連載
#10 #今さら聞けない子どもの安全
「誰かが子どもを見ているだろう」そんなわけない川の事故防ぐには?
実は6割が「グループ行動」で発生
水遊びの季節、注意して欲しいのが、海やプールと違って監視員のいない、川の事故です。事故の半数以上が「グループ行動」で起きているという事実。「誰かが子どもを見ているだろう」が通用しない対策について、専門家の話を聞きました。
夏本番となり、水遊びがしたい時期ですが、思わぬ場面で川の事故に遭う可能性は実はあります。
子どもの事故予防に取り組むNPO法人Safe Kids Japanなど、専門家が有志で集まった「川の事故予防プロジェクト」は5月末、川の事故を防止するための啓発動画を配信しました。毎年のように、川に落とした物を拾おうとして事故が起きているからです。
今年の4月も、小学生がサンダルを拾おうとして亡くなり、さらに助けようと飛び込んだ男性も亡くなった事故がありました。
動画内では注意するポイントを紹介しています。
(1)脱げやすい靴は履かない。出かける前にかかとが浮いていないかチェック
(2)サンダルを落としてしまっても拾わない「サンダルバイバイ」を励行
(3)溺れている人を助けようと飛び込まない。まず119番通報を
水辺での事故を防ぐために、啓蒙活動をしているNPO法人AQUA kids safety projectのすがわらえみさんは「サンダルバイバイ!」というキャッチフレーズを提案し、物を落としても絶対に川に入らないことを、講習会で伝えています。さらに、今年7月22日の海の日には、「サンダルバイバイ」のキーワードを子供たちが覚えやすいように考案した歌を、You Tubeで配信しました。すがわらさんは「子どもは、靴を無くして親に叱られることや、お気に入りの靴を無くしてしまうことを恐れて、拾おうとするかもしれません。それを防ぐためには分かりやすい合言葉を親子で共有することが大切です」と話します。
河川に関する調査・研究をする河川財団が、2003~19年に海やプール以外の川、湖、用水路などで起こった全国の3018件の事故を分析したところ、被害者は計4580人で、59%が死亡・行方不明。発生場所の78%が河川でした。
川の恐ろしさは何でしょうか。AQUA kids safety projectのすがわらさんは、川と海を比べてみると、危険なポイントがよく分かると言います。
「まず、海と違って、監視員やライフセーバーがいません。川では、自由に遊べる分、安全に対する責任も本人にゆだねられてしまっています。ところが、子どもに教えなければならない立場の大人が正しい安全対策について教育を受けていないことが多いのです」
学校では、着衣水泳を習っていますが、油断はできないと言います。
「学校で習う着衣水泳は、プールで行いますが、実際に溺れた場合と環境が違うので、参考にならないこともあります。実際は急な流れがあり、波も立っています。自力で泳ぐのはほとんど不可能と考えてください」
さらに、盲点は川は体が浮きにくいということです。すがわらさんは「川は淡水なので、海水よりも浮かないので注意してください」と言います。
川で事故に遭わないために、まず必要なことは何でしょうか。見逃しがちなのは、「天気」です。
すがわらさんは「今いるところが晴れていたとしても、上流から、雨が降っていたら、下流の水量は時間差で増えるので危険です」と強調します。
川の近くに行くときには、必ず携帯などでも調べられる「雨雲レーダー」を逐一チェックすることが必要です。
「おすすめは、子どもたちに、『お天気係』として、任せてみると、楽しく準備もできます。アラームなどを使い、お天気チェックするタイミングをみんなに知らせる係です。その後、大人と一緒にお天気をチェックしましょう。子どもたちが使命感も感じて、安全対策を学ぶきっかけを作ることができます」
実は、川の事故は大人数の団体行動のとき、起きやすく、河川財団の調査によると、6割はグループで行動しているときに起きているそうです。「子どもを誰かが見ている」と、大人が油断してしまうのが逆に危険なのです。
コロナ下で、屋外でのレジャーを楽しむ人が増え、川辺で複数の家族でバーベキューをする機会もあります。すがわらさんは「お肉を焼いたり、何かを作業しながら子どもを遠目からみていると、注意が散漫になってしまいます。必ず役割分担を決めて、事前に作戦会議をし、『子どもの面倒を見る係』を作ってください」と言います。
また、子どもが川に入る場合は必ずマンツーマンで見なければいけないと訴えます。
「目視ではなく、必ず先に大人が(水中に入って)確認をしてください。目では分からないところで急に深くなっていたり、足元が滑ったりするところがあるのです」
注意して欲しいのは、お酒を飲んでしまったときです。
「お酒を飲んだら必ず他の大人に子どもを見る係をバトンタッチしてください。飲んでいると気持ちが大きくなり、注意が散漫になりがちです。自分は大丈夫、と油断はしないで欲しい」
人はおぼれてしまうと、体の2%しか水面に出すことができません。ライフジャケットの着用は生存率を格段に上げます。
また、おぼれそうになったとき、空中に手を出して「助けて」と言ってしまうと、手が出ている分、顔が沈んでしまいます。体を横にして、顔が上になるように浮くと、息が吸えます。
おぼれた人を助けるために、近くにあるペットボトルなどのものを投げ入れる方法もありますが、川の流れもあり、命中させるのは難しいといいます。救助用に投げやすくなっている「スローロープ」があるので、用意することをすすめています。
備えは大切です。最後に、すがわらさんに川の近くに行くときの服装や持ち物を聞きました。
・ライフジャケット(川の近くに行くときは、人数分を必ず)
・アクアシューズ(靴底が滑りにくく、脱げにくい)
・水分(意外と水温は冷たいもの。温かい飲み物も)
・スポーツドリンク(熱中症予防に)
・日よけパーカー(熱中症予防)
・溺れた人を助けるロープと2ℓのペットボトルまたは、専用のスローロープ。
人はおぼれてしまうと、体の2%しか水面に出すことができません。ライフジャケットの着用は生存率を格段に上げます。
また、おぼれそうになったとき、空中に手を出して「助けて」と言ってしまうと、手が出ている分、顔が沈んでしまいます。体を横にして、顔が上になるように浮くと、息が吸えます。
おぼれた人を助けるために、近くにあるペットボトルなどのものを投げ入れる方法もありますが、川の流れもあり、命中させるのは難しいといいます。救助用に投げやすくなっている「スローロープ」があるので、用意することをすすめています。
すがわらさんが大事しているのは「時を戻そう」という考え方です。
(1)溺れてしまったとき
(2)溺れかけているとき
(3)溺れる前にできること
これらの3段階に分けて、それぞれの段階でできる対策を分かりやすく図にまとめて紹介しています。
「溺れてしまってからでは救助が難しいのです。事前に準備さかのぼって、川に行く前から準備することが大切なのです」
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