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お金と仕事

マイナーすぎて試合もできない…19歳で女子アメフトに飛び込んだ理由

2度の挫折、〝引退後〟も見すえた戦略

大阪を拠点とする「F.F.LANGULLS」でプレーをする吉田さん=本人提供
大阪を拠点とする「F.F.LANGULLS」でプレーをする吉田さん=本人提供

目次

女子アメリカンフットボール選手のプロを目指し、吉田未央さん(25)は本場アメリカへの挑戦に向けて準備をしています。現在、週2回のアルバイトと、これまでの貯金で生計を立てる日々。女子アメフトは国内ではマイナースポーツのため、競技場所を探すだけでも苦労するのが現実です。競技人口が少なすぎて「対抗戦」すらできない種目をなぜ選んだのか。〝引退後〟のセカンドキャリアは? 吉田さんに、アスリートとして、そして一社会人としての戦略を聞きました。(聞き手・小野ヒデコ)

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吉田未央(よしだ・みお)
1995年北海道生まれ。高校卒業後、都内のスポーツトレーナーの専門学校へ進学。2015年からアメフトを始める。2018年から2021年2月まで愛知県の部品メーカーで働くかたわら、女子アメフトチームの「Tokyo BLAZE」(東京)や「F.F.LANGULLS」(大阪)にて活動。将来、米女子アメフトプロリーグでのプレーを目標にしている。
 
女子アメフト選手の吉田未央さん。今年、米国女子アメフトリーグへの挑戦を目指す
女子アメフト選手の吉田未央さん。今年、米国女子アメフトリーグへの挑戦を目指す

自分の夢を2回あきらめてきた

私は北海道で生まれ育ち、幼少期から、バスケットボール、野球、スノーホッケー(雪上でするホッケー)、スキー、スノーボードなどのスポーツをしてきました。体を動かすのは好きで、運動センスもあったため、「スポーツで生きていこう」と思っていました。

その中でも特に好きだったのはバスケットでした。将来はバスケット選手になることも視野に入れ、高校進学は道内のバスケ強豪校への進学を試みるも、家庭の事情でその希望は叶わず。強いチームでプレーをしないと意味がないと思っていたため、バスケで食べていく夢はあきらめました。

スポーツ選手になるのは難しいかもしれない。そこで、他にスポーツに携わる仕事を考えた時、スポーツトレーナーという職業に興味がわきました。心機一転、スポーツチームやクラブに帯同するトレーナーを目指し、高校卒業後は東京の専門学校へ入学。でも現実は、そう甘くはありませんでした。

就職の際に幾度となく見た「男性トレーナー募集」の文言。手の大きさや力の入れ具合は男性トレーナーの方が優位なせいか、スポーツトレーナーとしての女性の需要がほとんどない現実を目の当たりにしました。専門学校卒業後、ジムに就職するも、3カ月で退職。自分のしたい仕事ができないことがわかり、見切りをつけたんです。女性がスポーツトレーナーにかかわる難しさを突きつけられました。

その時は悔しい気持ちがありましたが、専門学校に行ってよかったことが二つあります。一つは、在学中、アメフトチームに実習に行ったことでアメフトに出会ったこと。もう一つは、筋骨などの体の仕組みや体の動かし方についての知識を得ることができたことです。

その実習がきっかけでアメフトに興味を持ち「自分もしてみたい」と思うようになりました。そして、卒業と同時に東京でアメフトをしている女子チームに入りました。アメフトのボールは楕円形のため、ボールを投げるのにコツが必要です。私はなぜか最初からうまく投げることができ、それもアメフトにハマる要因の一つになりました。

トレーニング時の吉田さん「家族からは、小さい頃から好きなことをしろ、でも、責任は自分で取れと言われてきました」=Athlete Development Edge協力、satoko.moritsugu撮影
トレーニング時の吉田さん「家族からは、小さい頃から好きなことをしろ、でも、責任は自分で取れと言われてきました」=Athlete Development Edge協力、satoko.moritsugu撮影

米女子リーグ挑戦に向けての準備

現在、国内には女子アメフトのリーグをはじめ、クラブチームもありません。20〜30年前には、実業団チームがあったのですが、企業の経営悪化の影響もあり廃部に。かつて、実業団選手として活動していた女性たちが、週末に集まってアメフトをしているのを知ったことでそのチームに入り、アメフトを少しずつ教わっていきました。

アメフトは1チーム11人なのですが、対抗戦ができるほど女子選手の人数が集まらないのが現状です。コロナ前は、全国の女子チーム数組がグアムへ行き、グアムのチームと交流試合をする機会がありました。私は一度だけ参加をしたのですが、その時初めて11対11の「試合」を経験しました。グアムの選手は体格が大きく、体が当たった時の衝撃にひるみました。同時に、もっとアメフトを極めたいとの気持ちが大きくなりました。

「本場アメリカのリーグでプレーしたい」。そう思い始め、具体的にどうしたらいいのか調べてみたところ、アメリカの女子アメフトリーグは毎年11月にトライアウトと呼ばれる選考会を設けていること、そして、その選考会は国籍、年齢を問わず、誰でも志願は可能なことを知りました。

実力さえあれば、門戸は開かれる。やってみよう。そうして、3年ほど前から準備を始めました。まずは自分に足りないものを考えたところ、主に3点、アメフトのスキル、選考会を受けるための渡航費や滞在費などの資金、そして語学力だと思いました。

まず、収入が安定して、さらに寮で暮らせる福利厚生のある会社を探しました。その条件にかなったのは、愛知県の大手部品メーカーでした。そこで応募をしたところ、有期雇用社員として入社することができました。

アメフトの練習においては、東京と大阪にある女性チームに加え、愛知で活動する男子チームにも混ぜてもらえることになりました。愛知から大阪はそこまで離れていません。毎週土日は、練習をしに大阪へ通いました。

また語学に関しては、週1でオンラインでの英会話レッスンを受け、この2年間でヒアリング力を伸ばしました。まだ自分の言いたいことをきちんと伝えることができていないので、引き続き勉強しているところです。

現在、東京都内のスポーツ用品店内のカフェでアルバイトをしている吉田さん
現在、東京都内のスポーツ用品店内のカフェでアルバイトをしている吉田さん

「マイナースポーツならでは」の課題

本当は昨年、トライアウトに挑戦予定だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大で止むなく延期することに。

自分で情報を取りにいかないといけない中、アメフトつながりの知人から、アメリカの女子アメフトリーグで活躍された日本人女性で、現在アメリカ在住のベディ鈴木さん(鈴木弘子さん)を紹介してもらいました。

トライアウトのことなど、アメフト関係でわからないことがあるとメールでお聞きし、教えてもらっています。心強い存在です。

そして、アメリカでは来年2022年5月に女子アメフトのプロリーグが開幕予定です。チーム契約はドラフト制なので、実力が物を言います。そのため、まずは選手としての実績を作るべく、今あるアメリカの女子リーグのチームと契約することが必須です。最終的な目標は、プロのアメフト選手になること。その夢に向かって進んでいるところです。

この数年間、準備をしていますが、「マイナースポーツならでは」の課題が多々あると感じています。第一に、これまで監督やコーチに教わったことがありません。経験者の方の動きを見たり、アドバイスをもらったりしながら、体作りや試験種目の練習メニューを日々自分で考えています。

国内での女子チームの活動は限られているため、週末に男子のチームに混ぜてもらうことが多いです。体格や力が男女で異なるため、男性相手にプレーをする時は怪我をする可能性があるので、十分に気をつけています。

アメフトをする方は、平日は働いている人がほとんどです。それに、サッカーやバスケットと違って、ひとりでドリブルやリフティングの練習はできません。毎日ボールを使った練習ができないため、平日は走ることにフォーカスをしています。正しい走り方を学ぶために、プロのコーチに依頼し、走るフォームを教わることもあります。

今年11月のトライアウトでは、何チームかの選考を受ける予定です。もしどこかのチームと契約することができたら、来年早々には渡米し、来年2月からチーム練習に参加する予定です。

「平日は体作りと、試験種目『40ヤード走』(約36.5mダッシュ)の練習や、俊敏性を高めるメニューをこなしています」(吉田さん)=Athlete Development Edge協力、satoko.moritsugu撮影
「平日は体作りと、試験種目『40ヤード走』(約36.5mダッシュ)の練習や、俊敏性を高めるメニューをこなしています」(吉田さん)=Athlete Development Edge協力、satoko.moritsugu撮影

「スポーツ×子ども×海外」の事業を興したい

私の原動力は、「アメフトが好きという気持ち」と「これ以上後悔したくないという思い」です。10代の頃、夢に描いたバスケ選手にも、スポーツトレーナーにもなれませんでした。もう悔しい思いをしたくありません。そのために、今、全力でプロのアメフト選手になるべく動いています。

自分の強みは、アジリティ(機敏さ)面です。体の大きい欧米選手に比べてパワーは劣るかもしれませんが、俊敏性は負けないと自負しているので、その点で勝負していきたいと思っています。

女子プロアメフト選手になることに加えて、もう一つ夢があります。それは、自分の会社を作ること。日本の子どもたち、特に小中学生の女の子たちに、若いうちから色々な国のスポーツに触れてほしいという思いがあります。

スポーツの利点の一つは、言葉が通じなくてもコミュニケーションが取れること。その国のスポーツを経験することで、子どもの視野は広がり、その結果、異文化を受け入れることにもつながると思っています。その夢を実現するためにも、まずはアメフトで実績を作り、起業する際にはより説得力を増せたらと思っています。

私が伝たいことは「やりたいことがあればやってほしい」ということ。周りを見ていると、女性の中には結婚や出産などでライフステージが変わると、一歩を踏み出すことに怖さを感じる人が多いように感じます。失敗したら恥ずかしいなど、他人の目を意識し過ぎる面もあるかなと。

誰もが何歳になっても、やりたいことにチャレンジしてほしいし、そういう世の中であってほしいと思います。あとはもちろん、国内で女子アメフトの認知度を高めていきたいと思っています。アメフトの魅力をもっと知ってもらいたいです。

「もしトライアウトでどこからも声がかからなかったら。その時はその時で、どうしていくか考えたいと思います」(吉田さん)
「もしトライアウトでどこからも声がかからなかったら。その時はその時で、どうしていくか考えたいと思います」(吉田さん)

取材を終えて――マイナースポーツの利点

6月末の日曜日、筆者は吉田さんの元でアメフトを体験しました。場所は都内の河川敷。現在、女子アメフトチームがシーズンオフのため、吉田さんは毎週男子チームに混ざって練習をしています。

筆者はバスケットボール経験者で、球技が好きなこともあり、3、4回目でボールの投げ方のコツをつかみました。また、アメフトの動きには「型」があります。その動きはバスケットにも似通う部分があると感じましたが、「当たり」の経験は初めて。吉田さんが取材時に「男性相手にプレーをする時は気をつけないと怪我をする可能性がある」と言われていた理由がわかりました。

防具を装着させてもらい、アメフトの「当たり」を体験する筆者(左)=吉田さん撮影
防具を装着させてもらい、アメフトの「当たり」を体験する筆者(左)=吉田さん撮影

女子アメフトは国内ではマイナースポーツです。そのため、練習場所をはじめ、情報収集をひとりでしないといけません。取材を通し、吉田さんの「行動力」そして「自己管理力」の高さを感じました。

そして、以前取材をした、“マイナースポーツ”のボブスレー元日本代表の長岡千里さんとの共通点を感じました。長岡さんは現役時代、遠征費や活動費用を得るために、スポンサーへの営業を自分でしていました。誰も何もしてくれない中、ボブスレーをする環境を自分で作ってく姿勢が、現在の営業の仕事にもつながっていると話していました。

マイナースポーツだからこそぶち当たる壁がある一方、マイナースポーツ選手だからこそ身に付く自主性やコミュニケーション力もあると思います。そしてその経験やスキルは、ビジネスの世界において役立つのではと感じています。

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