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お金と仕事

澤穂希さんの〝後継者〟岩渕真奈選手が語った「自分らしい10番」

五輪で海外勢と対戦「そこまでの差はない」

女子サッカー選手日本代表の岩渕真奈さん。現在は、アーセナル・ウィメンFCに所属=スギゾー撮影
女子サッカー選手日本代表の岩渕真奈さん。現在は、アーセナル・ウィメンFCに所属=スギゾー撮影

目次

日焼けした肌に、短めの髪。身長156センチの細身の体格で、世界を舞台に戦うのは、女子サッカー選手の岩渕真奈さん(28)です。15歳で日本代表に選ばれ、2021年5月にはイングランドの女子サッカーリーグの強豪「アーセナル・ウィメンFC」への移籍を発表しました。東京五輪開催を控えた6月末、初の著書『明るく 自分らしく』(KADOKAWA)を上梓。タイトルにもある「自分らしく」という言葉を何回も口にする岩渕さんですが、今はチームの結果を1番に考えているそうです。7月21日に第一節を迎える中、東京五輪で澤穂希さんと同じ10番をつける意気込みを聞きました。(ライター・小野ヒデコ)

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岩渕真奈(いわぶち・まな)
1993年、東京都生まれ。イングランドのアーセナル・ウィメンFC所属。ポジションはフォワード。中学生で日テレ・メニーナに入団。2012年にドイツ・女子ブンデスリーガーのホッフェンハイムに移籍し、14年にバイエルン・ミュンヘンへ移籍。17年に帰国し、INAC神戸レオネッサへ入団。21年1月からイングランド FA Woman’s Super Leagueのアストン・ヴィラLFCへ移籍。2021-2022シーズンからアーセナル・ウィメンFCでプレー。2008年から日本代表に選出。2021年東京五輪では、エースがつける「10番」で出場予定。2021年6月に初の著書『明るく 自分らしく』(KADOKAWA)を上梓。
 

「サッカー人生において背のびはしたくない」

――今年5月、イングランドの女子サッカー1部リーグのアーセナル・ウィメンFC(以下、アーセナル)への移籍の発表がありました。決まった時の率直な感想を教えてください。

結構早い段階から、アーセナルへの移籍の話を耳にしていました。当時所属していた、アストン・ヴィラLFC(アーセナルと同じ1部リーグ所属)では物足りなさを感じていたいので、素直にうれしかったです。今回アーセナルからオファーがあったのも、アストン・ヴィラでプレーをしていた姿を見てくれた結果だと思うので、イギリスに来てよかったと思いました。アストン・ヴィラのチームメイトも「強いチームに行った方がいいよ」と言ってくれる人が多かったです。

――新しいチームでプレーをする際、監督はどういうサッカーが好きか、チームプレイヤーとの相性は合うかなど確認をされるそうですね。アーセナルは「合う」と思われたのでしょうか?

チームメイトの中には、過去にいっしょにプレーをしたことがある選手が何人かいました。
監督は最近変わったので、どんな人かまだわかっていません。でも、アーセナルという歴史あるクラブが、長年継続しているサッカーのスタイルはそんな簡単に変わらないと思っています。

――これまで何度も移籍を経験されていますが、その際に大事にされていることは何かありますか?

サッカー人生において、背のびはしたくないと思っています。いくら強かったり有名だったりするチームでも、試合に出られなかったら行きたいとは思いません。もちろんチャレンジは必要ですが、チャレンジの「幅」というのは自分の中で持っているつもりです。

あと、移籍先のチームメイトのバランスも意識しますし、何よりタイミングは重要だと思っていて。

サッカーはひとりではできません。本当に自分のことを必要としてくれるチームに行きたいと思っています。アーセナルに関しては、行きたかったチームですし、自分がチャレンジできるレベルに合っているとも思うので、良いタイミング、良い時期に、良いチームに声をかけてもらったと思いました。

2011-2012シーズンからアーセナル・ウィメンFCでプレーをすることになった岩渕選手
2011-2012シーズンからアーセナル・ウィメンFCでプレーをすることになった岩渕選手 出典: スギゾー。

視点が個人からチームへと変化

――6月30日に初めての著書『明るく 自分らしく』が出版となりました。28年間の人生を振り返る中、サッカーにおいて、視点が個人からチームに変化したことが印象的でした。

日本代表の監督が、佐々木則夫監督から、高倉麻子監督へ変わったときくらいから、少しずつ変わっていきました。若い時は、試合の結果よりも自分が良いプレーをすることの方が重要でしたが、今はチームの結果が1番だと思っています。

本を書いて良かったのは、自分自身の整理になったこと。「こうだったから、こうなった」という、これまでの出来事を振り返る一つのきっかけになりました。こうして取材の中でも、話の引き出しが増えたと感じています。

――本の中で、過去にインタビューを一切受けなかった時期があったことやその理由、周りから言われて嫌だったことなどが赤裸々に書かれていました。いわゆる“苦い思い出”について書くことに抵抗はありませんでしたか?

そういうことも含めて話して良かったと思う自分がいます。良いことも、そうでないことも話をしていますけど、書いて悪かったことはないなと思っています。

ヘディングするのに届かなくて、「あと5センチ高かったらな」と思うこともある岩渕選手。「それを、うまくいかなかったことの原因にはしないですね。その現実は変えられないし、変えられないことを言い訳にしても次に進まないと思うので」
ヘディングするのに届かなくて、「あと5センチ高かったらな」と思うこともある岩渕選手。「それを、うまくいかなかったことの原因にはしないですね。その現実は変えられないし、変えられないことを言い訳にしても次に進まないと思うので」 出典: スギゾー。
――小学校の時にサッカーを始め、当時クラブ初の女子選手となりました。周りが男の子の中に飛び込むことに抵抗はなかったのでしょうか?

サッカーをやりたかったので「男の子ばかりだからやめよう」とは思いませんでした。それ以上にサッカーが楽しかったんです。

ドリブルで人を抜くのも、点を取れるようになるのも、リフティングが何回できたとか、1回増えただけでもうれしかった。仲間といっしょに蹴るのも楽しかったですし、好きなサッカーをするのは、誰とでもいいという感じでした。

小学校の時に入っていた関前SCは良いチームでしたし、振り返ると、小学校時代から今まで、本当に人に恵まれているなと思っています。

小学校時代、「関前SC」でサッカーをしていた岩渕選手の背番号は10番だった=本人提供
小学校時代、「関前SC」でサッカーをしていた岩渕選手の背番号は10番だった=本人提供

人を嫌うことはしたくない

――これまで国内外でプレーをしてきて、多くの人と関わりを持ってこられたと思います。人とのコミュニケーションにおいて大切にされていることはありますか?

人を嫌いになったら、自分も嫌われると思っています。人間なので、「合う、合わない」はありますが、自分は人を嫌うことはしたくないなと思っています。

サッカーにおいても、プレースタイルや戦術との相性はあります。でも、人もサッカーも、相手に対して近づく努力はしているかなと思います。その中でも、「自分は自分」の感覚は大切にしています。

――「自分は自分」と思うことは簡単なようで難しいとも感じます。その性格は元々でしょうか?

昔から我は強い方だと思いますが、海外の人に触れ合った経験は大きいです。海外の生活や、海外のチームに所属することで、主張することの大切さを感じました。今までの経験があって、今の自分がいると思います。

「本が家に届いた瞬間、親同士で取り合っていましたけど、感想は聞いてないです。兄には『俺のことよく書いてくれてありがとう』って言われました(笑)」
「本が家に届いた瞬間、親同士で取り合っていましたけど、感想は聞いてないです。兄には『俺のことよく書いてくれてありがとう』って言われました(笑)」 出典: スギゾー。

弱気になることもある

――元サッカー選手の澤穂希さんは、長年エースとして活躍されていました。「澤穂希さんの後継者は岩渕選手」との声を聞くことがありますが、そのことについてどう思われますか?

率直にうれしいです。自分の中で、「目指すところは澤さんみたいな人」との理想像があるので。けど、私は澤さんを継ぐためにサッカーをしている訳ではありません。

この前、日本代表のユニフォームにおいて、10番をつけることが決まりました。10番は日本代表だった澤さんが長らくつけていた番号ですが、同じ番号を受け継ぐことに対して、そこまでプレッシャーに感じてはいません。ただ、継続して自分らしくいられたらいいなって思っています。

サッカー・国際親善試合で豪州相手に後半、岩渕選手はPKで先制点を決める=2021年7月14日、伊藤進之介撮影
サッカー・国際親善試合で豪州相手に後半、岩渕選手はPKで先制点を決める=2021年7月14日、伊藤進之介撮影
――岩渕選手は、人一倍「自分らしさ」を大切にされていると感じます。その反対に、「自分らしくないな」と思う時もあるのでしょうか?

今はないですね。今後チャレンジしなくなったり、人生でもサッカーでもゴールに向かわなくなったり、仕掛けなくなったりしたら、自分じゃないかなと思います。

――弱気になることはありますか?

ありますよ。でも、「がんばろう、サッカーしかできないし」って。結局、日々練習している中で、「今日もがんばるか」っていう気持ちにさせてくれるのもサッカーなんです。

時には練習が面倒くさくなったり、怪我をした時とかは「もうイヤだな」と思ったりすることもありますけど。サッカーを取ったら何もなくなる人間かなと思うので、「とりあえずがんばろう」って思います。

これまで幾度となくケガに泣いてきた岩渕選手。五輪に向けてのコンディションは整っていると話す
これまで幾度となくケガに泣いてきた岩渕選手。五輪に向けてのコンディションは整っていると話す 出典: スギゾー。

自分がチームを勝たせられるように

――お話を聞いていて、良い意味での「ゆるさ」、柔軟さを感じます。本の中で「サッカーをしていなかったとしても、きっと充実した時間を過ごしていると思う」と言われていたことにもつながるのではと感じました。

何やっているかとか想像つかないですけど、たぶん、そうなのだと思います。小さいころ、ピアノやバスケットボールなどをしてきましたが、サッカーが1番好きでした。たまたまサッカーと出会っただけで、もしサッカーに出会わなかったとしても、好きなことを、自由にやって、楽しくやっていると思います。

――東京五輪を目前に、日本代表選手としての立場は「ベテラン」になると思います。改めてご自身の役割をどう捉えていますか?

1番の目標は、自分が活躍し、チームが勝つことです。それを目指さないといけないですし、今はそれを目指せる場に自分がいると思っています。

長年いっしょにやってきた選手が多いので、チームメイトのことは理解はできているつもりです。日本人選手は欧米選手に比べて体格の差は確かにありますが、そこまで選手個人の差があるとは思っていません。

昔、「自分が活躍すればいいや」って思っていた時とは立場の違いはあると思っていて。理想は自分がチームを勝たせられるようになることなので、そこはしっかり目指したいなと思っています。

『明るく 自分らしく』
著者:岩渕真奈
発行:KADOKAWA
価格:1,650円(定価)

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