お金と仕事
サッカー王国メキシコ元代表、〝引退後〟生き残る「3つのスキル」
戦力外通告されたら即「さよなら」の厳しい世界
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戦力外通告されたら即「さよなら」の厳しい世界
1992年バルセロナ五輪でサッカーメキシコ代表に選出、引退後はU-17サッカーメキシコ代表監督として実績を残したマリオ・アルテアガさん(50)。現役時代、「よく食べ、よく寝て、よく休む」の基本を大切にし、監督時代は「選手が自発的に行動する指導」に注力しました。メキシコでは現在、若手選手の勉学とサッカーの両立に重きが置かれていますが、引退後の人生設計には課題が残るとマリオさんは言います。競技経験はどうセカンドキャリアに生かされるか、話を聞きました。(聞き手・小野ヒデコ)
マリオ・アルテアガ(Mario Arteaga)
質問を聞いて、すぐに思い浮かんだのは「デディケイション」(熱心さ/真摯に取り組む姿勢)です。改めてこれまでを振り返ると、サッカーに対してものすごく集中していましたね。
そして、「食」「睡眠」「休憩」は、常に大切にしていました。この3点は、実際にピッチに立っている時は他人には見えないことです。でも、プレーをするうえで、私を支えている要素でした。
選手としてプレーをしていくうえで、自分自身で学びました。また、現役時代の指導者たちが共通して「サッカーをする上でのプリンシプル(基本)」として、この3点を挙げていたことも大きく影響をしています。
「休憩」と言ってもダラダラ休むのではなく、食後に“しっかり”休み、食べ物の消化を促す。「食」も「睡眠」も、“しっかり”とることが大事です。当たり前のことをないがしろにせず、常に気を使っていました。それらの取り組みが、結果的に現役を11年間続けられたことにつながっていると考えます。
考えていませんでした。元々サッカー選手は、他の一般的な職業に比べたら寿命は短いことは認識していたので、どこかの企業への就職を考えていました。32歳で現役引退後は、縁あって、サッカーとは無関係の自動車修理を行う会社の共同経営者として招かれ、マネージャーをしていました。
そうして1年ほどその会社で働いている中で突然、まさに“アクシデントのように”、1部リーグの指導者にならないかと声がかかりました。なぜ私に声がかかったか、正直なところよくわかりません。
私はサッカー以外でも食べていけると思っていましたが、最終的にはそのオファーをありがたく受けました。その理由は、私のキャリアのベースはサッカーにあったことと、指導者という立場にも興味があったからです。
少なかったです。今とは違って、私が現役時代の1990年代は、「勉強かサッカーか」の二者択一でした。私は勉強も好きだったので、学生時代は競技との両立を心がけていましたが、両立をしている人は少なかったと思います。
現在のメキシコは、若手のサッカー選手を中心にアカデミックな面にも力を入れています。強いクラブでプレーするには、勉強が課せられるようになっていて、今では両立することが前提。クラブの中には大学と提携し、選手が遠征などで試験を受けられなかったとしても、後日に振替試験を受けられる制度を整えています。学生がサッカーと勉強を両立できる柔軟な環境が整ってきています。
そうです。例えば、私が在住するグアダラハラ市には、MXリーグ1部のクラブ「アトラス」と「チーバス・グアダラハラ」があります。この二つの団体は、「アトラス」は「アカデミア・アトラス」(Academia Atlas)、 チーバスは「エドゥカレ」(Educare)という学校をクラブが運営しています。
そのため、各クラブのユースの選手は、中学から高校まで勉強ができる環境があり、高校卒業後、もし大学進学を希望する場合は、提携する大学への入学も可能です。
1番大事なことは、選手たちは「サッカー選手」である前に「人」であると考えることです。人というものは、毎日進歩しているものです。つまり、選手も、指導者も、日々変化がある。何かしら成長があるという前向きな気持ちで指導をしていました。
そのうえで重きを置いたことは、「責任」を選手と監督で分け合うこと。「私は監督としてこういう責任を請け負っている、あなたたち選手にはこういう責任がある」と教えることで、相互に責任の関係性が生まれるようにしました。
そうすると、選手が自身の責任を全うするようになる。それが成長へとつながり、自信となり、キャパシティが広がる。結果、ピッチ上で、自主的に動ける選手が生まれました。
「自分で考えて、自分でアクションを起こし、自分で決定できる」。長年、この3点が身に付く指導をしていた結果、これらの軸を持つ選手を育てることができたと自負しています。
サッカーチームは「あなたが必要」という時は良く扱ってくれますが、戦力外通告後は即「さよなら」です。サッカー選手はそういう厳しい世界にいます。それは日本も同じだと思います。
そして選手の引退後の課題の一つは、現役時代に次のキャリアについて考えている人が少ないこと。メキシコ人は「その日を楽しく生きよう!」と刹那的に楽しむ国民性があります。もう少し長い目で物事を見ること、引退後のキャリアビジョンを考えることは必要だと感じています。
そうですね。サッカーは、ボールを蹴るだけのスポーツではありません。私は、サッカーを通じて3つのスキルを得られると考えています。
「責任感」、「チームワーク」、そして「規律を守る」です。
これまでの経験上、この3つがバランスよく身に付いていないと、サッカー選手生命は短いと感じています。そして、この3つのスキルを体得できたのなら、それらは一生の財産になると思っています。
勝つ時というのは、決まって、チームワークが良い時でした。つまり、チーム内のコミュニケーションがうまく取れている時です。コミュニケーションにおいてポイントの一つになるのは、自分の考えを言葉にして伝える「言語化力」です。
自分の考えや思いを相手に伝えられるかが鍵になります。相手に対して何をしてほしいかハッキリ伝える。それは監督も同じで、私自身、どのようなゲーム展開にするかの戦術をはじめ、自分のイメージを正しく選手に理解をしてもらうことを意識してきました。
改めて考えると、サッカーでの経験は、サッカーだけにとどまる話ではないんですね。競技を通して学んだことは、ビジネスや教育の場面でも共通して生きる。それは、選手にも、監督にも言えることだと思います。
通訳:西川瑞穂
取材協力: エンラセ委員会 熊谷勇、沖山友晴、カルロス・メロ
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