のコンテンツの一つとして、「ねぶたは欠かせないので協力してほしい」と懇請し、「青森ねぶた祭」の各山車組の参加を導いた。

「地方にあるお祭りを、単にオンラインで配信しても面白くはならない。そこで、視聴者が参加できるような双方向性を意識しました。たとえるなら、「オンライン縁日」です。メイン会場を囲む出店があるように、「オンライン青森夏まつり」でもメインステージの他にA・B・Cのブースを用意し、 視聴者は時間帯によって自分の好きなブースを選べ、行き来できる。そのため各ブースごとにZoomのURLを発行しました」

「Zoom」を介して視聴者参加型の「跳人コンテスト」などを行った
「Zoom」を介して視聴者参加型の「跳人コンテスト」などを行った

フジロックフェスティバルのタイムテーブルを想像するとわかりやすいだろう。メイン会場はグリーンステージ、各ブースがホワイトステージ、レッドマーキーという具合に時間帯ごとに出演者や出し物が交代し、青森のさまざまな魅力を届ける。

関心のあるものを自分で取捨選択できるようにしたといい、その際、参考にしたのが「親子でオンライン体験フェス」だと教える。同フェスは、1~5時間目まで、親子で好きな40分間のコマ割を選択できるワークショップとして話題を呼んだ。

「コロナ禍で行動を制限されている子どもたちの気持ちと、お祭りがなくなってしまって落ち込んでいる皆さんの気持ちって似ていると思ったんですね。運営するガイアックスさんにも協力を仰ぎ、なんとか無事に開催することができました。突貫で進めたところもありましたが、多くの方が喜んでくれました」

さらに飛躍のはずが

手ごたえがあった。だからこそ今夏2021年の「オンライン青森夏まつり」は、昨年の反省点をいかし、さらに飛躍する……はずだったが、佐藤さんは「あらためて難しさを感じた」と口を開く。

「昨年は、早い段階からお祭りの中止がアナウンスされたこともあり、お祭りがなくなったことで、“意気消沈している方々を元気にしよう”という明確なテーマがありました。一方、今年は実際のお祭りも行われる方向で調整されていました」

「我々としては、オンラインはオンラインで楽しめるものとして動いていたのですが、感染者数が収まる気配がないため、実際のお祭りは急遽中止という判断に至った。作りかけのねぶたがあったり、帰省を中止する方がいたり、生産者さんのやりきれない思いがあったり、さまざまな心情が突然あふれだす形になった」

昨年以上に出口の見えない状況にあり、多くの人が不安を抱えていた。そういった人たちの気持ちを短時間で幅広くくみ取ろうとした結果、「視聴者ファーストになりきれなかった」。そう佐藤さんは述懐する。

「マーケティングでいうところのWhoとWhat、“誰に対してどう思ってもらうか”が明確にならないまま進んだところがありました。結果、視聴者を楽しませる意識が薄くなり、満足度を高められなかった。視聴回数が昨年と比べて下回ったこと、特に3日目である最終日の視聴者数が一番少ないという点に鑑みても、大義が増えすぎて、焦点がぼやけてしまったことは明らかでした」

また、目的が増えすぎたことで、システムも複雑になりすぎたと話す。

「伝えたい要素がたくさんありすぎることで、「あれもやろう、これもやってみよう」となる。その結果、ウェブサイトも見づらくなり、EC サイトも使いづらくなってしまった。当然、デジタル化する際のコストも増えてしまいます」

「こういった取り組みは、どうしても慈善事業感が出てしまうのですが、やはりきちんとマーケティングをしなければいけないと痛感しました。効果を最大化するには、マーケティングの思考が欠かせません。それが目的達成の近道になる」

投げ銭でグッズなども買えたが、反省点も多いと振り返る
投げ銭でグッズなども買えたが、反省点も多いと振り返る

2年目のジンクス。昨年の成果を受け、期待値が上がっていたこともあり、落とし穴の深さを感じたという。多くの人のために何とかしたいという気持ちは素晴らしい。一方で、論語と算盤ではないが、後者であるマーケティングを見誤ると、慈善事業としては意義が生まれるだろうが、採算は厳しくなる。

実際問題として、運営にかかる費用は、佐藤さんをはじめ運営サイドの持ち出しによるところが大きいという。「青森が好きという気持ちから始めたことなので、短期的な視点では捉えていない。覚悟のうえ」と話すが、論語だけでは美談で終わってしまう。

運営を確立する一年に

そうならないように、「オンライン青森夏まつり」で培った経験を、 観光庁の「来訪意欲を増進させるためのオンライン技術活用事業」に提出。観光DXの推進による新たな観光需要の創出や来訪意欲の増進を目指す同事業には、200件を超える団体から応募が寄せられたが、見事、佐藤さんらは12団体の一つとして採択された。

「観光庁からの支援金も受けることができるため、今年は運営の仕組みを確立する一年として割り切っています。県内の観光団体や旅行会社などとともに、「青森オンライン魅力発信協議会」を設立し、横の展開を強めながら視聴者ファーストを目指していきます」

「お金を出してくださいではなく、青森を盛り上げるために協力してくださいといえる体制を整えることが大事。ブランドが根付けば、自ずとスポンサーの方々も振り向いてくれる。秋に開催予定の「青森おうちで大収穫祭」では、夏の反省をいかして取り組んでいる最中です」

そう。まったく別のお祭りとしてスタートした「オンライン青森夏まつり」は、何も夏だけに開催するルールはない。秋の「青森おうちで大収穫祭」、冬の「オンライン青森冬景色」というように、オンラインだからこそ多面的に展開できる――、これもオフラインにはない強みだろう。

10月末の「青森おうちで大収穫祭」もオンラインイベントを予定している
10月末の「青森おうちで大収穫祭」もオンラインイベントを予定している

「我々のコンセプトは『WE LOVE クレイジー青森』。青森の面白い人たちを取り上げていくことです。前回の「オンライン青森冬景色」の際は、大間の漁師さんのカラオケを配信したのですが、そういったガイドブックが絶対に扱わないだろうことを届けることができるのが、オンラインのお祭りの醍醐味だと思うんですね」

単にお祭りの模様をライブ配信しても、実際の迫力には負ける。だったら、青森の隅々にあるクレイジーなものや面白い人たちの魅力を届けたほうがいい。八甲田山でホワイトアウト体験ができる『超絶ホワイトアウトツアー』、津軽海峡で漁師の奮闘を間近で見る『大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアー』……、コロナ以前から青森にはクレイジーなモノやコトが多いのだ。

「たとえば山車の中を見るということは、通常のお祭りでは体験できないことです。しかし、代表者がカメラを持って、中に潜入すれば全員が特等席で見ることができる。隅々の魅力にアクセスできる――、これがオンラインならではのお祭り。簡単に行けない場所、なかなか知ることができないような人に出会う、そのための#オンライン青森体験フェス実行委員会でありたい」

細部を届けることができれば、そのぶん青森に興味を持つきっかけも増える。

「僕らが追いかけられる人たちは誰なんだと考えたとき、青森出身者や青森県民、青森に関心を持っている人、あるいは旅慣れていて「そろそろ青森に行ってみたい」という人。焦点を絞らないといけません。我々は、「いつか青森に行ってみたい」から「絶対に行きたい青森へ」に変えるための導線なんです」

オンラインで行うお祭りは、疑似体験をさせるための装置ではない。オンラインにしかできないことは何か? その視点が、地域の再発見にもつながるはずだ。

 

日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。

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