MENU CLOSE

お金と仕事

サッカー王国メキシコ元代表、〝引退後〟生き残る「3つのスキル」

戦力外通告されたら即「さよなら」の厳しい世界

1992年、バルセロナ五輪でサッカーメキシコ代表として出場したマリオ・アルテアガさん(上段左から4番目)=本人提供 
1992年、バルセロナ五輪でサッカーメキシコ代表として出場したマリオ・アルテアガさん(上段左から4番目)=本人提供 

目次

1992年バルセロナ五輪でサッカーメキシコ代表に選出、引退後はU-17サッカーメキシコ代表監督として実績を残したマリオ・アルテアガさん(50)。現役時代、「よく食べ、よく寝て、よく休む」の基本を大切にし、監督時代は「選手が自発的に行動する指導」に注力しました。メキシコでは現在、若手選手の勉学とサッカーの両立に重きが置かれていますが、引退後の人生設計には課題が残るとマリオさんは言います。競技経験はどうセカンドキャリアに生かされるか、話を聞きました。(聞き手・小野ヒデコ)

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

 

マリオ・アルテアガ(Mario Arteaga)
1970年メキシコのハリスコ州グアダラハラ市生まれ。現役時代はフォワードとして、メキシコ1部プロリーグ「リーガMX」のチーバス・グアダラハラ、プーマス、レオンなどの強豪チームでプレー。92年にバルセロナ五輪のメキシコ代表に選出。2002年に引退後、リーガMXにてアシスタントコーチを務める。14年から18年までU-17、18年にU-21、18年から19年にU-18のメキシコ代表監督に就任。現在、メキシコ代表のイルビング・ロサーノ選手、ディエゴ・ライネス選手などを指導している。日本ではサッカーのコーチングをオンラインで指導する「エンラセ委員会」を担当している。
 
ユースメキシコ代表チームの監督時代のマリオ・アルテアガさん=本人提供
ユースメキシコ代表チームの監督時代のマリオ・アルテアガさん=本人提供

サッカーをする上での「プリンシプル」

――マリオさんはサッカー大国のメキシコで11年間プロ選手として活動し、五輪出場も果たしました。振り返ってみて、その秘訣はどこにあったと感じますか?

質問を聞いて、すぐに思い浮かんだのは「デディケイション」(熱心さ/真摯に取り組む姿勢)です。改めてこれまでを振り返ると、サッカーに対してものすごく集中していましたね。 

そして、「食」「睡眠」「休憩」は、常に大切にしていました。この3点は、実際にピッチに立っている時は他人には見えないことです。でも、プレーをするうえで、私を支えている要素でした。

――とてもシンプルな一方、意外に難しいことでもあると感じました。その3点を大切にする考えは、どこから来たのでしょうか。

選手としてプレーをしていくうえで、自分自身で学びました。また、現役時代の指導者たちが共通して「サッカーをする上でのプリンシプル(基本)」として、この3点を挙げていたことも大きく影響をしています。

「休憩」と言ってもダラダラ休むのではなく、食後に“しっかり”休み、食べ物の消化を促す。「食」も「睡眠」も、“しっかり”とることが大事です。当たり前のことをないがしろにせず、常に気を使っていました。それらの取り組みが、結果的に現役を11年間続けられたことにつながっていると考えます。

1998年、メキシコ1部プロリーグ「リーガMX」のチーバス時代のマリオさん(上段左から2番目)=本人提供 
1998年、メキシコ1部プロリーグ「リーガMX」のチーバス時代のマリオさん(上段左から2番目)=本人提供 

大学と連携するサッカークラブも

――現役引退後は、サッカー指導者への道に進まれました。指導者になることを以前から考えていたのですか?

考えていませんでした。元々サッカー選手は、他の一般的な職業に比べたら寿命は短いことは認識していたので、どこかの企業への就職を考えていました。32歳で現役引退後は、縁あって、サッカーとは無関係の自動車修理を行う会社の共同経営者として招かれ、マネージャーをしていました。

そうして1年ほどその会社で働いている中で突然、まさに“アクシデントのように”、1部リーグの指導者にならないかと声がかかりました。なぜ私に声がかかったか、正直なところよくわかりません。

私はサッカー以外でも食べていけると思っていましたが、最終的にはそのオファーをありがたく受けました。その理由は、私のキャリアのベースはサッカーにあったことと、指導者という立場にも興味があったからです。

――当時、マリオさんのように引退後にサッカーとは違う職に就く人は多かったですか?

少なかったです。今とは違って、私が現役時代の1990年代は、「勉強かサッカーか」の二者択一でした。私は勉強も好きだったので、学生時代は競技との両立を心がけていましたが、両立をしている人は少なかったと思います。

現在のメキシコは、若手のサッカー選手を中心にアカデミックな面にも力を入れています。強いクラブでプレーするには、勉強が課せられるようになっていて、今では両立することが前提。クラブの中には大学と提携し、選手が遠征などで試験を受けられなかったとしても、後日に振替試験を受けられる制度を整えています。学生がサッカーと勉強を両立できる柔軟な環境が整ってきています。

――その取り組みは、各クラブ主導で動いているのでしょうか?

そうです。例えば、私が在住するグアダラハラ市には、MXリーグ1部のクラブ「アトラス」と「チーバス・グアダラハラ」があります。この二つの団体は、「アトラス」は「アカデミア・アトラス」(Academia Atlas)、 チーバスは「エドゥカレ」(Educare)という学校をクラブが運営しています。

そのため、各クラブのユースの選手は、中学から高校まで勉強ができる環境があり、高校卒業後、もし大学進学を希望する場合は、提携する大学への入学も可能です。

オンライン取材に応じてくれたマリオさん。後方のトロフィーは、マリオさんがアシスタントコーチとして深く関わり、メキシコチームが優勝したメキシコシティ開催の「2011 FIFA U-17 ワールドカップ」のもの
オンライン取材に応じてくれたマリオさん。後方のトロフィーは、マリオさんがアシスタントコーチとして深く関わり、メキシコチームが優勝したメキシコシティ開催の「2011 FIFA U-17 ワールドカップ」のもの

「責任」を選手と監督で分け合う

――引退後、指導者として「2015 FIFA U-17 ワールドカップ」ではメキシコ代表の監督を務め、結果、4位の実績を収められました。選手の指導において大切にしていることを教えてください

1番大事なことは、選手たちは「サッカー選手」である前に「人」であると考えることです。人というものは、毎日進歩しているものです。つまり、選手も、指導者も、日々変化がある。何かしら成長があるという前向きな気持ちで指導をしていました。

そのうえで重きを置いたことは、「責任」を選手と監督で分け合うこと。「私は監督としてこういう責任を請け負っている、あなたたち選手にはこういう責任がある」と教えることで、相互に責任の関係性が生まれるようにしました。

そうすると、選手が自身の責任を全うするようになる。それが成長へとつながり、自信となり、キャパシティが広がる。結果、ピッチ上で、自主的に動ける選手が生まれました。

「自分で考えて、自分でアクションを起こし、自分で決定できる」。長年、この3点が身に付く指導をしていた結果、これらの軸を持つ選手を育てることができたと自負しています。

――マリオさん自身は「サッカー以外でも食べていける」と言われていました。メキシコにおける、サッカー選手の引退後のセカンドキャリアの状況について教えてください

サッカーチームは「あなたが必要」という時は良く扱ってくれますが、戦力外通告後は即「さよなら」です。サッカー選手はそういう厳しい世界にいます。それは日本も同じだと思います。

そして選手の引退後の課題の一つは、現役時代に次のキャリアについて考えている人が少ないこと。メキシコ人は「その日を楽しく生きよう!」と刹那的に楽しむ国民性があります。もう少し長い目で物事を見ること、引退後のキャリアビジョンを考えることは必要だと感じています。

マリオさんの監督としての理想像は「試合当日、観客席から選手を見守っていたい」。選手が自主的に試合を組み立ててほしいと考えている=本人提供
マリオさんの監督としての理想像は「試合当日、観客席から選手を見守っていたい」。選手が自主的に試合を組み立ててほしいと考えている=本人提供
――たとえ現役時代に明確なキャリアビジョンがなくても、サッカーでの学びが何らかの形でその後に生きることはあると思います。

そうですね。サッカーは、ボールを蹴るだけのスポーツではありません。私は、サッカーを通じて3つのスキルを得られると考えています。
「責任感」、「チームワーク」、そして「規律を守る」です。

これまでの経験上、この3つがバランスよく身に付いていないと、サッカー選手生命は短いと感じています。そして、この3つのスキルを体得できたのなら、それらは一生の財産になると思っています。

勝つ時というのは、決まって、チームワークが良い時でした。つまり、チーム内のコミュニケーションがうまく取れている時です。コミュニケーションにおいてポイントの一つになるのは、自分の考えを言葉にして伝える「言語化力」です。

自分の考えや思いを相手に伝えられるかが鍵になります。相手に対して何をしてほしいかハッキリ伝える。それは監督も同じで、私自身、どのようなゲーム展開にするかの戦術をはじめ、自分のイメージを正しく選手に理解をしてもらうことを意識してきました。

改めて考えると、サッカーでの経験は、サッカーだけにとどまる話ではないんですね。競技を通して学んだことは、ビジネスや教育の場面でも共通して生きる。それは、選手にも、監督にも言えることだと思います。

通訳:西川瑞穂
取材協力: エンラセ委員会 熊谷勇、沖山友晴、カルロス・メロ

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます