連載
#21 SDGs最初の一歩
きれいごとじゃないSDGs エアビー、難民に住居提供で〝株価急騰〟
〝もうけ〟のためにも向き合う社会問題
慈善活動を儲けのためにするなんて……。そんな常識がアップデートされつつあります。社会問題に向き合わないと、企業活動に参加する資格すらもらえなくなる時代。一方で、見せかけの活動はすぐに見抜かれます。企業に求められる新たな役割と、多様化する消費者のニーズ、コロナのような予想できないリスクに立ち向かうためには何が必要か。ぶれない企業理念の大切さから考えます。
奥山晶二郎(おくやま・しょうじろう)
2021年8月24日、Airbnb(エアビーアンドビー)が、アフガニスタン難民に住居を提供すると発表すると、その後、株価が10%急騰しました。
Starting today, Airbnb will begin housing 20,000 Afghan refugees globally for free.
— Brian Chesky (@bchesky) August 24, 2021
近年、環境保護や社会問題の解決につながるESG(環境・社会・ガバナンス)投資が注目されています。難民への住居提供は、民泊仲介サービスという新しい市場を切り開いたAirbnbならではの活動として、市場に評価されました。
従来の〝儲け至上主義〟ではなく、持続可能な社会を目指すSDGsの考えが企業活動にも不可欠になった時代。見せかけのSDGsを批判する「SDGsウォッシュ」という言葉が生まれるなど、企業の姿勢はこれまで以上に注視されています。
ヘアケア商品「パンテーン」は2020年、「#PrideHair この髪が私です。」というテーマを掲げ、トランスジェンダーの当事者が就職活動で髪形や服装に悩む姿をCMとして伝えました。
アウトドアブランドのパタゴニアは、2011年11月25日、ニューヨーク・タイムズ紙に「Don't Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という広告を出しました。掲載した日は「ブラックフライデー」と呼ばれる大型セールの時期です。環境保護を第一に掲げるパタゴニアは、過剰な購買をあおることに警鐘を鳴らしました。
これらの活動は、どれも、その会社の「企業理念」から生まれています。逆に、全然関係のない企業が同じことに取り組んでもそれほどの効果は見込めないばかりか、下手をすると「SDGsウォッシュ」として非難されるリスクも出てくるでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、外食産業が大打撃を受ける中、居酒屋の鳥貴族ホールディングス(HD)は2021年8月、「トリキバーガー」を東京・大井町に出店しました。
少人数で店をまわせて、手軽に持ち帰ってもらえるハンバーガーは、多くの外食チェーンが参入しています。そんな中で、2021年3月5日に発表した中期経営計画(2021年8月~2024年7月)で、「10年後の目指す姿」として「グローバルチキンフードカンパニー」を掲げていました。
均一価格の焼き鳥に特化することで、居酒屋業界で独自のポジションを築いたのが鳥貴族です。一方、居酒屋というフィールドにとどまる限り、コロナ禍のような変化には対応しにくくなります。
そこで掲げたのが、居酒屋にも「バーガー」にも共通する理念「チキンフード」という看板でした。
感染症のリスクは今後も減らないことから、「withコロナの時代」とも言われています。その時、必要なのは変化に対応できる土台の強さです。
個別の商品やサービスに固執していては、外部環境の変化から取り残されます。かといって、短期的な利益狙いで〝本業〟ではないフィールドへ安易に参入する姿勢は、消費者から見抜かれます。
ここで大事になるのが、原点である「企業理念」だと言えます。
変化への対応で威力を発揮する「企業理念」。新しいことにチャレンジする際、そもそもの本業は何かという原点が大事になる構図は、SDGsへの取り組みにも重なります。
環境や社会に配慮したものを大切にする「エシカル」の考えを就職に取り込む活動をしている勝見仁泰さんは次のように警鐘を鳴らします。
ECサイトを使えば、価格の比較は瞬時にできてしまいます。消費者のニーズは今後、ますます多様化していき、個別の機能だけで勝負しようとすればすぐに飽きられます。
逆に、値段だけではない価値を持っていれば、希少性が高まり、お金を払ってくれる顧客が、企業理念における〝同志〟のような存在になってくれることもあります。
SDGsへの関心の高まりと、コロナという世界的なリスクは、異なる視点から、これからの企業が生き残るためのヒントを提示したと言えそうです。
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