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マンガ

海外で受けた家族の訃報 涙が出るほどうれしかった帰国便での気配り

「『思いやり』受け取るタイミング任せてくれた」

「海外旅行中に大切な家族が亡くなったと連絡を受けた日のわたくしの話」 Ⓒ御前モカ(秋田書店)2021
「海外旅行中に大切な家族が亡くなったと連絡を受けた日のわたくしの話」 Ⓒ御前モカ(秋田書店)2021 出典: 御前モカさん(@Babylion_110)のツイッター

目次

母国を離れているときに、急に届いた大切な人の訃報――。飛行機の乗客の中には、さまざまな思いを抱えながら長旅に臨む人もいます。

そんな時、客室乗務員(クルー)に受けた思わぬ気遣いを描いた漫画が話題になっています。作者に話を聞きました。

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「同情されたくない」

話題になったのは、漫画家の御前モカさん(Babylion_110)が投稿した作品です。
「海外旅行中に大切な家族が亡くなったと連絡を受けた日のわたくしの話」 Ⓒ御前モカ(秋田書店)2021
「海外旅行中に大切な家族が亡くなったと連絡を受けた日のわたくしの話」 Ⓒ御前モカ(秋田書店)2021

学生だった「私(わたくし)」が海外旅行中に受けた家族の訃報。

急きょ、帰国するために便を手配してもらい、空港へ急ぎました。

元気だった家族が、なぜ亡くなったのか。なぜ昨日「着いたよ」と連絡をしなかったのか。

空港への道中も、涙が止まりませんでした。

航空会社のカウンターに着くと、お悔やみの言葉をかけてくれ、一番最初に搭乗させてもらいました。席は2人並びの席で、隣は空けてありました。


でも、搭乗するときは「同情されたくない」と顔を伏せ、食事と飲み物はいらないとクルーに伝えました。心の余裕がなく、話しかけられたくありませんでした。

すべて夢だったらいい……泣きながら眠りました。しばらくして、ふと隣の空席のテーブルの上に、飲み物が入ったカップが置いてあるのに気づきました。

カップに触れると、「あたたかい」。

でも、口をつける気にはならず、また眠りました。

それからまた、数時間が経ちました。目を開けると、隣のテーブルにはまだカップが置いてありました。

でも、さっき見た時から時間が経っているのに、まだ湯気が出ている……。

思わず手に取り、そっとすすりました。

あたたかくて、甘いミルクティーでした。

ふと、空腹を感じました。

「あの……おなかがすきました」

おずおずとクルーに声を掛けると、待機していたクルーたちは、ただほほえんで、食べ物や毛布を運んできてくれるのでした。

「海外旅行中に大切な家族が亡くなったと連絡を受けた日のわたくしの話」 Ⓒ御前モカ(秋田書店)2021
「海外旅行中に大切な家族が亡くなったと連絡を受けた日のわたくしの話」 Ⓒ御前モカ(秋田書店)2021 出典:御前モカさん(@Babylion_110)のツイッター

「ずっと心に残っています」

この作品は3万件以上のいいねがつきました。また、悲しみとともに飛行機に搭乗した経験のある人から「自分のことかと思った」と、当時、触れた機内のあたたかいサービスについての体験談が寄せられました。

「家族の訃報を受け、機内で涙が止まらなかった私に、CAさんたちがそっとひざ掛けやおしぼりを持ってきてくれて、何度も気にかけて下さったことを、数十年経っても覚えています」

「次男のお骨を抱いて搭乗した時、長男におもちゃを渡すのと同時に、『下のお子さまにもどうぞ』とおもちゃをくれた優しさが、ずっと心に残っています」

「家出から連れ戻される時、泥のように眠っていたら、目の前の机に山のように飴が置いてあった。あの優しさがなければ今生きていなかったかもしれない」

「父が失踪し、突然、留学を止めて帰国することになった。一番最後に機内に搭乗したら、クルーが強く抱きしめてくれて、号泣したのを思い出した」

難しい対応だったはず

作家の御前さんは、もともとCAとしてキャリアを重ねた後、漫画家になりました。

今回、ツイッターで投稿した作品は、御前さんが航空会社の事情を描いた連載「CREWでございます!」(秋田書店のマンガクロスで連載中)に掲載したエピソードの一つだそうです。

御前さんは、メールでコメントを寄せてくれました。

クルーとしての経験を経て、当時のことを振り返ると、さまざまなことに気づくと言います。

搭乗した時は、誰にも話しかけられたくなくて、飲食の提供も断っていました。

御前さんは「悲しみで、他の方へ配慮出来る余裕がない状態をそのまま受け入れてくださり、ですが気にかけてくださっていた。思いやりを受け取るタイミングもわたくしに任せてくださった。そのことがとてもありがたかったのですが、CREW(クルー)としては非常に悩まれ、難しい対応だったであろうと考えております」と振り返ります。

数時間経っても湯気を上げているミルクティーは、まさに「思いやり」を受け取るタイミングを乗客に任せるための、二重三重の配慮を感じた場面でした。

「暖かい飲み物を寝ている間に放置することは、寝ぼけてこぼした際、火傷につながる恐れもありますから、恐らく、そうはならないようずっと気にかけて見守ってくださっていたのだと思います」

マニュアルはなくても

航空会社の事情に詳しい御前さん。ツイッターでもさまざまなクルーの「神対応」が寄せられましたが、こうした状況に対応するためのマニュアルなどがあるのでしょうか?

「このような場合のマニュアルはありません。ただ、CREWが『お客様』として受けたサービスの体験談、会社へのお客様からのお言葉などは共有され、そこから学びを得て自分の引き出しとすることができます」


その中で、御前さんがクルーだった時に心がけ、同乗するクルー仲間たちにもお願いしていたことがあるそうです。

「お客様のご様子は小さなことでも、CREW全員で共有し合うことです。それぞれが持っていた情報、印象を集めることで、どのように接することがその方に心安らかにお過ごしいただけるか、案を出し合い、熟考していました」

「悲しいお気持ちを抱えながらご搭乗なさるお客様は多くおります。全ての方に寄り添えたとは思えませんが、全ての方へ皆で気持ちを込めて対応させていただきました」

「引き出し」となれるように

今回のエピソードについては、「航空会社の優しさをお伝えしたかった」とツイッターに投稿した御前さん。「このようなことは、国、会社問わずあり、お客様の悲しみに気持ちを寄せるCREWの姿は万国共通だとわたくしは思っております」と言います。

投稿には、現役のクルーたちからも「さらにお客様に寄り添えるようになりたい」との感想などがあり、「現場を離れても漫画で経験の継承が出来たような感覚を覚え、大変嬉しく思いました」と話しました。

読者に伝えたかったことを聞くと「作中のように万が一緊急帰国の必要が発生した場合、航空会社へご事情をお話してみていただきたいと思っております」と話しました。そして、言葉を続けました。

「CREWになった後、お客様にはそれぞれの人生があり、それぞれの用途で飛行機にお乗りいただいていて、それぞれのお気持ちがあることを忘れてはいけないと教えられました。

機内での主役はあくまでもお客様おひとりおひとりで、皆様に安全に安心してお乗りいただくために、CREWはご一緒しているのだということもお伝えしたいことでした」

  ◆

Twitterで紹介したエピソードは発売中の「CREWでございます!負けるな!航空業界!」に掲載されています。
御前さんのアカウントはこちら→ @Babylion_110

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