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連載

#6 地デジ最前線

離島・対馬に流れ着いたICT化の波 子どもたちに起きた変化とは?

タブレットを「文房具」のように使う驚き

対馬市立南小学校の複式学級。右の学年が先生から授業を受ける一方、左の学年は児童がノートをモニターに映して、解いた課題を発表していた=いずれも筆者撮影
対馬市立南小学校の複式学級。右の学年が先生から授業を受ける一方、左の学年は児童がノートをモニターに映して、解いた課題を発表していた=いずれも筆者撮影

目次

地デジ最前線
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全国の小中学校で情報端末が児童、生徒に1人1台配備され、「GIGA スクール元年」を迎えた教育現場。授業の進め方や子どもの学習方法などについて学校が試行錯誤をするなか、離島である長崎県対馬市は3年前に端末を全小中学校32校(2018年4月時点)に配備し、先行して教育に取り入れてきました。そこで見えてきた課題や可能性について、朝日新聞対馬通信員の佐藤雄二さんが取材しました。

都市部に負けないよう環境を整備

日本の北西端で、朝鮮半島までの距離は50km、気象条件が良ければ韓国・釜山の街並みも望める対馬市。2018年度、中学生に1人1台、小学校では1クラスの授業に対応できる合計1320台のタブレット端末(iPad)を整備した。

「都市部に比べ、離島は学校までの通学環境や、文化・交流の面で不便である。都市部に負けないよう、ICT環境を整備した。子どもたちがICTを使った勉強や生活に慣れ、Society5.0の具現化に向かう社会で活躍してほしい」

比田勝尚喜市長は、よそに先駆けての導入にかけた思いをこのように語る。

対馬市の比田勝尚喜市長
対馬市の比田勝尚喜市長

資料作成、端末で完結

実際に学校現場ではどのように使われているのだろうか。

対馬市中南部にある鶏知(けち)中学校では、生徒の学習発表会に変化があった。毎年、修学旅行などの成果をもとに実施しているが、タブレット端末の導入前は、デジタルカメラで撮影した写真の取り込みなどの作業をパソコンがある教室でしかできなかった。

それが、導入後はプレゼンソフトを使った資料作成などもタブレット端末1台で完結。作業場所の制約がなくなり、準備時間を柔軟に設けることができるようになった。

中島清志校長は「導入初期は、教員の時間や労力の負担が大きくなると思うが、いったん資料を作ってしまえば過去の財産が使えるようになる。いまはその過渡期であるが、長期的に見れば指導方法の改善や働き方改革にもつながっていくのではないか」と手応えを感じている。

複式学級で効果

タブレット端末は今年度から、小学生にも1人1台配備されるようになり、教員にも端末が行き渡った。対馬市教委によると、現在では約2500台のiPadが稼働しているという。

対馬市中央部に位置する南小学校は、全校児童の数が9人。児童数が少ないため、1人の教員が2学年をひとつの教室で受け持つ複式学級での授業が行われている。

複式学級では、直接教員が指導しない「間接指導」の場面において、児童が思考途中に行き詰まり、自習が疎かになる時間が生じることや、様々な人と意見を交換する機会が少ないことが課題とされてきた。それが、タブレット端末の導入で変化が起き始めている。

複式学級での授業が行われている南小学校
複式学級での授業が行われている南小学校

教室では、担任の古藤進一教諭(48)が、5年生に小数同士の割り算を、6年生に分数のかけ算を教えていた。授業では、「直接指導」で解き方の説明をし、「間接指導」で児童が課題を解くことが、交互に行われていた。課題が与えられた児童は、問題を解き終わったらノートを端末で撮影し、画像を前のテレビ画面に送信。解いた過程を同学年のほかの児童に発表していた。

児童の理解度にばらつきがある時は、古藤教諭は解法のヒントを、解けずに困っている児童の端末にだけ配信する。対馬市のみならず、長崎の離島では児童数の減少から複式学級を採用する学校が珍しくないが、1人1端末はこれまで「児童まかせ」になりがちだった時間をサポートしていた。

モニターに映すノートをタブレット端末で撮影する児童
モニターに映すノートをタブレット端末で撮影する児童

うれしい事例も

このほかにも、音楽の歌のテストを授業中に実施するのでなく、撮影した動画を提出させ、空いた時間で別のことを教えるようにしたり、コンパスや裁縫など道具の使い方を動画で説明したり。逆上がりができない児童の動画を撮影して体育の指導に役立てるなど、これまでの授業では制約があった部分や目が行き届きづらかった部分を改善しようと試行錯誤している。

「日本語が話せない外国籍の児童がいる学校からの相談で導入した翻訳アプリにより、児童同士のコミュニケーションができるようになっただけでなく、英語の授業にも使われるといった、当初の目的とは別の教育効果につながる活用事例も生まれている」と語るのは市教委の担当者だ。

今後については、「デジタル教科書の話題も出ているが、紙でもデジタルでも対応できるよう動向を追いつつ、現場にとって利用しやすく高い教育効果が得られるあり方を考えたい」としつつ、「単にアプリに頼るのではなく、情報端末を活用することにより、情報を理解、応用する力を身につけられるようにしてほしい」と期待を込めた。

高校との接続に課題

GIGAスクール構想の前倒しで、全国で1人1台の端末配布が進む小中学校に対し、高校に目を向けると、導入時期が全国バラバラで、来年度以降という都道府県もある。

対馬市の教育現場では、小中学校への端末配布当初から「高校に上がったらどうするのか」という懸念が出ていたが、まだ対応しきれていないのが実情だ。鶏知中の中島校長は「小学校から中学校へは流れが決まっており、市が配布する端末やアプリも同じだが、高校は進学先が様々なので、緊密な連携が難しい」と話す。

さらに対馬市の中学校を卒業した生徒の3割以上が島外に進学しており、島の中だけで考えていれば済む話ではない。

対馬市がある長崎県は今年7月末までに、端末がすべての全日制と定時制の生徒に行き渡るよう進めている。県教委の岩坪正裕・高校教育課ICT教育推進室長は「小中学校での導入が前倒しされたので、高校でも端末の普及を急ぐ必要がある」と語る。

島外の学生交流で活躍

多くの離島を抱える長崎県。本土と離島との教育格差の是正という課題は高校も抱えており、GIGAスクール構想以前から、ICTを有効活用できないかということが検討されてきた。

対馬は南北に80km以上ある島でもあり、島内に県立高校は3校あるが、南部、中部、北部に1校ずつ数十km間隔で位置する。当初は教員が少ない家庭科と音楽の授業を島内の高校間でつなぐ遠隔配信が試みられた。

しかし、準備などの負担が通常の授業に比べて大きく、労力をかけるだけの教育効果にまでつながらなかったため、活用方法を見直すこととなった。代わって現在、積極的に使われているのが島外や韓国の高校、大学との遠隔授業だ。

対馬高校では文部科学省の「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」の取り組みとして、昨年度まで立命館アジア太平洋大学(APU)や韓国の釜慶大学校、佐賀県にある東明館高校などと遠隔コミュニケーションツールでつなぎ、授業や交流活動が行われた。

英語の授業を例に取ると、島にいても話す機会が日常ないので、学習意欲が上がらず成績が振るわないという状況が課題であった。英語科の教諭によると、APUの留学生とタブレット端末を介し、英語で会話する授業を定期的に実施したことにより、普段の授業の学習意欲も上がり、定期試験の成績が向上したという。

タブレット端末を介し、英語で会話する対馬高校の生徒たち
タブレット端末を介し、英語で会話する対馬高校の生徒たち

開校から116年の歴史がある対馬高校は、普通科、商業科の他に、カリキュラムに韓国語の授業が組まれている国際文化交流科(国文科)を擁する。

国文科は、「しま」の環境で学習できる長崎県の「離島留学制度」をきっかけに、普通科のコースとして発足し、入学希望者が増えたことから科に改組された。県内の他の市町だけでなく、遠くは首都圏から進学した生徒もいる。

韓国語の学習について、国文科3年の梅野純渚(せいな)さんに聞くと「授業で習った文法や単語をどのように使うのか分からない時に、遠隔授業の場で使うと、間違っているか合っているかすぐ教えてくれるので、勉強の成果を出せると思う」と返ってきた。

梅野さんは昨秋、韓国語能力試験(TOPIK)6級(最上位)に合格。「いまはコロナ禍で韓国からも人が訪れず、対馬で韓国語を使う機会がないので、遠隔授業を通して自分がどれくらいできるようになったとか、成長できたとか見られるのが良い」と前向きだ。

田川耕太郎前校長は「離島であっても最先端なものに触れ、大学教師などから講義を聞き、質問をし、対話をするといった機会を持ったことにより、自己肯定感が得られるようになったのではないか」と効果を語る。

文科省の事業は今年3月で終了した。予算との兼ね合いで今年度は同規模での遠隔授業は実施できないが、内容を絞りながらも継続する予定だ。

この他にも、昨年度のコロナ禍では、部活の対外試合が開けない中、弓道部が県立長崎東高校などと実施したオンライン対戦、ユネスコスクール部は対馬の固有種「オウゴンオニユリ」の種の保存に取り組む県立諫早農業高校と交流活動など、オンラインを通じた取り組みが行われた。

県立諫早農業高校とオンラインで交流
県立諫早農業高校とオンラインで交流

全教員がツール活用に熱心

このような新しい取り組みは、担当者をはじめとした人事異動によりしぼんでしまうことが起こりがちだ。しかし対馬高校では、異動先でも事例を広められるよう、全教員が授業に限らず様々な場面で関わるという方針のもと、遠隔ツールの活用に取り組んでいる。坂本豊樹教頭は「ある教員が、一斉休校によりオンラインで授業の配信を始めたが、試した教員がいることで、どのようにすればできるのかが分かりハードルが下がる。教員の意識が変わった」と話す。

植松信行校長は「生徒が1人1台端末を持つというのは、いままでと別のステージになる。生徒が自分たちで勉強できるような、個別最適化型の学びも実現できたらと思っている」と語った。

対馬で韓国だけでなく、日本のよその地域ともつながる学びを経験できるようになり、生徒はどのように感じているだろうか。

釜山との航路が運休する前は多くの観光客で賑わっていた対馬北部、上対馬町出身でもある梅野さんは、このように話した。「島にいたら、自分たちの中だけの考えになってしまうので、色々な人の考えや情報を聞き、自分の考えをもっと深くできるのは良いと思う。違う高校や大学とつながり、対馬に関係する日韓関係や海洋ゴミ、少子高齢化といった社会課題について、まずは自分たちが考える機会を増やし、一緒に学ぶ機会が作れたら良い」

梅野さんは現在、青年海外協力隊の活動映像に刺激を受け、韓国の大学に進学して新たな言葉を学び、別の国で韓国語か日本語を教えたいと思い、勉学に励んでいる。

最上位であるTOPIK6級の合格証を見せる梅野さん
最上位であるTOPIK6級の合格証を見せる梅野さん

タブレットは文房具

取材を通じ一番感じたことは、管理職、教員、教育委員会が「タブレット端末は文房具である」という共通認識を持っていることだった。

ICTの導入により、授業のやり方が大きく変わることに伴う労力などネガティブな点に目が行きがちだが、導入することによって効率的になることや、可能になることもたくさんある。

導入間もない現場ではデジタルの流れについていくだけでも大変だと思うが、対馬の教育現場で蓄積された試行錯誤の結果だけでも、様々な活用事例が生まれている。教員や児童、生徒が今後どのような活用法を編み出すのか興味深いところでもある。

 

日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。
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