話題
「ルール?展」に若者が殺到の理由、窮屈さを反映?でも変えるのは…
来場者に聞いてわかった〝決まりごと意識〟
今、若い人たちの間で「ルール?展」が空前の人気です。一般的に年齢層が高くなりがちなデザイン、現代アートの展覧会にもかかわらず、大学生を中心に若い人たちであふれかえっています。SNSを通じていろいろなルールに触れやすくなったからなのか。それとも、コロナ禍で社会が大きく変わる中でルールの考え方が変わっているからなのか。若い人たちをとりまくルールについて探ってみました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)
現在、東京六本木の21_21 DESIGN SIGHT では企画展「ルール?展」が開催されています。法律家の水野祐さん、コグニティブデザイナーの菅俊一さん、キュレーターの田中みゆきさんの3 名が展覧会ディレクターチームとなり、法律、規則、習慣、自然法則まで幅広く「ルール」をテーマに、新しいルールの見方・つくり方・使い方などを考える作品が展示されています。
法律家がディレクターを務めるということで、異色の展覧会として開催前から注目されていました。
開催直後から多くの人が来場していたようですが、すぐに若い人たちの人気に火がつき、今では大学生などの来場が普段以上に多いと言います。
法律家の水野祐さんは「デザインやアートの展覧会に普段から来る層にだけ届いても意味がないテーマなので、できるだけ幅広い層に来てもらいたいと思って企画したが、ここまで若い人たちが来るとは予想していなかった」と語ります。
きっかけは7月下旬のTikTokでインフルエンサーの投稿と言われます。その後、Instagramでも広がり、人気に火がつきました。来場者のSNSの投稿を見ると、一般的なデザインや現代アートの投稿とは異なり、「インスタ映え」を狙った写真や動画も多く存在します。一体何が起きているのか。まずは、来場者に話を聞いてみることにしました。
実際に会場に訪れると、見渡す限り若い人たち。今回、来場者23名にお話を聞きましたが、ほとんどが大学生でした。
まず、気になったのが、この展覧会をどうやって知ったのか。
もともと関心のある人に偏りがちなのがデザインや現代アートの特徴ですが、ほとんどの人が、InstagramとTikTokと答えました。友達や、おすすめのスポットを紹介するアカウントなどで知ったようです。その後、「#ルール展」などで検索して、様々な写真や動画なども見て来場を決めたと言います。
「見るだけじゃなく音や光など色々な要素があって体験ができるから」(大学2年女性)
「木のBOXを展覧会の中で自由に動かすことができ楽しめそうだから。あとはそれを使ってオシャレにも写真が撮れるから」(大学2年女性)
ただ観るだけじゃなく、体験できる展示方法が刺さったようです。自分だけの構図で、動きのある写真や動画を撮影できることを挙げる人が何人もいました。
興味深いのは美術館などにあまり行かない人たちが多いことです。
お話をうかがった23人中17人が普段は美術館には行かないとのことでした。
美術系ではなく、文系、体育系、保育系など様々な分野で学ぶ大学生が来場していました。
美術館にあまり行かない人たちでも楽しいと感じる理由としては「ルールが身近に感じられるものだから」という意見が多く挙がりました。
テーマとして掲げられた「ルール」について、「難しそう…」という反応ではなく、むしろ若い人たちにとって身近な内容として受け取られたようです。
しかし、肝心の「ルール」の印象を聞くとポジティブな印象ではありませんでした。
特徴的だったのは「ルール」に対して〝守るもの〟〝従うもの〟といった受け身の傾向が大きかったことです。
では、実際に身の回りにあるルールの中でどんなことがあったのでしょうか。
大学2年生の女性は高校時代の制服のルールに不満を持っていました。
他にも高校時代の身なりのルールへの不満は多くありました。大学1年の男性は靴下のルールに困惑したことを話してくれました。
また、アルバイト先でのルールについても色々な意見がありました。
家電量販店でアルバイトしている大学1年の男性は髪形に関する疑問があったといいます。
ルールの制約を感じている若い人たちが多いですが、既存のルールに甘んじない人もいました。
大学1年生の女性は高校時代の制服で着るカーディガンについて先生と争ったことがあるといいます。
近年、中学や高校などの「ブラック校則」が問題視されていますが、ルールを積極的に変えている学校の話もありました。
大学1年生の女性の学校では生徒会で集まったときに、変えたいルールについて意見が求められるそうです。その後、先生たちとも話し合い、ルールが変わる仕組みです。実際、その女性の発言がきっかけで、ルールが変わることもあったそうです。
決して多くはなかったですが、これ以外にもルールに甘んじなかったり、よりよいルールを作っていこうとしたりする声はありました。
身近なルールの先にあり、私たちの生活から切っても切り離せない「法律」についてはどう思っているのか聞きました。
法律は自分で変えられない絶対的なルールであり、守るべきものという認識の人が目立ちました。
カップルできていた大学1年生の男性は守るべきものという受け身の印象を持ちながらも、そのルールの必要性を指摘しました。
ルールを守ることは自分たちが守られることにつながる。そういう解釈が根強くあるようです。
では、ルール自体に何か課題があったときに、よりよいものに変えることはどう思っているのでしょうか。
大学2年生の男性はすでにあるルールは決まったものとして捉え、変えることには否定的な意見でした。
過去にルールを変える経験がなかったからこそ諦めているという意見は根強くあるのかもしれません。
一方、大学1年生の男性は変えたいという気持ちはあっても変える手段がないと語ります。
ただ、実際はやろうとしても厳しかったそうです。
他にもルールを変えたい時に「誰に言えばいいかわからない」という意見も複数上がるなど、そもそもの手段を知らない人も多いようでした。
必要があればルールを変えるために動くと答えた大学1年生の女性は「少数の意見は聞き入れられづらいので、友達や学校の人に呼びかけたり、協力してくれる人を増やしていくことはやると思います」と話します。
「私は自分がリーダーとか、誰がリーダーとか、そういうことじゃないと思います。みんなで考えて共有して、それに向かって進めていくということが必要なんだと思います」
誰かが引っ張るのではなく、みんなで進めていくという声が上がるのは、SNSの時代らしい動きだと感じました。
「ルールは身近だから」。
来場した若い人たちに「ルール?展」へ来た理由を聞くと、多くの人がこのように返答しました。TikTokやインスタでバズって会場にも若い人たちが殺到していると聞き、その秘密を探ろうと思っていたのですが、想定外の意見でした。
ルールと聞くと意識が高いテーマと思ってしまっていましたが、普段、現代アートの掲げる複雑なテーマと比べれば、自分たちの身の回りで考えやすいテーマであり、たしかに納得できます。何よりデザインやアートとの向き合いとしても共感でき、いい流れだなと思いました。
ただし、ルールへの印象は「従うべきもの」など受け身の印象が多かった気がします。もちろん、それ自体が悪いとは思いません。様々な議論が積み重ねられてできたものなので、守ることも大切です。
ただ、時代とともに状況は変わるので、何かおかしいと思ったとき、変えるまでいかなくても、声をあげたり、(必要であれば)変えようとする意識がもう少しあってもよいなと感じました。
海外の大学に留学中(一時帰国中)の男性は海外との比較から、ルールを変える弊害になるポイントも教えてくれました。
もちろん、ルールに抗ったり、ルールを変える意思を示してくれた人もいました。
共通していたのは過去の経験です。
「先生に抗ったことで黙認されるようになった」「学校のルールを変えた」など過去にルールと向き合った経験が『ルールは変わっていくもの』という認識を植え付けたのかもしれません。
若い人たちのルールの意識の話をしてきましたが、これは私たち大人たちも同様です。むしろ大人の方が頭が凝り固まって深刻な状況にいることもあります。
今回、若い人たちが反応したように「ルールは身近」です。身近なところから積極的にルールを考える必要があると思います。時にはルールをポジティブに使ってみることも一つです。成功体験ができれば、さらに広がっていきます。
企画展に足を運んだ若い人たちのように、まずは気軽なところから「ルール」を考えてみて欲しいなと思います。
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