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連載

#9 地デジ最前線

「役所は困っていなかった」元官僚が語る行政のデジタル化が遅い理由

特別定額給付金の事務作業をする自治体職員たち=2020年6月、山本逸生撮影
特別定額給付金の事務作業をする自治体職員たち=2020年6月、山本逸生撮影 出典: 朝日新聞社

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地デジ最前線
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行政のデジタル化が叫ばれて久しいですが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、その重要性は増しています。一方、特別定額給付金のオンライン申請で混乱が起きた自治体が問題視されましたが、取り組みに濃淡があるのが実情です。「デジタル化が進んでいない自治体には、主に三つの段階がある」と語るのは、元官僚でシンクタンク「青山社中」筆頭代表の朝比奈一郎さんです。デジタル化がこれまで進んでこなかった背景や、地方自治体の振興に関わった経験からデジタル化に求められる人材について話を聞きました。

コロナ前、変えるデメリット大きいと判断

1997年に通商産業省(現・経済産業省)に入省し、在職中は「新しい霞ケ関を創る若手の会」を立ち上げるなど霞が関改革の必要性を訴えてきた朝比奈さん。2010年の退官後は青山社中で政策づくりの支援や人材育成を行うほか、これまで全国9市町の経済活性アドバイザーや総務省地域力創造アドバイザー、内閣府地域活性化伝道師なども務めてきています。

朝比奈さんによると、デジタル化が進んでいない自治体にも段階があり、主に、(1)思考停止になっている、(2)意識は高いが、組織全体の取り組みになっていない、(3)オンライン化は進んでいるが仕事そのものの変化までは至っていない、の三つに分かれます。

(1)の自治体については、朝比奈さんによれば「一言で言うと、コロナ前まではデジタル化が進んでいなくても困っていなかったんですよ」とのこと。既存の住民サービスなどは運用が確立した面が強く、「むしろ今までのやり方を変えることで発生するコストのデメリットが大きい。要は『わざわざ変えるのは面倒くさい』という判断になるわけです」と言及します。

デジタルについて言えば、IT革命が流行語にもなった20年ほど前の「苦い経験もある」とあると付け加えた朝比奈さん。「当時もブームに乗って新しいシステムを導入する自治体が多かったが、きちんと使いこなすことができず、効果の割に維持費だけがかさむことも珍しくなかった。だから近年、DXという言葉が登場しても逆に『もう、ITベンダーたちには騙されないぞ』と身構えていた役所は多かったと思います」

シンクタンク「青山社中」筆頭代表の朝比奈一郎さん
シンクタンク「青山社中」筆頭代表の朝比奈一郎さん

デジタル化の遅れが住民生活と直結

その状況を一変させているのが、新型コロナウイルスの流行です。「これまでは主に『進めば理想的な姿になる』という場面で語られていたデジタル化が、感染対策の観点から『なくては困る。つまり、対面での業務が難しくなると住民の生活に直結してしまう』と危機感を抱くようになった」と朝比奈さん。大きくあらわになったのは、昨年の10万円の特別定額給付金の支給をめぐる騒動でした。

特別定額給付金をめぐっては、各地でオンライン申請が模索されたものの、多くの自治体で入力されたデータをプリントアウトして確認していたり、システムが急造だったこともあって誤った入力に柔軟に対応できなかったり。結局、100以上の自治体がオンライン申請をやめ、郵送のみの対応とするなどの事態となりました。

「コロナの時代になったことによって、思考停止では立ちいかなくなり、(1)や(2)の自治体も(3)に向けて動き出しました。ただ、アナログでやっていた仕事を単にオンラインに置き換えるだけでは、つまり(3)であっても、DXとは言えません。デジタル化がうまくいっている自治体は、オンラインへの置き換え進んだ上で、農業やものづくりといった産業、また、医療や教育など、生活のあらゆる側面にデジタルを掛け合わせてつなげていくことで、魅力に磨きをかけたり、新たな価値を生み出したりしています」

変革に必要な素質

自治体でデジタル化が進む背景の一つにあるのが、リーダーシップを発揮する人の存在です。青山社中リーダー塾などを開き人材育成にも取り組んでいる朝比奈さんは、「リーダーシップの真意・正しい訳は『指導力』ではなく、自ら動き始める『始動力』です」と力を込めます。これには、官僚時代の反面教師的な学びが生かされています。

「皮肉になりますが、大事とされていたのは『前例』と『横並び』だったんです。政策を提案するにも、昨年も似たようなものがあったり、また他国で似た事例があると例えば『日本版〇〇』ということになったりして予算がつきやすい。一方、グローバルには、つまりは、アメリカやフランスの行政官たちにとっては『世界で誰もやっていないこと』が重要になります。前例や横並びを無視すれば、最先端の取り組みになりますから」

「これは自治体でも同じです。『うちの市ではこれをずっとやってきた』『隣の市がやっている』といったことで政策が決まってきた。これでは、変化が求められている時代でも、やっていないことをするのはなかなか難しい。DXはその最たる例ということになりますが、まさに始動する人(=リーダー)が必要なんです」

アドバイザーを務める自治体でもそうした人材を見いだし、その方を中心にサポートしているという朝比奈さん。「もちろん首長や幹部であれば影響力が大きいので変革はしやすいですが、肩書は問いません。係長でも係員でも自ら動く人をこれまで多数見てきました。きっかけを得て変わっていく人もいます」。実際、官民での地域振興プロジェクトなどを企画すると、最初は数合わせ的に参加していた自治体職員の目が変わることもあるそうです。

「自ら動けるリーダーの素質の一つに、『自分は人生でこれをやるんだ』という基軸力がありますが、自治体の職員には実はこれが備わっていることが多いです。安定しているから、みたいな理由でなられている方もいますが、元々は、地域のため、住民のためという思いで公務員をやっている方も少なくないです。ただ、やらされ仕事を何年も続けるうちに『遅刻も休みもせず真面目に出勤しているけど、肝心の仕事は?』という人もでてきてしまう。変革しよう、始動しよう、という気持ちが削がれていく。そんな人でも何かスイッチが入れば変わりますし、その一つがデジタル化かもしれません」

坂本龍馬がつくった亀山社中をもじり設立した「青山社中」。政策づくりの支援や人材育成に力を注いでいる
坂本龍馬がつくった亀山社中をもじり設立した「青山社中」。政策づくりの支援や人材育成に力を注いでいる

基幹システムは統一を

行政のデジタル化をめぐっては、9月に新設されたデジタル庁が大きな役割を担うことになります。官僚時代から様々な組織体制を見てきている朝比奈さんは「設立までの過程は及第点をつけられます」と今後の動きにも期待しています。

「今回のように、各省庁にまたがるものを集めていくこと、すなわち講学上の「政策統合機関」として機能させるには大きく四つのポイントがあります。『各省からの優越性』『トップの力(政治力)』『組織体制』『人材』です」

「根拠にもなるデジタル改革関連法を見ましたが、組織の優越性については行政法の世界で言う最強用語、つまり「企画」とか「調整」といった文言がかなり入っています。もちろん、各省との協議で削除されたんだろうなと想像できる部分もありますが(「~を除く」との規定)、80点ぐらいはつけていい。トップについては、デジタル庁は内閣直轄で総理を全体の一番上に位置づけているんですよね。これはなかなかないパターンで、政府の気合を感じます」

「組織体制も約600人規模でスタートということで本格的ですし、民間からも200人ほどは採用したと聞いています。だからあとは、どういう人材、つまり官民挙げての優秀人材が入っているかですよね。ここは、割と良い感じの話を聞いていますが、つぶさには、まだ分かりません」

「自治体との関係で言うと、住民情報の記録や地方税の徴収などの基幹業務に使うシステムは国がどんどん統一した方がいい。これらは言わば、日本で暮らす『OS』にあたるわけですから、各地で特色を出す話ではないです。その上で自治体は、地域にあったアプリケーションをどう開発して乗っけていくか。このすみ分けが進めば、デジタルを生かした新しい地域振興策がもっと出てくると思います」

デジタル庁が入居する高層ビル。霞が関の文化を打破しようと、あえて官庁街から距離を置いたという=2021年5月、東京都千代田区
デジタル庁が入居する高層ビル。霞が関の文化を打破しようと、あえて官庁街から距離を置いたという=2021年5月、東京都千代田区 出典: 朝日新聞社
 

日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。
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