連載
#59 夜廻り猫
「海外、いつか行けたら…」認知症の父の世話 夜廻り猫が描く介護
若い頃から認知症の父の介護に追われ、睡眠時間は数時間。そんな男性の唯一の楽しみは――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「介護」を描きました。
「むっ…真夜中に、涙の匂い」
夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵は、父のトイレを手助けしている男性の心の涙に気づきます。
「俺が学生の時、親父が認知症になって…今、介護は一人でやってる」と話す男性。
夜はトイレの介助に何度も起きて、昼は仕事。睡眠時間は数時間といいます。「きついけど、病院も施設も金かかるし」
そんな男性の唯一の楽しみは、寝入りばなにスマホで世界地図を見ること。
「行きたい国決めて調べてると、ちょっと行った気になれる。たいていはすぐ寝落ちだけど」と話し、ぽつりと言います。
「海外、行ったことないんだ 一回でも行けたら どんなに嬉しいか」
遠藤は「人間はこんなに立派な街だって持ってるのに 誰かが犠牲にならないと 全員生きることはできないのだろうか……」とつぶやくのでした。
作者の深谷さんは「介護にはできる限りの予算を投入して、解決をはかってほしい」と訴えます。
〝人生100年時代〟ともいわれ、多くの人が「お世話する側」「お世話を必要とする側」として長い年月を過ごす可能性があります。
介護現場の人手不足や、ヤングケアラーの問題も浮き彫りになっています。
深谷さんは「自分で自分の面倒がみられなくなったとき、人よりも機械に頼みたいことはたくさんありますよね」といいます。
「自分がお世話になる側のことを想像すると、人様に入浴や排泄の介助をしてもらうのはつらいです。できるだけ多くの機械化ができないものでしょうか」と話しています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本7巻(講談社)が2020年12月23日に発売された。
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