連載
#61 夜廻り猫
言われなくても「自助」してる、空腹を我慢…夜廻り猫が描く助け合い
夏休みが始まる時、男の子がもらった4本入りのソーセージ。「ふだんは食べない」と決めている大切なものを、「今、むいてやるからな」と子猫に分け与えて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「心の支え」を描きました。
心の涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵は、きょうも夜の街を回っていました。すると男の子が「あ!猫!」と遠藤たちに気づきます。
男の子はいったん家に戻り、箱を手にして走ってきました。「これ、今むいてやるからな!」。子猫の重郎は「そーせーじ!」と喜びます。
「うま うま」と重郎がおいしそうに食べる様子を、にこにこと見つめる男の子。
遠藤が「おまいさんの分は?」と尋ねると、男の子は「あと1本ある! 夏休みになるときもらったんだ ふだんは絶対食べない」と言います。
「食べたいけどがまん 食べ物持っていたいから」
遠藤は「心の支えになるよな」とうなずきながら聞きます。
手を振って帰ってゆく男の子を見送った遠藤は、「あの子は我々に腹が減っているか聞かなかった。減ってるに決まってると知ってるんだ。なぜなら自分がそうだから……」と心配するのでした。
おなかが空いているのを我慢して、魚肉ソーセージを猫に分け与える……そんな子どもを描いた作者の深谷さんは、コロナ禍で苦しむ人を心配します。
「食べ物にも事欠く人が増えています。こんなときに『自助・共助・公助』という標語を、国民の代表である政治家から言われたくないと思いました」と振り返ります。
みんな言われずとも「自助」をしているし、「共助」はアテにするものではない――。
「困ったときはお互い様」という「助け合い」はもちろんよいことですが、それは助け〝合い〟ができればこそ。
深谷さんは「社会福祉のシステムを作らなくてもいいということにはなりません」と指摘します。
「『生きられるかどうか』を支援団体やボランティアの好意に頼らなければならない立場は、支援者との上下関係を感じさせられることにもなりかねません。困ったときに安心して頼れる『公』の支援システムが必要だと思います」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本7巻(講談社)が2020年12月23日に発売された。
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