連載
#11 #今さら聞けない子どもの安全
子どものコロナ感染「治ったんだから…」は禁物 無視できない後遺症
「子どもは重症化しない」わけじゃない
子どもにも感染が広がる新型コロナウイルスの変異株がまん延する中、多くの学校で新学期が始まりました。誰が感染してもおかしくない中、SNSで疑問や困り事を募って取材する朝日新聞の企画「#ニュース4U」には、子どもが感染したという保護者から「無症状だったから一安心」といった声も寄せられています。
一方、新型コロナの後遺症患者を診てきたヒラハタクリニック(東京都)の平畑光一院長(43)は「無症状でも無理はさせないで」と警鐘を鳴らしています。(朝日新聞記者・山根久美子)
――ヒラハタクリニックは昨年3月、国内で感染が広がり始めたころにいち早く「コロナ後遺症外来」を設置しました。
治ったのに体がだるい、痛みがある、熱が続くと訴える患者さんを2300人以上診察してきました。なぜ後遺症が出るのか。自分の免疫で自分を攻撃してしまう「自己免疫」が有力視されていますが、詳しいことは研究途上でわかりません。患者さんの病状を聞いて、対症療法で症状を改善させています。
平畑光一さん (ひらはた・こういち) 山形大学医学部卒業。東邦大学大橋病院消化器内科で大腸カメラ挿入時の疼痛、胃酸逆流に伴う症状などについて研究。胃腸疾患のほか膵炎など消化器全般の診療に携わった。2008年7月からヒラハタクリニック院長。
――20歳未満の子どもで後遺症を訴えるケースはあるのですか。
これまで100人以上の子どもを診察してきました。感染した時は軽症や無症状でも、その後重い後遺症に悩む子どももいます。
20歳未満の子どもだと、強いだるさや気分の落ち込み、体の痛みを訴えるケースが多いです。時々あるのは、「動きたくない」「疲れたから寝ていたい」と子どもが訴えるのを、感染症でずっと寝ていたから体力が落ちているだけだと勘違いするケース。「治ったんだから運動しないと元気にならない」と無理に動き回らせるのは禁物です。
運動して体力が戻るなら良いのですが、コロナの後遺症の場合、無理して動いて更に寝込んでしまうケースも少なくありません。例えお子さんが無症状だったとしても、その後、体のだるさを訴え続ける場合は後遺症の可能性があります。他に息苦しさや不眠、発熱を訴える子どももいます。
――変異株の流行で、後遺症に違いはありますか。
クリニックでは変異株かどうかは確認していませんが、患者さんが訴える症状は1年前と今とで大きな変化はありません。大人も含めると動悸や食欲不振、脱毛、味覚や嗅覚の障害を訴える人が多いです。
子どもの後遺症を診察していて心が痛むのは、「子どもはコロナに感染しても重症化しないから心配しすぎないで良い」という意見を耳にすることです。あくまで私が診察したケースで、必ずしも後遺症かどうかは定かではありませんが、クリニックで統計を取り始めた昨年11月~今年8月中旬、診察した10代95人のうち44人は寝たきりに近い状態になりました。症状が続く期間は人それぞれですが、1年以上続く人もいます。
運動部に所属し、全国大会で活躍していた子が後遺症で部活動ができなくなったケースがあります。部活動で大学に推薦入学するつもりだったのが、進路を変更せざるを得なくなりました。強いだるさで通学が難しくなり、高校受験のタイミングで通信制に進学した子もいまます。大人でも後遺症を理由に休職や退職、廃業を選択せざるを得なかったという人もいます。後遺症についてはわからないことが多く、国でも研究が始まったばかりですが、注意してほしいのは、感染症自体は軽症や無症状でも後遺症を発症するケースがあるということです。感染しても命に関わらなければ大丈夫とは思わないでください。
特に子どもの後遺症について手薄だなと感じるのは、後遺症で学校に行けていない子たちへの対処です。病欠扱いなのか。出席停止なのか。国もガイドラインを示していますが、現場でどこまで共有されているのか疑問です。校長の判断次第で卒業が難しくなる子もいます。体がだるくて登校できなくても、オンラインで授業参加できるようにするなどの救済策も必要になってくると思います。
重症化しやすい高齢者への対策が優先されてきましたが、コロナ禍が長引くいま、子どもの感染防止や後遺症への対応について、議論が必要です。
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