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菅さんの通信簿〝たたき上げ〟首相のできたこと、できなかったこと

対話ができる。そのような人に首相になってほしい

菅義偉首相の記者会見が映し出された家電量販店のテレビ=2021年9月9日午後7時47分、大阪市浪速区、西岡臣撮影
菅義偉首相の記者会見が映し出された家電量販店のテレビ=2021年9月9日午後7時47分、大阪市浪速区、西岡臣撮影 出典: 朝日新聞

目次

菅義偉首相が退陣を電撃表明しました。ニュースを見て驚いた人も多いかと思います。もっぱら、誰が総裁選に出るのかという、政局ばかりが報じられていますが、大事なことは菅首相が何をして、何ができなかったのか、失敗の本質について考えることではないでしょうか。菅首相の功罪と、次の首相がすべきことについて考えます。(時事YouTuber たかまつなな)

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コロナ対策の評価

※YouTube「たかまつななチャンネル」で9月5日に生配信した「菅総理の功罪と、次の総理がすべきこと【政治記者と、とことん振り返る】」を元に構成しました
 

菅政権の1年は、新型コロナウイルス感染症対策なくして語れない。ワクチン接種を推進し河野氏を担当大臣に任命するなど意欲的だった一方、病床が埋まり医療はひっぱく。未知のウイルスを前に菅首相の力不足が露呈した。

<ワクチン接種さえ進めば感染は終息する信じ込んで、命を守るための病床の確保や医療体制の立て直しが出遅れた。それを提言する専門家にも耳を貸さないため、直言する人もいなくなった(青山和弘氏)>

ワクチンの争奪戦で、日本は遅れをとっていたと思われる中、「1日100万回接種」を菅総理が発言し、「できない」と批判される中、それを実現させた。これは、良くも悪くも、菅さんが強引に自分がやるといったことを進める頑固さがプラスになったからだろう。

コロナ対策において問題だったのは、菅総理の国民とのコミュニケーションが圧倒的にかけていたこと。「経済的に苦しくなった」「コロナの感染が怖い」「コロナになったけど、生きていけるのか」。国民の中に色んな不安がよぎった時、政治が私たちの生活を保証してくれているというメッセージが圧倒的に欠けてかけていた。

「Go Toキャンペーン」など、経済をまわすための政策は、国民のためでもあったのに、本音を言わないという菅さんの姿勢が、政治が大企業を向いていると思わせてしまった。

病床を増やしたり、コロナの重症患者に対応できる医師を手厚くしたりすることは、誰が首相であっても、すぐに形にすることはが難しかっただろう。しかし、どんなメッセージを打ち出していくのか、エビデンスに基づいた実行力のあるチーム作りにおいて、首相の判断をあおぐ指示待ち人間が多かったという番組中の指摘は、反省しなければいけない。

菅首相がこだわったのが「Go Toキャンペーン」だ。コロナで傷ついた経済を立て直すため、観光支援に乗り出したが、感染者数の多い東京都も対象にしたことで、感染悪化を招いた。

<コロナ優先と言いながら、政局優先だった。感染爆発と医療崩壊が起きている中で、Go Toキャンペーンやオリンピックも開催した。言っていることとやっていることが違う。国民からも政治家からも信用を失った(鮫島浩氏)>

「Go Toキャンペーン」の良くなかったところは、観光事業を守るただったのが、直前に二転三転し、キャンセル対応などで、事業者に負担をかけてしまったこと。本来、救うべき観光業者を巻き込んでしまったのは反省すべきだ。

一方で、コロナの感染者数をおさえながら、その中で経済をまわしていくところに政治家の役割がある。野党の中には「ゼロコロナ」など、自粛をすれば解決するかのような主張も見られたが、実現不可能なものだったと言わざるを得ない。

経済を完全にストップすれば税収は減る。そのつけが未来の子どもたちにのしかかるというのは、おかしな話だ。

外出自粛で大打撃を受けた飲食店について、どういう形なら安全なのか、店の座席数を50%以下にすればいいのか、そういうルール作りに取り組む動きが欲しかった。与野党問わず、飲食店と丁寧にコミュニケーションをとって、提言する姿勢が求められた。

観光案内所のドアに貼られた「Go Toトラベル」の案内ポスター=2020年12月16日、福井県越前市府中1丁目
観光案内所のドアに貼られた「Go Toトラベル」の案内ポスター=2020年12月16日、福井県越前市府中1丁目 出典: 朝日新聞

デジタル庁発足したけれど……

行政の「縦割り打破」を掲げ、菅首相の肝いり政策として発足させたのがデジタル庁だった。東京電力福島第一原発から出る処理水の海洋放出や、高齢者に不人気な政策などは、歴代の政権からの宿題に手をつけたともいえる。

<個別政策の突破力はあった。デジタル庁を発足させ、携帯電話料金の値下げを実現させたほか、脱炭素目標の設定、原発事故処理水の海洋放出、後期高齢者の医療費負担引き上げなど難しい課題にも取り組んだ。道半ばで評価はこれからのものも多いが、前進しようという姿勢は見られた(青山氏)>

行政のデジタル化は遅れているものの、一向に進む気配がなかったので、デジタル庁ができることは前進だと言える。しかし、まだできたばかりで評価は難しい、民間からの登用も多いが、行政の意思決定の遅さや、デジタル化が進まない現実に愛想を尽かして、流出してしまわないか心配だ。

世界の潮流にのり、脱炭素を菅首相がぶちあげたことは素晴らしい。大企業はSDGsなどの流れを受け、脱炭素を掲げるが、パフォーマンスにとどまっているところも少なくない。いかにここから、推進力を高めるか、そのために環境税の負荷を高められるのか、規制のための法整備ができるのかなど次の展開に注目したい。 

原発の処理水はタンクがいっぱいになってしまう以上、海洋放出は誰かが決断しなくてはいけなかった。当然、批判は大きくなる。後期高齢者の医療費負担も、選挙にいく高齢者を敵にまわしかねない。だけど、お金がある高齢者の人には自己負担をお願いして、現役世代や将来世代にお金をまわさないと、日本の未来がない。

それらを政治主導で実行したのは大きな成果だろう。むしろ、反対した立憲民主党などが批判されるべきではないだろうか。先行きが暗い中、誰かに我慢してもらうことは避けられない。政治や財源は限りがあり、トレードオフな問題をどう解決していくのか。その際、首相が説明を尽くすことや、メディアがその難しさや背景をしっかりと伝えていくことが大事だったと思う。

就任当初のキャッチコピーだった〝たたき上げ〟。派閥に属さない立場からのリーダーシップが期待された。しかし、コロナ対策について説明不足の場面が目立ち、積極的にメッセージを発信していく姿勢には疑問符がついた。

<たたき上げの久々の首相だった。政治家は2世、3世が多い中、政治家秘書出身だった。世襲政治家は一度負けてもまたチャンスがあるが、たたき上げだと絶対に負けられない。菅首相は一般大衆の気持ちに敏感だった。コロナ禍において、その良さが発揮できなかったのが残念(鮫島氏)>
<周囲の反対を受けても信念を貫くのが菅総理のいい部分でもだったが、今回は裏目に出た。頑固で柔軟性を欠いていた。『解散総選挙を早めにすべき』という声もあったが、成果を出してからにしたい、と踏み切らなかった。コロナが収まるどころか拡大しているのに、方向転換する柔軟性がなかった(青山氏)>

派閥に属していないことが、こんなにもろいのかというのを今回の退陣で見せつけられ、政治というのは本当に政局なのだなと思い、残念な気持ちになった。

たたき上げの人でも総理大臣になれたこと自体は、素晴らしいと思う。ぬるぬると、後援会や支持者や地盤を気にする議員にはできなかった、不人気の政策に手をつけられた。しかし、自分の政治的基盤作りのために東京五輪を無理矢理開催し国民を巻き込んだのは、本末転倒だと言える。

記者会見など、情報発信は最悪だった。政治が最終的なセーフティネットだ、こんな危機をみんなで乗り越えましょうというメッセージを打ち出せなかったことは残念だった。

政策だけではなく、総理大臣の言葉で、救われる命がある。意思決定や情報公開を透明化することで、マスコミ側や野党側から提案を生み出すこともできた。コロナ禍において正解はない。だから、悩みや意思決定の過程などもしっかりと話してほしかった。国民の悩みや困りごとについて、記者会見の質疑などを通じてでも、知ってもらいたかった。

菅義偉氏の生家前には祝う垂れ幕やのぼり旗が掲げられ、記念撮影する人の姿も見られた=2020年9月16日午後2時24分、秋田県湯沢市秋ノ宮、山谷勉撮影
菅義偉氏の生家前には祝う垂れ幕やのぼり旗が掲げられ、記念撮影する人の姿も見られた=2020年9月16日午後2時24分、秋田県湯沢市秋ノ宮、山谷勉撮影 出典: 朝日新聞

次の首相がするべきこと

様々な課題が積み残された中で起きた突然の退陣。次の首相が取り組むべきことは山積みとなっている。

<予測される危機への具体的対応策を練ること。感染症対策について厚労省が2010年に具体的な準備を求める報告書を出していたにもかかわらず、政府は対応してこなかったことを教訓にしないといけない。外交問題では台湾海峡有事について準備や覚悟があるとは言い難い。また首都直下型地震に人口減少、農業安全保障などの問題もある。そして緊急事態時の政府の対応はどうあるべきか、法整備や憲法改正の是非を含めて検討が必要だ。「分かっていたけど準備していませんでした」とならないように、リーダーとしてビジョンを持ってほしい(青山氏)>
<とにかく医療体制を作ること。政治家が一番大事にすべきことは国民の命を守ること。アベノマスクに始まり、特別定額給付金の10万円は届かない、接触確認アプリもうまく起動しないなどスムーズではなかった。安倍政権、菅政権でやることが多い中、ちょっと逆らうと飛ばされる、国会では嘘をつかされる、文書も改ざんさせられる。結果、行政の力が落ちてしまった。役人と政治家がしっかり話し合って立て直さなければいえない(鮫島氏)>

コロナ患者を受け入れている病院で入院したこともあり、やはり、コロナは儲からないという実態を知った。以前より改善はされているものの、通常の医療をストップしてまでやるインセンティブになるくらい点数をあげるなどの改善が必要だ。コロナ対応をやればやるほど、損してリスクもあがる、だから救急車がきても、入院できない。そんなのは、誰にとっても幸福ではない。

明確なルールが作りがすぐにでも求められる。飲食店が夜の20時までは安全で、20時以降は危ないということにエビデンスがないことぐらいは国民に見透かされている。ルールをつくることを放棄することで、分断をあおっている。

自粛を緩めることは、感染者が増える可能性が高く、政治的リスクを伴う。だから、地方自治体の首長が緊急事態宣言を要請する形になってしまう。明確なルールに基づいて、解禁する基準などを整理してほしい。

コロナ対策に追われているとはいえ、菅総理には国家像が見えなかった。自民党の総裁選を取材していても、結局、何をしたいのかよく分からなかった。番組では青山氏から「携帯電話の引き下げが一国の首相が、総裁選で語ることなのか」という指摘があったが、私も同感だ。少子化が進み、GDPは下がる課題先進国の日本でどんな国を作っていきたいのか、それが見える人が首相になってほしい。そして、政治に、日本の未来に希望を持ちたい。

歴代政権の課題とされた情報公開については、とにかく、説明する。意思決定のプロセスを明確にし、後世からも検証できるようにする。議事録を残す、会議を公開する。メディアも検証できるようにしなければいけない。
改革派で若手の河野太郎氏には期待感があるもののtwitterでブロックしたり、記者の質問に全く答えず「次の質問どうぞ」と無視し続けたりしたこともある人だ。対話ができる。そのような人に首相になってほしい。

     ◇

〈青山和弘(あおやま・かずひろ)〉政治ジャーナリスト・元日本テレビ解説委員官邸キャップ

〈鮫島浩(さめじま・ひろし)〉政治ジャーナリスト・元朝日新聞政治部デスク

鮫島浩氏(左)、青山和弘氏(右)
鮫島浩氏(左)、青山和弘氏(右)
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