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連載

#11 地デジ最前線

地域の魅力、輝かせる術はオンライン 国境の島で始まった大人の学び

対馬の環境保全やSDGsの推進に向けた研究のため昨春に対馬へやってきた高田陽さん。対馬グローカル大学では、「市民科学」などの講義や事務局業務を担当している
対馬の環境保全やSDGsの推進に向けた研究のため昨春に対馬へやってきた高田陽さん。対馬グローカル大学では、「市民科学」などの講義や事務局業務を担当している

目次

地デジ最前線
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オンラインの良さの一つは、地理的制約を超えてコミュニケーションが取れるところです。日本の北西端にある離島・長崎県対馬市では昨秋、島内外の専門家と島民がオンラインで交流する市民講座「対馬グローカル大学」が立ち上がりました。「国境の島」で始まった大人の学びは地域にどんな種を植えるのか。朝日新聞対馬通信員の佐藤雄二さんが取材しました。

対面の計画がオンラインに

対馬グローカル大学は、「地球規模の視野を持ち、対馬の自然と文化の魅力を知り、誰もが平等に学び合い、いつまでも暮らし続けられる島を、みんなで考える」という理念のもと、2020年9月に開講した。

事務局によると、受講生は「対馬の歴史や文化について詳しく学びたい」「地元の課題解決について考えたい」「同じ志を持つ人との出会いたい」などという思いの島民が集まった。このほか島外からも、対馬出身で教員を志望する大学生やルーツのある人たちが参加。今年度は島民102人、島外から59人の計161人が受講している。

対馬グローカル大学開講のあいさつをする「学長」の比田勝尚喜・対馬市長(右端)=2020年9月
対馬グローカル大学開講のあいさつをする「学長」の比田勝尚喜・対馬市長(右端)=2020年9月

講座は大きく分けて、Web講義とオンラインゼミの2種類だ。Web講義では約70本の動画をYouTubeで配信する予定で、ライブ配信も20本程度ある(見逃し視聴もできる)。オンラインゼミは、対馬の食資源を生かした食ゼミ、環境教育やESD(持続可能な開発のための教育)のプログラム作りをする教育ゼミなど、8つの分野がある。10人前後がZoomで参加し、オンライン上で勉強や議論が行われている。

大学はもともと、2014年から始まった域学連携のなかで、市民を対象にした対面授業として計画されていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、対面授業の実施や島外に住む研究者の訪問が困難になり、オンライン開講を余儀なくされた。

ただ、自分たちが必要とするものを作れるよう学ぶ「ものづくりゼミ」や、コロナの状況次第ではあるが、データを取るための調査手法を学ぶ実習など、リアルの要素を加える取り組みも今年度から実施されている。

感染対策をした上でリアルの場で開かれているものづくりゼミ
感染対策をした上でリアルの場で開かれているものづくりゼミ

島民と専門家がつながる

開講から一年が経った。学びを通じた市民同士、そして専門家との交流は少しずつだが、実を結びつつある。

「手応えとして一番大きかったのは、島内の人たちとつながりができたことです」

こう話すのは、対馬市島おこし協働隊の高田陽さん(25)だ。明治大大学院農学研究科で環境保全や生態学の研究をしていた高田さんは、研究を実践するフィールドとして昨春に対馬へやってきた。現在も大学院の博士課程に籍を置きながら、対馬グローカル大学では「市民科学」などのWeb講義や事務局業務を受け持っている。

「対馬グローカル大学を通じて、受講生が根拠に基づいて考え、学び、議論するようになれば。気になることがあったら、自分たちで探究できるという意識を身につけてもらえるよう、論文の読み方などの方法論を示す講座も開きたいと考えています」

一口に島と言っても、対馬は南北に82kmもあり、全島を対象の対面講座を開くとなれば移動時間など様々な調整が必要になる。一方、オンラインはその不便さがなく、「受講生からは、家事をしながら聞ける、空いている時間に見直しができるという反応もあります」と高田さん。機器の操作が苦手という人たちには、使い方の講座を開くなど、希望する島民が受講できる環境作りにも力を入れる。

問題意識が明確に

専門家との出会いで問題意識の輪郭がより明確となった島民もいる。対馬中部で漁業を営む鎌田衛さん(57)だ。島内の別地区から2013年に引っ越してきた頃は海に茂っていた海藻が、2015年ごろから急に姿を消し、磯焼けが目立つようになった。現在は漁業の傍ら藻場の調査やブログ、SNSでの情報発信を行っている。

保有する船に乗る鎌田さん
保有する船に乗る鎌田さん

鎌田さんが受講したきっかけは、藻場の保全活動で助言を受けている九州大大学院の清野聡子准教授(水産環境学)がプログラムに協力していたことだった。

それまで、オンライン講座の体験はほとんどなかったという鎌田さん。にぎやかしのつもりで参加したが、「Web講義では、海藻資源のことばかりでなく、対州馬(たいしゅうば)、PM2.5など、自分からは好んで学ぼうと思わなかったことにも触れることができた。清野先生が担当した環境ゼミでは、メンバーに話すことで思わぬ発見があるということを感じた」と知ることの喜びを味わう機会となった。

昨年度のゼミの最終回では、学びの成果を発表する時間があった。パソコンを使っての資料づくりは得意でなかったが、「(高田)陽さんがアドバイザーとして一緒に考え、作業してくれたから形になった」と話す。

昨年度のプログラムを終え、対馬グローカル大学の修了証書を持つ鎌田さん
昨年度のプログラムを終え、対馬グローカル大学の修了証書を持つ鎌田さん

鎌田さんは現在、「ラッパウニの食性の研究と商品化の可能性」というテーマの研究にも取り組んでいる。毒性のあるラッパウニは「磯焼けが始まってから見かけるようになった」と鎌田さん。「ラッパウニが密集するところには海藻が減少しているが、食べ尽くされたことが原因なのか、磯焼けが起きた結果として繁殖しているのかがはっきりしない。原因を突き止めたい」。この研究も周囲の助言を受けながら、豊かな海の復活を目指す一助にすると意気込む。

鎌田さんが住む対馬市美津島町賀谷に生息するラッパウニ(威嚇時)=鎌田さん提供
鎌田さんが住む対馬市美津島町賀谷に生息するラッパウニ(威嚇時)=鎌田さん提供

ビジネスを学ぶ機会も

「島民自らが地域を考え、行動につなげる」ことを掲げる対馬グローカル大学では、SDGsを取り入れた地域づくりやビジネスについても学ぶことができる。島おこし協働隊のコミュニティ支援担当として、出身地の対馬中部で地域と行政をつなぐ活動している小川香織さん(26)も受講生の一人だ。

小川さんは対馬高校を卒業後、島外の専門学校に進学し、パティシエとして4年間働いてUターンした。実家が工務店を営んでいることもあり、帰郷して地域の暮らしが衰えた姿を目の当たりにすると、空き家問題に関心を抱くようになった。

「活動を始めると『対馬に戻ってきたい、移住したい』と関心を持つ人がいることを知りましたが、住む場所がないことがネックになっています。情報発信を増やすよりも場を整えることが先ではないかと考えたとき、空き家の再生を考えました」

早速、計画を立てようとした小川さんだが、「パティシエをしていた頃は必要なかったので」とビジネスに関する知識が乏しいこと実感する。そんなタイミングで、起業やソーシャルビジネスを学べるビジネスゼミが開講した。

「未知の世界でしたが、先生(長崎大経済学部の山口純哉准教授)の丁寧な指導もあり、知識や経験のない私でもビジネスプランをまとめることができました。勉強をしていないことにコンプレックスがありましたが、自信が持てるようになりました」

今年4月からプランをもとに事業が始まった。地域に合った人たちが住めるよう、入居希望者、大家の意向に寄り添いながら手探りで活動を進めている。

「地域の暮らしにおける幸福度を上げることと、収益を上げビジネスとして継続することの両立が大事であることを学びました。空き家を再び誰かのマイホームとし、地域の暮らしに彩りをあたえるよう、これからも模索していきたいです」

小川香織さん=本人提供
小川香織さん=本人提供

離島やへき地の新たな地域像を示す

対馬グローカル大学は、単なる市民講座のオンライン版ではない。市民と専門家たちが連携し、相互に学び合うことで培ってきた研究実績、発表の上に成り立っている経緯がある。無料のプログラムとして実現できているのも、講師の多くが、研究で世話になった対馬の市民に成果を還元したい思いで引き受けているところがある。

大学の今後について高田さんは「人のつながりができてきたので、これからは受講生同士で新しいことを始める提案が出たり、一緒に調べたり、考えたりする流れが出てくるとうれしい。高校生や対馬に転勤で来た人たちが島外に離れても、直接対馬の情報を得られる、関わり続けられる場にもなってくれれば」と期待する。

市民に研究成果を発表する場として開催されている対馬学フォーラム(ポスター発表)
市民に研究成果を発表する場として開催されている対馬学フォーラム(ポスター発表)

対馬に限らず地方では、全国に発信できる地域資源がありながら、高等教育機関がなく、論文など体系立てた形にまとめられる人材が少ないため、研究が進まず埋もれたままになっていることが起こりがちである。一方で、やみくもに発信しても、信頼性に欠けると思われてしまえば、情報ソースとして扱ってもらえず、その先の広がりは期待できない。

その解決策の一つが、市民と専門家がオンラインでつながれる環境づくりだ。地域の魅力はその土地にしかないが、輝かせる術はオンラインで域外から吸収する。離島やへき地ではどうしても「ないこと」ばかりに意識が向いてしまうが、オンラインで気軽に地域の外とつながれることは、大きな力になり得る。対馬グローカル大学はまさにそれを体現している。

急激な過疎化や少子高齢化に直面する対馬では、担い手不足や、陸海の環境問題、歴史・文化の継承など、多種多様な社会課題に直面している。何もしなければ、遠からず社会が維持できない状況になるであろう。

大学教員や高田さんのような研究者といった研究現場で活躍する人たちとのつながりを生かし、市民と協働で地域資源の研究成果を残すプロセスを発展させる。将来の対馬にとって大きな財産を生み出すだけでなく、離島やへき地の新たな地域像を示す可能性を秘めている。

 

日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。
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